駆逐聖姫 春雨   作:隙間風

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LAST_STAGE 優しい世界

 

 

 

「あれ?」

「どうしたの、千代田?」

 

各司令部の奮戦により成功を収めた渾作戦。

作戦終了後、ひとつの司令部に所属している千歳、千代田の軽空母姉妹は哨戒任務についていた。

周辺に索敵機を飛ばして海上を巡回していたとき、ふと首を傾げ虚空を見つめだした妹に、姉の千歳が尋ねた。

 

「あ、千歳お姉。なんか向こうの空で何か光ったような気がして」

「光? まさか敵の艦載機かしら。……気になるわね」

「うーん、でもずっと遠くのほうだったし、気のせいかもしれない」

「それが本当に気のせいでしたと安心するまでが哨戒任務よ。

 彩雲と、念のため烈風も何機か向かわせなさい。私も飛ばすから」

 

数分後。

姉妹が艦載機の目を通して見たものは、数機の敵艦載機であった。

 

「あれは……深海棲艦の戦闘機?」

「……妙ね。何で戦闘機だけで? それもたったあれだけしかいないのかしら。

 っと。とりあえず提督に連絡するわ。 千代田、貴女は撃墜しておいてちょうだい!」

「了解、お姉!」

 

 

 

 

 

それは何か奇妙な機体だった。

こちらの艦載機と遭遇しても、何の抵抗も回避行動も見せず、ただこちらの戦闘機の機銃を浴びて撃墜されていったのだ。

まるで、ただそれだけが役目、とでも言うような呆気なさだった。

 

「……本当に何がしたかったのかなぁ? 索敵……にしても逃げようともしなかったし」

 

あまりに遠く離れた場所を索敵する場合、索敵に特化した機体でもなければ母艦と情報をリンクすることはできない。

だが今堕としたのは戦闘機だった。

索敵が目的となると母艦は近くにいることになる訳だが……。

 

「……これじゃ自分は近くにいるとバラしてるようなものじゃない」

「千代田、このまま索敵機を先に向かわせるよう司令部から指示があったわ。気をつけて、何かが怪しいわ」

「う、うん! お姉も気をつけて」

 

更に数分後。

今度こそ姉妹は度肝を抜かれた。

 

「ち、千歳お姉……な、何、あれ?」

「嘘、でしょ? いったい何所にあれだけの戦力を隠していたというの……!?」

 

その先で姉妹が飛ばした彩雲たちが見たものは夥しい数の亡霊の群れ。

今回の作戦で主力艦隊が激闘の末に撃滅せしめた敵艦隊にも匹敵しうる規模の、深海棲艦の機動部隊であった。

 

「と、とにかく急いで司令部に連絡して! 私はもう少し偵察を続けてみるわ!」

「う、うん、了解!」

「……今の段階で気付けて本当に良かったわ。前の作戦の時のように肝を潰すのはもう御免だもの……うん?」

 

その時彩雲がリンクした視界にひとつの光景を映し出した。

敵艦隊の中心部。

そこには見覚えのある二体の深海棲艦が、大勢の深海棲艦に囲まれて大立ち回りを演じていた。

 

「あれは……まさか情報にあった友好的な個体?

 それにもう一体のほうは……せ、せ、戦艦レ級!?」

 

訳が分からない。

さすがに自分の裁量を大きく逸脱していると判断した千歳は、見た物を全て司令部に送り、指示を待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐聖姫 春雨

LAST STAGE 優しい世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある南西諸島のひとつ。

今回の大規模作戦のために特設した司令部には、人どころか人が暮らすための部屋や設備すらろくに存在していなかった。

その代わりに大型のサーバーや強力な無線などの通信設備が大量に設置されている。

ここを中継点として、連合艦隊は各地の鎮守府や泊地の司令官と通信することを可能としていた。

 

 

 

 

 

【戦艦棲姫さん】発動!渾作戦実況・会議スレ Part14【今回も乙っす】

 

1 名前:管理人@クソ提督

 ここは現在発動中の渾作戦について皆で語るスレです。

 会議室も兼ねているので何か相談や報告する事があったらこちらにどうぞ。

 私的な通信はメールかローカル板などを利用してください。

 皆で協力して作戦の完遂を目指しましょう!

 作戦中ゆえ乙不要です。では早速どうぞ。

 

 前スレ

 【孤独の】発動!渾作戦実況スレ Part13【ダイソン】

 

2 名前:名無しの提督さん

 今回の作戦もそろそろ終わりかね

 なんか今回はやたらあっさり片付いたな

 

3 名前:名無しの提督さん

 今回ダイソン一人で頑張ってたじゃん

 他の上位種手伝ってやれよw

 

4 名前:名無しの提督さん

 やめろよまた分身されたら困るだろw

 

5 名前:名無しの提督さん

 うちはそろそろ撤収するわ

 楽勝とはいえやっぱり資材は飛んだし

 これでこの海域も少しは大人しくなってくれるといいんだけど

 

6 名前:名無しの提督さん

 まあ何にせよみんなお疲れ様でしたー

 

7 名前:名無しのベテラン提督さん

 お前らまだ作戦が終わってもいないのに気を抜き過ぎだ

 慢心ダメ絶対!

304 名前:【緊急】

 ちょwwwwwwうちのちとちよがえらいもん撮ってきたwwwwww

 つ konopt3y01.fsv

 

305 名前:名無しの提督さん

 >>304

 ・・・なんじゃこりゃあ!?

 

306 名前:名無しの提督さん

 >>304

 おいおいおいおい、どこにこんだけ戦力隠してたんだよ

 

307 名前:名無しの提督さん

 >>304

 危うくMI作戦の二の舞になるところだったじゃねーか!?

 今回奇襲はあり得ないって聞いたんだけど?

 

308 名前:名無しの提督さん

 大丈夫?大本営の発表だよ?

 

309 名前:名無しの提督さん

 淀っちェ・・・

 

310 名前:名無しの提督さん

 >>304

 どうりで歯応えが無さすぎるとは思ってたけど・・・

 あと、大淀ちゃんは悪くないw

 

311 名前:元陸軍提督

 マジレスするがこれは自然発生ではないか?

 これだけの規模で、というのは前例が無いが……

 

312 名前:名無しの提督さん

 自然発生だろうね。マジ超ファインプレーだちとちよ姉妹

 

313 名前:名無しの提督さん

 ほんともう自然発生どうにかしないと今後もやばいぞ

 しかもこれって敵が戦術に組み込んだってことだろ?

 

314 名前:名無しの提督さん

 自然発生察知できる電探作れないの?

 

315 名前:名無しの提督さん

 開発はしてるみたいだけど難航してるっぽい

 

316 名前:名無しの提督さん

 それでも妖精さんなら何とかしてくれる

 

317 名前:名無しの提督さん

 妖精さんどうかお願いします

 

318 名前:開発命の提督さん

 羅針盤のシステム応用すれば何とかなりそう

 って工廠妖精さんが言ってたってうちの明石が言ってた

 

319 名前:名無しの提督さん

 妖精さんまじすごいです

 

320 名前:名無しの提督さん

 こういうときの妖精さんの頼もしさは異常

 

321 名前:304【緊急】

 ちょwwwwおまwwwwwtttywwwwww

 つ konopt3y02.fsv

 

322 名前:名無しの提督さん

 >>321

 ちょwwwwなんぞこれwwwww

 

323 名前:名無しの提督さん

 大天使わるさめちゃんご降臨wwwww

 

324 名前:名無しの提督さん

 草生やしてる場合じゃねーよわるさめちゃん大ピンチじゃねーか!!!!

 

325 名前:名無しの提督さん

 >>321

 なんかわるさめちゃんの隣に見えてはならないモノが見える気がするんだが

 

326 名前:名無しの提督さん

 え、これマジでレ級? え?

 

327 名前:名無しの提督さん

 うわああああああああああでたああああああああああ

 

328 名前:名無しの提督さん

 悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散

 悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散

 悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散

 

329 名前:名無しの提督さん

 あれ、意外にレ級の情報回ってないのか?

 レ級ならわるさめちゃんが改心させたらしいぞ

 

330 名前:名無しの提督さん

 あの情報マジだったのかよwwww

 いくら何でもフカシだと思ってたわwww

 てか正直今でも信じられん

 

331 名前:名無しの提督さん

 誰が信じるんだよあの怪物手懐けるとか

 しかもわるさめちゃんって元はといえば奴に沈められたんだろ?

 大天使ってレベルじゃねえぞwwww

 

332 名前:名無しの提督さん

 それはともかく、迎撃は当然として……彼女たちはどうします?

 

333 名前:名無しの提督さん

 救援以外に選択肢あんの?

 彼女が敵でない事はもう確定的に明らかだろ

 

334 名前:名無しの提督さん

 わるさめちゃんはいいとして、レ級本当に大丈夫なのかね・・・

 

335 名前:ランカー五位

 誰だ艦娘板に情報流したの

 うちのながもんが今にも飛び出していきそうなんだが

 誰か止めて

 

336 名前:ランカー九位

 お前んち大和いんだから彼女に止めさせろよw

 

337 名前:ランカー五位

 その大和も一緒に飛び出して行きそうなんですが

 

338 名前:名無しの提督さん

 てか止める必要あるの?行かせたればいいじゃん

 早く救援しないとまずいんじゃね

 

339 名前:管理人@クソ提督

 大丈夫。うちの狂犬は既に飛び出してる

 

340 名前:名無しの提督さん

 ぽいぬさんwwwまぁ、気持ちは分かるけど

 あ、管理人さんちっす

 

341 名前:名無しの提督さん

 わるさめちゃんって元は管理人さんのところの子だったんだっけ

 

342 名前:管理人@クソ提督

 うん。白露姉妹が直接本人に確認してるから間違いない

 

343 名前:ランカー五位

 んじゃ行かせてやるか

 俺もわるさめちゃんには特大の借りがあるんだし

 できたら現地でぽいぬさんと合流させるわ

 あと管理人さんちわーす

 

344 名前:名無しの提督さん

 ・・・連合艦隊とは何だったのか

 

345 名前:名無しの提督さん

 いつものことでござる

 

346 名前:ランカー九位

 でもよく見たら敵艦隊もバラッバラじゃん

 これならヒャッハー攻撃でも十分だろ

 まー制空ちょっとヤバそうだから一応うちも空母メインで支援艦隊出しとくわ

 

347 名前:元陸軍提督

 うむ。ここは巧遅よりも拙速を選択すべきだ

 私も水雷戦隊を出しておこう

 神通ちゃんも恩を返したいと言っているしな

 

348 名前:名無しの提督さん

 管理人さんとこの夕立改三

 英雄さんとこの二水戦

 ランカー二人の機動部隊

 なにこの悪夢

 

349 名前:名無しの提督さん

 救援するだけなら十分過ぎる戦力だな

 下手したら連中だけで全滅させかねんw

 

350 名前:元陸軍提督

 これなら仮に件のレ級が暴れても何とかなろう

 それでは状況が動くまでは待つとしようか

 しかし何故ここまで敵の統率が乱れているのかが気になるが

 

351 名前:元社蓄の提督さん

 すまん、私は通達された情報でしか知らんのだが、

 本当に助けたりして大丈夫なのかね?

 深海棲艦ではあるのだろう?しかもあの戦艦レ級までいるではないか

 

352 名前:名無しの提督さん

 >>351

 おっさん久しぶりー

 レ級はわからんが、わるさめちゃんに関しては絶対大丈夫

 大本営すら黙認してるレベルだぞ。ちなみに公認まであと一歩

 

353 名前:名無しの提督さん

 >>351

 おっさん相変わらず司令部に缶詰なのか?たまには町に出ろし

 わるさめちゃんに関しては一般人でも知ってるぞ

 あ、管理人さんも公認確定おめー

 

354 名前:名無しの提督さん

 ちなみにわるさめちゃんに関しての参考スレはこのあたり↓

 

 【悲劇の】わるさめちゃんについて語るスレPart65【ヒーロー】

 わるさめちゃんに助けられた提督何か書いてけ

 わるさめちゃんprprで1000埋めるスレPart108

 

 艦娘板にもあるらしいけどなりすましで行くなら自己責任で

 

355 名前:名無しの提督さん

 そっちのスレでは某狂犬が暴れて何度も規制喰らったらしいな

 うちの秘書艦が言ってた

 

356 名前:名無しの提督さん

 まぁ、気持ちはわかるが・・・w

 

357 名前:元社蓄の提督さん

 おk把握した。大本営はともかく皆がそう言うのなら信じましょう

 ところで艦娘板というものもあったのか。少々興味を引かれますな

 

358 名前:名無しの提督さん

 やめとけ

 

359 名前:名無しの提督さん

 やめとけ

 

360 名前:ランカー五位

 やめとけ

 

361 名前:名無しの提督さん

 やめとけマジで

 

362 名前:名無しの提督さん

 興味本位で覗かないほうがいい。軽くトラウマになるぞ

 

363 名前:元社蓄の提督さん

 なにそれこわい

 ……いや、少し大袈裟すぎるのではないかね

 板というからには大体ここと似たような場所なのだろう?

 

364 名前:名無しの提督さん

 だからだよw

 ここのprprスレやおにぎりスレを駆逐艦が見たらどう反応するか想像してみろ

 

365 名前:名無しの提督さん

 ……ふぅ

 

366 名前:元陸軍提督

 ……ふぅ

 

367 名前:名無しの提督さん

 ……ふぅ

 

368 名前:名無しの提督さん

 憲兵さんこいつらです

 

369 名前:名無しの提督さん

 >>364

 なんで駆逐艦に限定する必要があるんですかねぇ・・・

 

370 名前:名無しの提督さん

 >>366

 おい英雄wwwww

 

371 名前:名無しの提督さん

 >>366

 英雄自重しろwwww

 

372 名前:元社蓄の提督さん

 おk把握。作戦終わったらちょっと行ってきます!

 

373 名前:名無しの提督さん

 その後彼の姿を見たものはいなかった……

 

374 名前:名無しの提督さん

 掛け算スレにだけは行くなよ!?フリじゃないからな!

 

375 名前:304

 あれ、みんなもう救援出しちゃった?

 ならよかった。のか?

 

376 名前:名無しの提督さん

 ちとちよの提督さんか?どうした

 

377 名前:304

 あーうん、今さっきちとちよから聞いたんだけど

 二人が自然発生に気付いたのってそもそも、

 その方角から敵の戦闘機が飛んできたからなんだと

 

378 名前:名無しの提督さん

 戦闘機? 敵が索敵に失敗したってことか?

 だったら随分間抜けな話だが・・・

 

379 名前:304

 たったの二、三機。しかも真っ直ぐ無防備に飛んできて

 一切抵抗せずに撃墜されたそうだ

 

380 名前:名無しの提督さん

 ???

 つまりどういうことよ?

 

381 名前:名無しの提督さん

 ええと、いや、まさか・・・

 

382 名前:304

 ・・・レ級って艦載機も飛ばせるよね?

 

383 名前:名無しの提督さん

 おい……おい

 

384 名前:名無しの提督さん

 レ級がここまで飛ばしたってこと?

 わけわからん。何のためにだよ

 

385 名前:元陸軍提督

 つまりはこういう事かね?

 深海棲艦の大艦隊が出現した事を我々に知らせる為にレ級が艦載機を差し向けたと

 そして何故か共に行動しているわるさめちゃんと今現在決死の足止めを行っていると

 我々は危機に気付けたのではなくまたしてもわるさめちゃんに助けられたのだと

 

386 名前:名無しの提督さん

 ・・・俺ちょっと第一艦隊にアイス食わせてくる

 

387 名前:名無しの提督さん

 俺は潜水艦隊向かわせるわ

 なんか珍しくうちのでち公がやる気出してるし

 

388 名前:名無しの提督さん

 うちは電ちゃんたちがヒートアップしてる

 誰かうちの第六駆逐隊と連合組まない?錬度は保証する

 

389 名前:名無しの提督さん

 じゃうちの二航戦と組もうぜ

 今宵の多聞丸は血に飢えておるわ・・・

 

390 名前:名無しの提督さん

 何故か俺まで付き合わされた地獄のトレーニングにより

 超絶強化を果たしたうちの天龍幼稚園にかなう水雷戦隊なんているの?

 

391 名前:名無しの提督さん

 あ?私の睦月型は東京急行成功率9割超ですが何か?

 

392 名前:管理人@クソ提督

 皆さん……うちの子のために本当にありがとうございます!

 

393 名前:名無しの提督さん

 か、勘違いしないでよ!管理人さんのためじゃないんだからね!

 わるさめちゃんのためなんだから!

 いや割とマジで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫ですか、レ級?」

『ウン、マダ何トカ』

 

レ級は気丈に答えてくれますが、既に私も彼女も中破相当の損傷を負っています。

レ級の航空戦力がまだ辛うじて生きているため、まだ押し切られずにすんでいます。

しかし相手も空母の上位種、さすがにもう長くは保たないでしょう。

 

突破しようにも敵の包囲は厚く、それも困難でした。

どうやら敵ももはや連合艦隊への奇襲なんて不可能と悟ったのか、代わりに作戦を台無しにした私達を全力で潰すことにしたようです。

 

『……もう一度、交代する?』

「……」

 

数日に一回が限度と自分で定めたワタシとの交代。

精神交代による自我の消耗はまだ回復していませんが、それしかないかもしれません。

ただ長時間の戦闘で燃料も弾薬も消耗している現状、たとえ交代したところでどれだけ事態を好転させられるでしょうか。

もう一度目の前の上位種を倒すのはいくら何でも不可能。取り巻きを突破する事すら難しいでしょう。

 

『ワルサメ、オレ、覚悟ハ出来テルカラ』

「……いいえ。包囲の突破くらいなら、やってみせます……!」

 

そう、こんな死地まで付き合ってくれたレ級に応えるためにも、私も命を賭けなければ……!

この力がそんな精神論でどうにかなるようなモノではないということもこの時は忘れ、私は再度無謀な賭けに出ようとしました。

その時――。

 

 

 

 

 

「全艦、攻撃開始! この長門に続けーッ!!」

 

 

 

 

 

いったいどれだけの声量があったのか。

その喊声は戦場に強く高く響き渡りました。

続いて連続する砲撃の轟音と共に、包囲の一角が文字通りに吹き飛びます。

 

「……間に合った!」

『ア。アイツラハ……』

 

そこに現れたのはいつかの長門さん率いる機動部隊。

誰も欠けていないことから皆無事に帰ることができたようです。

そしてこのタイミングで艦娘の艦隊が現れるということは、連合艦隊に危機を知らせる事ができたということ。

 

「目標、空母型上位種空母水鬼!

 わるさめちゃ……もとい春雨への道をこじ開けろ!!

 絶対に死なせるなッ!!」

 

……?

気のせいでしょうか、何か変な言葉が聞こえたような?

ですがその次の瞬間、今度こそ聞き覚えのある声が聴こえました。

 

「春雨ぇー!! 助けに来たよー!!」

「え? あ、ゆ、夕立姉さん!?」

 

それはまさに一瞬の出来事でした。

長門さん率いる艦隊の嵐のような砲撃で開けた包囲の穴から、夕立姉さんが飛び込んできました。

そしてかの島風型にも迫る速度で、一気に、長門さんに空母水鬼と呼ばれた上位種に詰め寄ると……。

 

「ソロモンの悪夢、思い知るがいいっぽい?」

 

姉さんはその勢いを殺さないまま、手に握った一本の魚雷を、空母水鬼の装甲の薄い部分に叩き付け、爆裂させました。

強引に実現させた最大効率の雷撃により、空母水鬼の強固な装甲に僅かな綻びが生じます。

そして代償として夕立姉さんの左腕も肘から先が吹き飛びました。

 

『アァァァッ!? オ、オノレ、ヨクモォォォ……!』

「ね、姉さんっ!?」

 

空母水鬼が苦悶に呻き、私も突然過ぎる姉の狂行に悲鳴を上げました。

ですが姉さんはそんな事は意にも介さず、特攻により強引にこじ開けたわずかな装甲の穴に、右手の連装砲をねじ込みます。

そして射撃。射撃。射撃――

 

『ア……、ギ……!?』

 

無茶にも程がある運用により、六度目の射撃で連装砲の砲身は焼け付き、折れ曲がり、暴発してしまいました。

連装砲の破片が腕と額を切り裂くのも気にせず、姉さんは鉄屑と化したそれを投げ捨てます。

そして代わりにずたずたになった右手に三本の魚雷を持つと、後方へ跳躍すると同時、至近距離から装甲の破損部へと叩きつけました。

 

『――、ァ』

 

狂気の連撃により深刻な損傷を負っていた空母水鬼は、大轟音と共に、ついに装甲ごと真っ二つにちぎれ飛びました。

そしてそのまま断末魔すら残すことなく海の底へと沈んでいきます。

同時に夕立姉さん自身も大きく吹き飛ばされ、私のそばまで吹き飛んできました。

 

「ね、姉……さん……」

「ぽい?」

 

この間、僅か十秒。

あまりに突然に、そして理不尽に艦隊最高統率者を喪った現状に、さすがに動揺とは無縁のはずの深海棲艦の動きが鈍りました。

 

『……全力攻撃の極一点集中運用。

 似たような事はトチ狂った時の私もやってたけど……』

「え!?」

 

私あんなアホな真似までしたのですか!?

確かに、私たち駆逐艦が単独で上位種を沈めるためには、特攻まがいの手段に頼るしかないのかもしれませんが……。

 

しかしアレは確実に特攻と呼ぶのもおこがましい何かです。

しかも夕立姉さんには私やレ級のような戦艦すら超える規格外の装甲も無いはずです。

その類稀な戦闘センスによるダメージ・コントロールで轟沈こそ免れていますが、それでも完全に大破してしまっています。

 

だというのに。

それでも姉さんはまるで平然と立ち上がり、不適に、獰猛に、周囲に笑みを浮かべてみせました。

 

「さぁぁぁあ、最ッ高に素敵なパーティーをしま――げぐぼぇ!?」

「「させるかー!!」」

 

その時、再突撃をかまそうとした夕立姉さんに後方からダブルラリアットを喰らわせ、その意識を彼方までふっ飛ばしたもう二人の姉が姿を見せました。

 

「白露姉さん! 村雨姉さんも!?」

「この、バカ犬が……! やっぱ先に行かせるんじゃなかったわ」

「もー何なんだろうね、この駆逐艦の姿をしたナニカ」

 

そこで二人の姉さんは私を振り返りました。

 

「まぁでも、もうこんな無茶もしなくなるでしょ。

 何せいっちばん大切なものが戻ってきたんだから」

「約束どおり、今度こそ迎えに来たよ!」

「ね、姉さん……」

 

あまりに突然に色々起こりすぎて私はもう何も言えません。

 

「春雨、あとは私たちに任せて。ちょっとの間だけこのバカ(夕立)のことお願いね」

「え? あ、は、はい……!」

「ま、積もる話はまた後で。……そっちのも含めてゆっくりと、ね」

『…………』

 

姉さんたちが、いつの間にか私の背後に隠れているレ級を見据えます。

……その視線はさすがに冷たいです。

 

『オ、オレ……』

 

私を沈めたことを思い出したということは、私の姉さんたちのことも思い出したのかもしれません。

レ級が泣きそうな顔で俯いていたので、大丈夫だから、と私はレ級をいいこいいこしてあげました。

そんな様子を見ていた姉さんたちはため息をついて反転していきます。

 

「まったくこの子は……」

「らしいと言えばらしいけどね。

 ま、どうやら本当に危険はなさそうだし、私たちもひと暴れしてくるね」

「あ、はい。 気をつけて!」

 

魚雷を片手に、姉さんたちが敵の群れへと去っていきます。

……参りました。あとでちゃんと説得しないと……。

 

いっぽう、姉さんたちを見送った先では長門さんや姉さんたち以外にも続々と艦隊が集まってきていました。

機動部隊、打撃部隊、水雷戦隊、中には潜水艦の気配もあります。

何人かはこちらに気付いて手を振ってきました。

 

『慢心は駄目、とはいえ。これは勝ったね』

 

そうですね。

 

『見覚えのある艦もあるね』

 

はい。

 

『……良かったね』

 

……はいっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

上位種を倒されたことにより完全に統率を失った深海棲艦たちを、何故か異様なまでに士気が向上していた連合艦隊(あまり連合はしていなかったが)は怒涛の如く攻め立てた。

そして数の上では未だに勝っていたはずの敵の大艦隊を、ものの数分で全滅させた。

 

ひとまずは。

戦いは終わったのだ。

 

 

 

 

 

CASE 34

 作戦名:渾作戦

 連合艦隊

 判定:S

 完全勝利

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けて。

私は姉さんや連合艦隊の皆さんに囲まれていました。

 

みんな深海棲艦と化している私にとても友好的な態度で接してくれるのですが、レ級には硬い態度を隠せていませんでした。

中にははっきりと敵意を向けているひともいます。

……それは今までの経緯を考えれば、仕方がありません。

 

一応あまり気にしていない人もいます。

長門さんは、戦で傷を負わされた事を恨む等ビッグセブンの名折れ、なんて言ってくれたのですが、そこまで割り切れる人も少ないのでしょう。

 

しかし私は彼女と共に生きると決めたのです。

ならば全身全霊で皆に訴えかけ、レ級を護らなければなりません。はい!

意を決した私はレ級を庇うように抱き寄せて、周りの皆さんに訴えました。

 

「わ、私の(パートナー的な意味で)大切な人なんです!

 お願い皆さん、(仲間として)認めてください!」

『!!!!!』

「!?!?!?!?!?」

「!?!?!?!?!?」

「!?!?!?!?!?」

 

あれ?

みんな固まってしまいました。

姉さんも長門さんたちもレ級も他の皆さんも固まってます。

 

『……知ーらない』

 

何ですかワタシまで。そのうわやっちゃったよ的な顔は。

と思ったら。

 

「あらあら」

「だ、だ、大胆じゃねーか……!」

「はわわわわわ」

「キマシタワァァァ!!」

「いいなぁ……」

「わるさめちゃぁぁぁん!?」

「ヒャッハー!!」

「爆発しろー! 末永くー!」

「あははははは!!」

「うわ、艦娘板速攻落ちたー!?」

 

今度はやにわに大騒ぎになってしまいました。

本当に皆さんどうしたんでしょう?

あとレ級何で急に顔真っ赤なのですか。

それとわるさめちゃんって言った奴前に出ろ。

 

「と、ところで姉さんたちは……?」

「…………は」

 

は?

 

「春雨が別の意味で手遅れになってたぁぁぁー!!!!!」

「ぽいぃぃぃー!!!!!」

「えええええ?」

 

手遅れって何がですかー!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛~。まったくあの子ったらとんでもない土産を持ってきてくれたわね……」

 

かつて春雨が所属していた司令部。

その執務室にて秘書艦の曙は頭を抱えて呻いていた。

とんでもない土産というのは無論、戦艦レ級のことである。

だが隣でコンソールを叩くクソ提督は暢気に笑うだけであった。

曙はイラッとした。

 

「ははは、こうなったら一人囲うも二人囲うも同じ手間さ」

「随分気楽に言ってくれるじゃないクソ提督。アレ、春雨とは条件が全然違うのよ?」

 

戦艦レ級。

彼女に煮え湯を飲まされた提督は多い。

これからの根回しや情報操作のことを考えただけで曙の気は重くなった。

クソ提督は肩をすくめた。

 

「かの英雄、駆逐聖姫が伴侶に選んだ子なんだぜ。

 世間への印象操作はさほど難しくもないと思うよ。

 それよりあのカミングアウトの瞬間、サーバーが落ちかけてちょっと焦ったよ」

「英雄に仕立て上げたのはあんたでしょうが。……まぁ、実際有効な手だったのは認めるけど」

「私のした事など些細な事だよ。彼女はほぼ自力で帰る場所と名誉を取り戻した。

 特に今回の件で、大本営もようやく彼女の存在を公に認めてくれたしね。

 これでやっとみんな、彼女におかえりと言えるようになった」

「……そうね。それにしても、あの子自分の評判知ったら何て思うかしら……」

 

心配するような呆れたような曙のぼやきを聞き、クソ提督がふっふっふと無駄に不敵に笑う。

曙はかなりイラッとした。

 

「深海棲艦に沈められ深海棲艦として蘇るも、艦娘としての記憶と正義の心は失わず、孤独に戦い抜いた悲劇の英雄……。

 実にうちの国民の琴線に触れる設定とストーリーだと思わないかい?」

 

裏で市井に少しずつ情報を流し、駆逐聖姫=春雨の存在を浸透させていったのは、ここにいるトボけた顔の若き司令官だった。

 

「……今ではメディアミックスも展開して、既に映画化の話も進んでいるんだっけ?」

「そうなんだけど……まさかあのレ級ちゃんとそんな事になっていたとはなぁ。

 脚本だいぶ変える必要が出てくるかも。それに新しい女優さんも探さないと……」

 

(本来の)仕事しろよクソ提督。と曙は心底言いたかったが、今回ばかりは言えはしなかった。

何せ、掲示板の作成から始まった彼の止まらぬ暴走のおかげで、春雨は世間に認められたのだから。

 

その代償として大本営発表(笑)が大本営発表(爆笑)になったり、まともだったはずの提督や艦娘の一部が、クソ提督やクソ艦娘と化してしまったりしたかもしれないが。

何でコイツ消されないんだろうと曙は思った。

 

「さって、これからしばらく忙しくなりそうだなぁ」

「そうね。レ級のこともあるし春雨にもこれまでの話を聞かせてもらわないと」

「そんなのは後でいいさ。それよりもこれでしばらくはお祭り確定だぜー!」

「あんたね……また大本営がブチ切れるわよ?

 それに祭りってどっちの話よ。こっち? それともどこぞの掲示板?」

「もちろん、どっちもさ」

 

若き司令官は思わずブン殴りたくなるような満面のドヤ顔でウインクし、コンソールをッターン!と叩いてみせた。

曙は心底イラッとしたので思わずブン殴った。

 

クソ提督が向かっていた画面には、新たな二人の艦娘のデータが記されていた。

 

【白露型駆逐艦五番艦 春雨深改】

【重雷装航空巡洋戦艦 レ級】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして今日も戦いは続いていく。

大きな作戦にて勝利を収めひとつの区切りが付いたとしても。

それでも深海の怨霊は際限もなく現れる。

戦いには未だ終わりすら見えない。

 

だがわずかな希望は現れた。

死人の身体に幽鬼の声音。

しかして宿る魂は聖にして善なる英雄。

駆逐聖姫とその伴侶たる最強戦艦。

二人の手により希望の鍵はもたらされた。

 

今日も各地の艦娘は魚雷という名の鍵を持ち。

深海の姫の脳天に叩きつけに行く。

幾多の試行錯誤の末に。

正気という名の扉が開かれる事を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白露型五番艦春雨、出撃シマス!」

『前略レ級、出ルゼー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐聖姫 春雨 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###TIPS

 

.fsv

 妖精索敵動画ファイル。

 妖精さんの視界をそのまま動画化するため高画質だが、編集しないと酔いやすい。

 

 

わるさめちゃん

 まだ春雨が敵か味方か分からなかった頃に提督たちの間で付けられた呼び名。

 しっくりくるし可愛いので、その後もそのまま使われる事に。

 

 

提督板

 新人からランカーまで幅広く利用している、提督専用の匿名掲示板。

 春雨を救うための策の一環として、クソ提督が作成した。

 世界中での深海棲艦の跋扈と、情報統制による市民のネットワーク使用の制限により、

 この世界ではこれまでに大規模な電子掲示板が存在しなかった。

 この後市井や世界にも急速に広められ進化してゆき、やがて情報統制もクソも無くなった。

 

 

艦娘板

 提督板と同じくクソ提督作の匿名掲示板。

 健全な提督にとってはサーモン海深部以上の魔境。

 そして逆もまた然り。

 情操教育にあまりよろしくないので、駆逐艦でこれらの板の存在を知っている者は少ない。

 でも管理人は曙。

 

 

クソ提督

 春雨の司令官。ランカーではないが、艦隊の練度や戦果は高い。

 春雨の正義と可愛さを世に知らしめるため、閉塞していたネットワークを拡大、発展させた。

 非常に多才で有能だが、ノリだけで生きているような奴であり、割と世の中を舐め腐っている。

 また戦果以外にも色々な所で色々やらかしているため、大本営も迂闊に処分できないでいる。

 

 

 クソ提督の筆頭秘書艦にしてストッパー。

 その昔、甘い顔をするか無関心を貫く艦娘ばかりのなか、ガチのクズになりかけていた司令官のケツを蹴り上げた最初の艦娘。

 その後曙を中心としたセメント勢の手によりなんとか司令官の更正に成功。

 その中で培われたクソ提督更正マニュアルは大本営でも非常に高く評価された。(それだけクソ提督予備軍が多かった)

 その功績と司令官の超問題児っぷりゆえ、実は大本営から司令官よりも高い権限が与えられている。

 

 

夕立改三

 春雨を救えなかった事から力不足を痛感。

 火力こそパワーという信念の元に更なる覚醒を果たした。

 重巡をも大きく上回る火力を得たが、他の性能は改二からまったく向上していない。

 ……スペック上は。

 

 

おにぎりスレ

 誰の腋で[検閲]

 

 

魚雷という名の鍵

 精神分析(魚雷)

 成功すると深海棲艦が正気を取り戻し仲間になる。かもしれない。

 前提として最低限の自我が存在する必要があるため、事実上仲間になりうるのは上位種かレ級のような突然変異のみ。

 ちなみに精神分析(三式弾)や精神分析(徹甲弾)もある。

 近接戦用で、手で持って殴っても使用者がなるべく負傷しないように改造されてある。

 

 

駆逐聖姫 春雨

 日曜朝八時放送。

 春雨「や――――め――――て――――」

 

 

映画版

 主演女優にはクソ提督の趣味でビスマルク似のグラマラスな金髪美女が抜擢された。

 国内では色んな意味でお前のような駆逐艦がいるかと総ツッコミが入ったが、映画自体の出来は非常に秀逸だったらしい。

 春雨「……いっそ殺してください……」

 

 

わるさめちゃんprprで1000埋めるスレ

 春雨『ア、ソウダ。司令官殺シマショウ』

 

 

 

 

 




これにて駆逐聖姫春雨、完結です。

続き物は初めて挑戦したので文章捻り出すのに四苦八苦しました。
楽しんでいただけたなら幸いです。

ええと。
本作ですが、プロット段階ではもっと鬱展開だらけの、くっそ暗い話でした。

 救援した艦娘から攻撃されることはしょっちゅうあったし、姉妹と再会したときも戦闘になりました。
 マスコット枠のくちくいきゅうが木っ端微塵にされてブチ切れて闇堕ちしかけたりもしました。
 レ級とも終始殺し愛の関係で、最後は激闘の末にワタシの犠牲でflagshipに覚醒した春雨の手で沈められるはずでした。
 亡者と化し、仲間や姉妹と決別し、宿命のライバルやワタシとも死に別れ、
 フラグシップ化したことにより本編より更に大きな狂気を宿した春雨は、
 生きる意味を完全に見失い、死に場所を求めて本編でのラストバトルに臨みます。

……とまあ。
あまりにも暗すぎてゲロ吐きそうになったので、どこかお気楽な今の形に変えました。
一応こっちでも最終戦後は、レ級とワタシと掲示板がない以外本編と大体同じハッピーエンドなのですが。
そこまでの過程があまりにもね……。

ええと。
15年夏イベではアイアンボトムサウンドに夕立姉さんと一緒に出撃させられたので嬉しかったです。

ええと。
それでは皆さん、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


















































###TIPS

春雨(私)
 STAGE_02の最後のシーンはレ級の独白であると同時に春雨の回想でもある。
 二人は最初から両想いだった。





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