Deadline Delivers   作:銀匙

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第9話

「ナタリアっ!」

 

ナタリア達を見つけた町長は、息を切らしながらもナタリアの埃を払いながら言った。

「ナタリア、ナタリア。あぁ良かった」

「・・良クナイワヨ」

ナタリアは解っていた。

町長が良かったといったのは、自分達が生きていた事を指して言っているのだと。

だがこの瓦礫の山を、仲間達の死を、そんな一言で済ませたくなかった。

「イヤ、ボス、町長ハ・・」

町長はフローラがフォローしようとするのを阻止し、頭を下げた。

「すまない。不謹慎だった。君達が心配だったんだ」

「・・・私達ハ無事。気ガ済ンダラ帰ッテ」

「ボス!ソンナ言イ方ハ!」

ミレーナがナタリアに抗議したが、町長は首を振って続けた。

「ナタリア。聞いて欲しい」

「・・」

「こうなってしまったのは、解決策を見つけられなかったわしのせいだ」

「・・」

「だが、もう2度と、こんな事にならないように手を打つ」

ナタリアは変わらず返事はしなかったが、町長の方に目は向けた。

その瞳は絶望の闇に塗りつぶされていた。

「聞いてくれ。以後海運業者は全員仲介役から仕事を貰う形にする。それで」

続けようとする町長を止めたのはフィーナだった。

「・・ボスハ、オ疲レデス。今夜ノトコロハ、ドウカ、オ引取リヲ」

はっとした町長はナタリアの目を見てからフィーナに頭を下げた。

「・・すまない。そうだ、宿を取っておくから、今夜はそこで眠りなさい」

「・・良インデスカ?」

「瓦礫の中じゃ休む事もままならん。全部で何人かね?」

「12名デス・・スミマセン。オ言葉ニ甘エマス」

「解った。宿の名刺を渡しておく。今、車を手配する」

「イエ、少シ歩キタイノデ、車ハ結構デス」

フィーナの返事にナタリアを心配する意図を察して、町長は頷いた。

「・・頼んだよ」

皆が歩き去った後、町長は携帯を取り出し、宿の番号を呼び出した。

「何度もすまないが、あと12人追加だ。こちらはしばらく滞在する。ああ、それで良い。急いでくれ」

 

翌朝。

 

「お食事をお持ちしました」

「ありがとうございます」

「・・お布団はそのままにしておきますね」

仲居がそう言ったのは、布団の上に呆然と座っているナタリアが居たからである。

フィーナが頭を下げた。

「すみません」

「8番にご連絡頂ければ食器を下げにまいります。ごゆっくり」

「はい」

 

…トン。

 

襖が閉まった後、フィーナ達3人はナタリアをそっと見た。

視線に気づいたナタリアは軽く手を振った。

「貴方達は気にしないで食べなさい。私は要らないわ」

「・・そうもいきませんよ、ボス」

「・・もう、どうでも良い。どうでも良いのよ・・」

ナタリアは悲しげに目を伏せた。

サウスウェストストリートは、そのままナタリアの実績といっても良かった。

つい先日、町で一番治安が良いと警察から褒められたばかりだった。

それはナタリアが先頭に立って、深海棲艦同士の諸事を調整してきたからである。

だからこそ依頼人も艦娘達よりこちらを頼るようになって来ていた。

自分達が町に戻ってきて以来、チームメリッサの連中は何かにつけて深海棲艦達に喧嘩を売ってきた。

だが徹底的に無視し、挑発に乗らないよう指導してきたのはナタリアだった。

無論、ナタリア自身、決して面白い訳ではなかった。

地上組には何度も理不尽を訴えた。艦娘を一掃しても良いかとも問うた。

だが、地上組は首を横に振った。

そんな事をすれば海軍が大挙して、町ごと消滅させる為に押しかけてくると。

 

昨晩の出来事は、既に大本営に届いているだろう。

そう。

地上組の言う通りなら、まもなくこの町は消滅する。

ナタリアはそっと、顔を上げた。

「生き残りたければ海軍の連中が来る前に、町を後にしなさい」

「・・ボスは?」

「私は・・ここに残るわ」

フローラとミレーナはフィーナをそっと伺った。

昔から、ボスが煮詰まると窮地を救ってきたのはフィーナだったから。

 

スッ

 

フィーナは立ち上がり、ナタリアの真正面で対峙する位置となる朝食の席に腰を落ち着けた。

ナタリアは一瞬だけフィーナをチラリと見て、俯いた。

ミレーナとフローラは怪訝な顔でナタリアとフィーナを交互に見た。

フィーナは笑顔で言った。

 

 「じゃ、いただきまぁす」

 

かぱりと味噌汁の椀を開ける。

ほわりと味噌の香りが漂い、フィーナは箸で抑えながら啜り、

 

 「んー♪あっ、ごはんごはん♪」

 

茶碗を取り、おひつからご飯をよそい、一口。

 

 「ごはんおいっしー♪」

 

ニコニコしつつもミレーナ達に小さくウィンクしたフィーナ。

それを見て意図を察したミレーナとフローラはそれぞれ席につき、食べ始めた。

 

 「・・この厚焼き卵、ダシが絶品」

 「焼き鮭、ほわほわですねぇ」

 「煮物が薄味で優しい味・・ニンジン可愛い」

 

リズミカルにつまんでは食べていく3人。

ついにナタリアがジト目でフィーナを睨みつけた。

 

「・・ちょっと」

「あ、ミレーナ、ご飯のお代わりいる?」

 

ダン!

 

ナタリアが畳を叩いたので、ミレーナとフローラはビクリとして箸を止めた。

だがフィーナだけは平然と箸を進めている。

 

「フィーナ!」

 

ナタリアの怒鳴り声に、フィーナは今気づいたと言わんばかりに首を傾げた。

「なんでしょう?」

「あんた・・どうしてご飯なんか食べられるのよ!」

フィーナは静かに箸をおき、すっと息を吸った。

これからとても大事な時間だ。呑まれてはいけない。

 

 

 


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