Deadline Delivers   作:銀匙

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第6話

 

 

連絡を受けた紳士は港でナタリア達を待っていた。

「よく帰ってきてくれた!おかえり!ありがとう!ありがとう!」

「任務完了いたしました。こちらが医師の書いた手紙と書類一式です」

「ああ。娘から電話も来ているよ。まもなく退院出来るそうだ。遠路、よく無事で帰ってきてくれた」

だがナタリアは、出発前に比べ、紳士に対する町の人間の態度が異なる事に気がついた。

妙に擦り寄ってる感じがするし、周囲には護衛らしき姿がある。

「ところで、あなたは何者なの?」

紳士はにこりと微笑むと

「わしか?この町の町長を始めたよ。先月からな」

「・・先月から?」

「あぁ。他に誰も立候補者がおらんかったから無投票当選だった。はっはっは!」

「なんだってこんな荒れた町の町長なんか・・・」

「わしは今回、君達深海棲艦に助けられた。御礼というほどではないが・・」

「?」

「この町では深海棲艦狩りは一切させん。約束しよう」

「・・えっ?」

「君達がのんびり過ごせる町になるまで、わしは町長として頑張るぞ!」

「では、微力ながらお手伝いいたしますわ」

ナタリアと町長は笑って頷きあった。

 

 ナタリア達が太平洋横断を成功させた。

 この町では深海棲艦狩りが行われなくなる。

 

二つのニュースは瞬く間に町を駆け巡った。

ナタリア達のおかげだと街に居た深海棲艦達は喜び、地上組にも知らされた。

だが、ナタリアが消し去った3人組とつるんでいた艦娘勢は舌を打った。

あらゆる意味で面白くない。

 

 

それから3年が過ぎた頃。

 

町はその歴史上、最悪の治安状態になりつつあった。

なぜか。

艦娘と深海棲艦、それぞれの海運業者が依頼者の争奪戦を繰り広げたからである。

会社を興したからといってすぐ収入に繋がる筈もない。

海運業は遥か昔に大手が撤退した為、そもそも現時点で開業している者が居る事自体知られていない。

それでも噂を頼りにやってきた依頼者は町に足を踏み入れた途端、大変なトラブルに見舞われる。

 

 「ねぇ、貴方見ない顔ね、海運の依頼?」

 「えっ、あぁはいそうで・・」

 「あぁダメダメ、そいつんとこサービス悪いよ、うちの方が安いよ」

 「へっ?」

 「ちょっと、今うちと話してるのよ!」

 「契約するとは言ってなかったじゃない!」

 

また、契約欲しさに説明内容にも誇張が混じる。

 

 「うちなら世界中どの海域でも3週間以内に届けるよ!」

 「へー、それは」

 「こっちなら2週間よ!こいつらみたいにノロマじゃないわ!」

 「ええっ?!」

 「嘘言うな!南シナ海行けないくせに!」

 「アンタの航続距離だってインドまで行けないでしょ!」

 「あの・・行き先は・・」

 

海運業者同士が喧嘩ばかりしていては、依頼人は自分の依頼内容さえ説明出来ない。

だが、溜息をついて立ち上がろうとすると一気に態度が豹変する。

 

 「アンタ、どこ行こうってのよ?」

 「え、いや、他の業者さんも見て回ろうかと」

 「座れ、人間」

 「えっ?」

 「座れ。逆らうと殺すよ?」

 「・・・」

 

町長は警察署長と幾度も話し合っていたが、巡回を強化する以外の妙案は出なかった。

そもそもそれほど大きな町でもないから、警察の予算も人でも限られている。

海運業者同士のいさかいで暴力事件が日常化していた。

さらには食い詰めた海運業者が強盗に鞍替えし、治安の悪化に拍車をかけていた。

 

「弾け始めたポップコーンは、元の火を消さねば止まらないぞ?」

 

署長の言葉に町長はジト目で返した。

 

「それはダメだと言った筈だ。海運業者の1つにわしの娘は救われたんだ」

「だが、最近は依頼人を巻き添えにした傷害事件も起きている」

「・・」

「アンタが頑張ってるのは俺も知ってる。理由も知ってる。だが連中は所詮は逃亡艦娘と深海棲艦だ」

「・・」

「殺人まで起きたら、さすがに俺の力じゃ隠しきれんぞ?」

「解っている・・解っているが・・」

「考えといてくれよ。多分そう時間は無い。連中以外の町が平和なうちにな」

 

署長が出て行くと、町長は深い溜息をついた。

ナタリアは深海棲艦達を良く抑えてくれているというのに、もうどうしようもないのか?

どうしたら共存出来る?いや、いっそ・・

 

コンコンコン

 

「はい」

入ってきたのは秘書だった。

「・・町長、今夜の予定ですが」

「あぁ」

「龍田会の会長殿が主催する夕食会に参加する予定となっております」

「あぁ・・確か雷会から龍田会に変わるとかいう奴か」

町長の浮かぬ顔を見て秘書は口を開いた。

「ええ。我が町は幅広く関連企業がありますので・・出席を断るのは難しいかと」

「いや、断るんじゃなく、相談がしたいんだ」

「相談、ですか?」

「例の海運業者の件だよ」

「龍田会は現役の海軍連中ですよ?そんな事を知らせたら討伐に来るのでは?」

「いや、彼女達は真っ白ではない。そこを踏まえて腹を割って話がしたい」

秘書は頷いた。

「解りました。ではその旨先方に連絡しておきます。場所等も手配しておきます」

「急ですまないが、頼む」

 

その晩。

 

「ゆっくりお話出来る時間まで作って頂き、感謝いたします」

「とんでもない。これからもよろしくお願いいたします」

「若輩者ですが、先代の雷に負けぬよう頑張りたいと思います。こちらこそよろしくお願いいたします」

「さぁさぁ、堅苦しい挨拶はこれくらいで。ウィスキーでも如何ですか?」

「あらぁ、松亀55年なんてよろしいんですか~?」

「もちろん。ロックで如何ですか?」

「ありがとうございます」

町長と龍田は商工会議所の応接室で、にこやかに向かい合って座った。

 

 

 


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