Deadline Delivers   作:銀匙

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第4話

 

読みは敵の出方という意味では的中した。

今までにおいて、ナタリア達は出航直後に近海で喧嘩を売ってきた無頼の艦隊を瞬殺しただけだった。

一方で、自然は予想通りとはいかなかった。

例年より多い流氷が群れをなして海中海上に存在した為、レーダー式航行制御システムが無力化してしまった。

艦載機は見つかる危険があって使えず、進路判断が目視のみとなり、推進制御も手動で行う他なかった。

しかし高緯度ゆえ、真冬のこの時期は日照時間が8時間程度しかなく、夜間に明かりを点ければ格好の標的となる。

計画では、1日平均15ノットで進む必要があった。

進める時間が8時間しか無い以上、その間はずっと45ノット以上を維持しなければならない。

 

とはいえ。

毎日8時間もの間、氷の中で45ノットでの超高速移動を手動でし続けるなど、正気の沙汰ではない。

ナタリア達はそれをこなして来たが、反動として心身の負担はすさまじかった。

しかし、日没後も氷に注意を払い続けねばならない。

高波がぶち当たった氷山がミシミシときしみ、流氷が瓦解する不気味な音をたてる暗闇。

生命維持装置の取水口が凍りつかないよう、夜中に何度も付着した氷を叩き割る必要があった。

日中は全神経を集中し、判断を1つたりとも誤る事が許されないのに夜は満足に眠る事も出来ない。

おまけに昼夜問わず凍みこんでくる寒さは判断力どころか意識すら薄れさせていく。

そんな死の海の中で、ナタリア達は依頼後19日目の昼を迎えようとしていた。

刻限まであと2日と12時間。氷の海はもうすぐ抜けられる。

その後は僻地とはいえ海底国軍の域内ゆえ、海底国軍の深海棲艦と遭遇する確率が飛躍的に上昇する。

ゆえに常時20ノット程度で移動し、海底国軍に見つかった場合は最大戦速の48ノットで振り切る。

そういう計画だったのだが、異変は再び起きてしまったのである。

 

 ゴン・・ゴゴン!ガリガリガリ!

 

フローラの足元で嫌な音がしたかと思うと、フローラががくりと左に傾いた。

「ウアッ!」

「ドウシタ!」

「左舷浮上装置ガ機能停止!氷ヲ吸イ込ンデ破損シタヨウデス。待機系モ・・起動出来マセン」

「ミレーナ!フローラヲ支エテ。コンナ海水ヲ注水シタラ凍死スルワ」

「ハイ!」

「ゴメン・・モウ少シダト思ッテ油断シタ」

フィーナは苦悶の表情を浮かべた。

重大な故障を検知した場合、艤装は安全装置が作動し、速度上限を10ノットにまで下げてしまう。

それでは期限内にたどり着く事は困難だ。

フィーナはナタリアに訊ねた。

「ボス・・2小隊ニ分カレマスカ?」

フィーナの問いは、フローラとミレーナを切り離し、自分とナタリアだけで続行するかという事だった。

フローラは俯いた。

それは任務続行には不可欠の選択だと自分も思う。

更に言えば、今後を考えればミレーナはナタリア達に随伴した方が良いので、温情のある措置ともいえる。

しかし、この状態で海底国軍に見つかった場合、生き残れるだろうか?

数十万の軍勢に囲まれる未来を想像すると震えが止まらなかった。

だがナタリアはふふっと笑うと、フィーナにデコピンを喰らわせた。

「痛ッ!」

「心配ハモットモダケド、ミッションノ為ニ最高ノ部下ヲ見捨テルナンテアリエナイワ」

「・・」

「上陸地点ヲ変更。ココカラ最モ近イ米国西海岸ニスルト、ドコ?」

「・・シアトル付近デス。半日アレバ着ケマス」

「目的地マデノ距離ハ?」

「陸路デ約2000kmデス」

ナタリアはフンと笑った。

「2000kmヲ2日。面白クナッテキタワネ!楽シム用意ハ良イカ!オ前達!」

「ハイ!」

 

フィーナの予想通り、4人は20日目の0000時に小さな漁港へと到達した。

長きに渡る海戦で、かつては美しかったであろう漁港もすっかり荒廃し、無人と化していた。

上陸した4人は冬の装いに化け、町の通りを歩いていた。

ナタリアが口を開いた。

「残り48時間弱。ロスまでの移動手段を探すわよ」

「機動力があって、速度が出せて、長距離の移動が可能なもの・・」

「現金を調達してグレイハウンドに乗る手もありますが、運行ルートや所要時間が心配ですね・・」

「でも、あまり探す時間は・・あ」

 

ふと4人の目に止まったもの。

それは荒廃した町並みに不思議と似合う、原色のネオンがギラギラ輝くバーだった。

周囲ではいかにも荒くれ者という風情の男達と、ピカピカに輝くハーレーが整然と並んでいた。

フィーナが頷いた。

「大型バイク・・いいですね。ほぼ条件を満たします」

ナタリアが微笑みながら言った。

「燃料は満タンに。面倒だから殺さない事。現金は出来れば確保。60分後に上陸した港に集合。行動開始」

3人は頷き、ミレーナが1台のバイクにそっと手を当てながら、近づいてきた男に声をかけた。

「ハァーイ♪これ貴方のバイク?後ろに乗せてくれないかしら」

ミレーナを上から下まで舐めるように見た男は口ひげを舐めながら言った。

「へっへぇ、良いぜ。乗んな。ホテルへ直行しようぜぇ」

ナタリア達もそれぞれ男達に声をかけていった。

 

少し後。安宿の一室で。

シーツで全身をぐるぐる巻きにされた男が床に転がされていた。

「ムーッ!ム!ムフー!ムムムムー!!」

ナタリアはシーツの上からつつっと男の腕をなぞりながら言った。

「騒ぐと腕へし折るわよ。それとも首の骨の方がお望みかしら?」

「・・・・」

ナタリアはバイクのキーをくるくると回しながら、部屋の玄関で振り向いた。

「じゃあねミイラ男さん。100ドルだけ置いてくわ」

 

 

ドドドドド・・・ドッドッドッドッ・・

 

ナタリア達はそれぞれバイクに乗り、慎重に操っていた。

短時間、男達の後ろに乗っただけでは右側通行である事を思い出し、操作方法をおさらいする位しか出来なかった。

そしてパトカー近辺で響いた銃声に、アメリカは警官も含めて容易に銃を撃つ国である事を実感した。

ゆえにナタリア達は街中では大人しく走り、郊外や砂漠でも流れに従う以上の速度は出さないようにした。

明け方、ふと目に留まったグリーンの道路標識は、シアトルの駅が近い事を告げていた。

「念の為、列車とバスを確認しとくか・・早く行けるかもしれないし」

ナタリアは手で合図を送ると、ハイウェイを降りて行った。

 

 

 


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