Deadline Delivers   作:銀匙

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さて、本日から第4章を始めます。
今回はこの4人組に登場頂きます。

色々考えた結果、今回は最もDeadline Deliversらしさを色濃く出したシナリオにすることにしました。
この為、注意として、これまでの章より若干残酷な表現も出てきます。
本章の長さは1章並を予定していますが、苦手な方は読むのを避けてください。

また、様々な方の側面に光を当てるため、少々昔話の成分が多めです。
それでは過去を、現在を、行く末を、そしてそれぞれの変化をお楽しみください。



4章:「ワルキューレ」編
第1話


「みんなお疲れ様。ギャラの時間よ。順番にオフィスへ来てくれるかしら」

ナタリアは事務所で作業している部下に、そう声をかけた。

 

「・・という事。どう?」

「なるほど、そうか・・気づいて無かったです。訓練方法を考えてみます」

「その辺はミレーナがクリアしてるから聞いてみて」

「はい!じゃあ早速!」

「あ、待って。ギャラの袋忘れてるわよ?」

「す、すいません!あと、えっと・・」

「なに?」

「いつも、ありがとうございます」

「良いのよ」

ナタリアはオフィスの戸口で頭を下げたフローラに、微笑んで軽く手を振った。

 

ワルキューレ。

ナタリア率いる4人組のDeadline Deliversであり、構成メンバー全員がflagship級の戦艦レ級である。

戦闘力の高さ、経験の豊富さ、輸送可能な範囲の広さなど、名実共に業界トップを誇る。

その頭目たるナタリアは、多くのDeadline Deliversや軍閥から大魔王として恐れられている。

ゆえに囁かれる噂の多さも随一である。

 

噂いわく、

「目が合っただけで皆殺しにした」

「莫大な財産がある」

「あの海底国軍でさえ避けて通る」

「幾つもの鎮守府を壊滅させた」

「裏社会とつながりがある」

「あちこちに監視網を張っている」

他にも枚挙に暇が無い。

そしてそういう噂の真偽を訊ねられると面白そうに目を細め、

 

「さぁ・・どうかしらね?」

 

と、笑うだけで肯定も否定もしないので、ますます尾ひれがついていく。

一方でテッドやファッゾ達、クー達、そして何よりワルキューレのメンバーは

 

 「面倒見が良くて、情に厚い姉御肌」

 

と口を揃える。

なので、他のDeadline Delivers達はあまりのギャップに首を傾げ、やがて

 

 「まぁ、ファッゾもイカれてんだろ」

 「テッドも良い煮え具合だしな」

 「おいおい、クーの言う事を真に受けるのかよ?」

 

と、評価する人を否定する方向で終わってしまう。

ちなみにベレーだけは

 

 「どうしてベレーちゃんまでナタリアが優しいなんて言うんだ?」

 「あんなに素直で良い子なのに・・」

 「きっと騙されてるんだよ、可哀相に」

 

などと同情されている。

 

実際どうかと言えば、TPOに応じて使い分けているに過ぎない。

部下には気づいた事をアドバイスし、良い事は褒め、相談にも乗る。

テッドとは契約主と請負業者としてはやや砕けているが、立場と礼儀はわきまえている。

ファッゾやビット達とは親友として付き合っている。

ただ、クーのように誰に対しても笑顔を振りまく訳ではない。

賛同出来なければ同じDeadline Deliversだろうと真っ向から対立するし、戦う事も厭わない。

それだけなのである。

 

 

ナタリアの部下であるフィーナは、ナタリアのオフィスをチラリと見た。

近頃、ナタリアの機嫌が悪いし、その時間が増えている。

状況はきちんと共有しておきたいのだが、昔からボスは一人で抱えこむ癖がある。

「ふぅ・・」

ギャラを配り終えたナタリアがオフィスから出てきたので、フィーナはウォーターサーバのコップを取った。

「ボス、お水ですか?」

声をかけられたナタリアはにこっと笑いながらソファに座った。

「ええ、ありがと」

フィーナはナタリアの前にコップをそっと置き、自分のコップを手に、向かいのソファへと腰掛けた。

「・・どうかした?」

ナタリアの問いに、ふふっと微笑んだフィーナは答えた。

「私の台詞ですよ、ボス」

ナタリアはフィーナを探るように数秒間じっと見た後、

「あー・・表に出てた?」

「かなり」

「・・ま、アンタじゃ無理もないか」

「という事で、お話頂けますね?」

「面白くないし・・話したくないんだけど?」

「一緒にしかめっ面するくらい出来ますから、ぜひ」

明らかに嫌そうな目で見るナタリア、穏やかに微笑みつつも引かない姿勢のフィーナ。

ここまでナタリアに踏み込めるのはワルキューレでもフィーナだけである。

ナタリアはちらちらと周囲を見た。他の二人は・・居ないけど・・

「二人は地下で訓練メニューを作ってますからしばらく帰ってきませんよ、ボス」

「目を動かしただけで心を読まないでよ」

「図星で何よりです」

そう答えつつ、フィーナは少し首を傾げた。

ボスがここまで言いよどむのは珍しい。

ナタリアは奥歯を噛んだ。

あーもう、言いづらいなぁ・・でもフィーナは諦めない子だし。

 

5秒の沈黙の後。

 

「え、ええと、ね」

 まぁ・・フィーナなら良いか・・

 

「はい」

 そんなに深刻な事なのかしら?

 

 

「一晩だけの関係じゃない男って、居た?」

 

 

フィーナは全ての予想が外れたので目をぱちくりさせた。

ナタリアは苦虫を噛み潰したような顔で慌しく細巻き煙草に火をつけた。

くそ、やっぱり言わなきゃ良かった。

そしてフォローするようにフィーナを見ながら口を開いた。

「ご、誤解しないで欲しいんだけど・・」

ガチャリ。

「ねぇフィーナ!訓練メニューの事でアドバイス欲し・・あれ?」

慌ててぎゅっと口をつぐむナタリア。

ナタリアを見たまま小さく頷いたフィーナは、

「いいわよミレーナ、そっちに行くわ」

そう言いながら立ち上がった。

 

その夜。

 

「酒気帯び運転すると免停くらいますよ?」

「うちで誰か免許なんて持ってたかしら?」

 

2台のハーレーが仲良く並ぶ場所。

それはかつてコンテナを捌く為の埠頭であり、広く、平らで、人工的な四角形をしていた。

整然と並ぶ水銀灯は長期間放棄されたが故に多くが寿命を迎え、今や3箇所程しか灯っていなかった。

ナタリアはバイクのエンジンを切るとモヒートの缶をフィーナに1つ放り、次の缶を片手で器用に開けた。

受け取ったフィーナも肩をすくめながら開けた。

まぁ、シラフで話せるような話題じゃなさそうだものね。

私は飲んでる場合じゃなさそうだけど。

 

 


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