Deadline Delivers   作:銀匙

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調整平均8.9点以上と大変高い評価を頂けて嬉しいです。
沢山のコメント、励みになってます。
ありがとうございます!
私はお返事すると必ず先々のネタばらしをしてしまうので、返せなくてごめんなさい。
でもちゃんと拝見してます。
書く気力になってます!
皆さんありがとう。ありがとう!

というわけで今回はちょっとボリュームアップしてのお届けです。




S.07話

 

30秒が過ぎ、1分が過ぎ、2分が過ぎた。

疲れきった表情で目を開けた防空棲姫は、蒼龍を見た。

「蒼龍さん」

「は、はい」

「交渉団長役を、お願い出来ますか?」

「私がですか!?」

「結べるとなれば、協定の仔細は我々元老院が対応しますので」

「んー」

 

蒼龍は天井を見た。

そこに浮かんだ提督の顔は笑っていた。

・・・よし。

「二人でお引き受けいたします!」

飛龍がぎょっとして蒼龍を見た。

「えっ?わ、私は許可出ないでしょ?」

防空棲姫は蒼龍をじっと見ながら言った。

「飛龍さんは締結が確認された後に向かわせると言ったら・・」

「お断りします」

日本エリア長は防空棲姫のまぶたがぴくぴくとしたのを見逃さなかった。

あぁ、姉君はきっと今夜、私の部屋に来て愚痴を・・いや、ヤケ食いに付き合えとか言いそう・・

防空棲姫は冷たい目で飛龍を見た。

「ひっ!?」

「余計な事は言わない。守れますね?」

「は、はい、かしこまりました・・」

浮砲台組長が頷いた。

「鎮守府への紹介は私からやりましょう。これからヘリで帰りますから一緒にどうぞ」

防空棲姫は溜息をつき、浮砲台組長に頭を下げた。

「交渉の立会いも、お願いできますか?」

「勿論心得てますとも。ではお二方、参りましょう」

おばちゃんは蒼龍と飛龍に言った。

「二人とも、部屋の鍵貸しな」

「えっ?」

「もう戻るつもりは無いだろ?適当に処分しておくさね」

二人はおばちゃんを見た。

おばちゃんは笑って頷いた。

「よろしくお願いします。今までありがとうございました。ご恩は忘れません」

二人は鍵を手渡すと、揃って深々と頭を下げた。

 

ババババババババ・・・

 

冷たい雨が降りしきる中、3人を含む深海棲艦達を乗せたMi26は地上組本部のヘリポートを飛び立った。

深海棲艦だけに解るDMZのサインを発する事が出来る特別仕様の軍用ヘリである。

その様子を見送っていた防空棲姫は、ぽつりと言った。

「・・・坂之上さん」

「なんさね?」

「交渉は・・上手く行くでしょうか・・」

「そうさね。恐らくアンタはこの戦いを終わらせる快挙を成し遂げた英雄になれるさね」

「別に英雄になりたいわけではありませんが・・」

「それでも、今そんな事を決められるのは、アンタを含めた僅かな深海棲艦さね」

「・・・」

「海底国軍のように何が何でも人間達を全滅させ、深海棲艦だけの国を作るって考え方もある」

「・・・」

「そうだ、海底国軍で思い出したけど、881研も邪魔してくると思うんさね」

「でしょうね」

「881研や大本営の様子は押さえてるのかい?」

「第4課は全員大本営に入り、活動中です」

「・・アメリカかぶれのポイポイちゃんはまだ課長やってるんさね?」

「優秀ではあるので・・何度言っても英語の電子メールで報告書送ってきますけど」

「あんなタフな仕事、2~3本ネジが飛んでないと出来ないさね」

「・・深刻な後継者不足です」

「ま、それはそれとして、大抵の子達は、身の安全が保障される人間や艦娘に戻りたい筈さね」

「・・坂之上さんは、戻りたいですか?」

「もうそれなりに生きたからね。周りがどう動くかで決めるさね」

「・・・」

「あんたはどうなんさね?」

「わ、私は・・組織がありますし」

「必要なくなったら?」

「勿論人間になります。お傍で暮らしたい方が居ますので」

「おや、あんたも隅に置けないねえ。互いに未来を誓い合ったとかかい?」

「あ、いえ、完全な片思いで・・・って何言わせるんですかっ!」

「カッカッカ!ちょいと聞いたかいエリア長、お姉さんは戻る気満々だよ!」

「ちっ違います!妹に変な事言わないでください!」

おばちゃんに弄り回される姉を見て、日本エリア長であり、防空棲姫の妹である港湾棲鬼は溜息をついた。

あぁ、今晩はきっとスイーツ食べまくりに付き合わされる。

明日からジョギング再開しよう・・

おばちゃんはくるくると車のキーを指先で回しながら言った。

「さて、そろそろ帰るさね。あの子達の部屋を片付けないと大家に返す時に怒られちまうからね」

防空棲姫はぎょっとした顔でおばちゃんを見た。

「て、顛末を確認されないんですか?まだ決まるかどうか・・そもそも話に乗ってくるかさえ・・」

「え?そうさねぇ・・」

パシッとキーを握り締めると、おばちゃんは続けた。

「ご破算になりそうになったら電話しといで。あんた達が余程のドジを踏まない限り無いだろうけどねぇ」

「ドジ?」

「あちらさんは十中八九・・いや九分九厘、この話に乗ってくると思うさね」

「なぜです?」

「良いかい、あの子達が深海棲艦になってもう5年以上だよ。それでもあれだけ忠誠心が残ってるんだよ?」

「・・」

「浮砲台の言葉を借りれば、あんた達への接し方も対等さね」

「・・そう、ですね」

「共通するのは何だと思うさね?」

「・・・優しさ?」

「そうさね。蒼龍が言っただろう?私達を慈しんでくれたって。艦娘を大事にし、深海棲艦を敵と見てないんさね」

「ええっ?!」

「どっちも大事にしてるのなら、戦わずにケリをつけたがる筈だ。だからこその懐柔工作さね」

「戦わず・・どういうことです?」

「深海棲艦が全員人間に戻ればゲームセットじゃないか」

「んなっ!?ま、まさかそんな・・どれだけの数がいると」

「あと、あの子達は必ず地上組の事を提督に伝えるよ。それが忠誠ってもんさね」

「ひえっ!?そっ、それはとても困ります!い、今からヘリを呼び戻して・・」

「馬鹿な事はお止し。良いから聞きな」

「は、はい」

「地上組を知るからこそ、提督はスケールメリットを見出すんさね」

「スケール・・メリットですか?」

「そうさね。きっと向こうはこの協定を足がかりに更に話を広げようとするだろう。上手く利用しな」

「我々に不利になる事を阻止し、少しでも有利な協定として結ぶという事ですね?」

「カァー、アンタは頭が固いねぇ。ソロル提督の方が1枚も2枚も上さね」

「そんなぁ・・普通はそうじゃないですか・・」

「連中にだけは頭を切り替えな。良いかい。今までの連中の態度を良く思い出してごらん」

「・・・はい」

「アンタ達に不利というか、不平等な事をしたかい?」

「・・・・・いいえ」

「そうだ。それがミソさね。対等な道を示すのは懐柔工作の基本中の基本さね」

「・・・・」

「もう1つ。向こうさんは見下せるほどの兵力かい?」

「いいえ。ICBMやSLCMまで保有し、艦娘達は特殊部隊なみです。正面衝突は絶対避けたい相手です」

「なんでそんな物まで1鎮守府が持ってんだろうねぇ・・なら尚更、それなのに何故対等でいるかだよ」

「・・・」

「下に見られるほど不愉快な事は無い。へりくだれば図に乗られる。互いの妥協点は対等しかありえないんさね」

「・・・・」

「向こうは1体でも多く艦娘や人間に戻す為だけに突っ走ってる。それ以外は全てそれの為さね」

「えっ・・・そ、それは」

「深海棲艦に平穏を。安住の地を。笑顔を。地上組が最終目標とする事の上位互換さね」

「それはそうですが・・」

「提督が賢い程、うちらが連中に誠実である程、あんたは美味しい事になる筈さね。連中が味方なら笑いが止まらないだろ?」

「え、ええ。あんな戦力が背後にあれば、周辺軍閥との力関係は大幅に有利になるでしょうね・・」

「矛は矛でもちょっと違うだろうけどねぇ・・まぁいいさね」

「えっ?ど、どういうことです?」

「とにかく、向こうが提案してくる意味をよぅく考えな。多分うちらに不利な事やそう難しい事は言わない筈だよ」

「・・・」

「じゃ、後は任せたよ」

「い、嫌です。やっぱり居てください。お願いします」

「何を情けない事言ってるんさね。遥か昔に柿岩家に舵取りを任せただろ。しっかりおし!」

「でも・・こんな時くらい・・片付けは手伝わせますので・・もう不安で不安で」

「そんな泣きそうな目をしなさんな。アンタならちょっと考えれば大丈夫さね。元老院の連中も居るだろ?」

「・・・」

「・・あー解った解った。仕方ないねぇこの子は」

 

 

翌朝。

「スマナイ。チョット提督殿ト相談ガアルノダガ・・話ヲ聞イテモラエナイカ?」

「契約内容の問題なら私が決められるけど?」

「イヤ、違ウノダ・・」

きょとんと首を傾げる白星食品のビスマルクを前に、浮砲台組長は首を振った。

地上組本部からヘリで帰った日の翌日、朝から浮砲台組長は白星食品を訪ねていた。

予定外の訪問ではなく、月に1度の白星食品との定期報告会だった。

成果を伝え、ギャラを交渉する大事な相談会なのである。

ビスマルクは眉を顰めた。

「どうしたっていうの?」

「ソレガソノ、地上組ニナ、ソチラノ」

「シッ!それはちょっと待って」

ビスマルクはきょろきょろと室内を見回した。

あの窓の位置はあまりよろしくない。

「ちょっと場所を変えましょう」

ビスマルクは浜風をコールした。

万が一にもパパラッチに嗅ぎ付けられてはいけない。

最近は平穏だ。青葉は記事に飢えている。

 

「なんですって?あぁ、何てややこしい事に・・」

「解ッテクレテ本当ニアリガタイ」

浜風が用意した、窓の無い小倉庫に案内された浮砲台組長から話を聞いたビスマルクは天を仰いだ。

浜風はドアの外で、周囲に怪しい人影が無いか見張っている。

ビスマルクは白星食品の社長だが、ソロル鎮守府所属艦娘でもある。

だがその前は整備隊という軍閥を率いて長年深海棲艦をやってきた。

そして地上組とも頻繁に取引を行っていた。

ソロル以外で地上組という一言を発する事がどれだけハイリスクか提督に忠告したほどである。

ゆえに元ソロル所属の艦娘が地上組の幹部クラスまで登り詰めた事のややこしさをすぐに理解した。

地上組の存在は人間界なり海軍なりから秘匿されているからこそ穏便に済んでいる。

知られてはいけないのである。

一方、ソロルに所属した艦娘達は提督に限りなく高い忠誠を誓い、その目標に貢献するべく走り出す。

比較的後から来た経理方の白雪でさえ、

「提督の元を去って大本営に?行く訳無いじゃないですか。新しいジョークですか?」

と、お前は何を言ってるんだという目で肩をすくめるのである。

浮砲台組長は続けた。

「ソコデナ、我々ガ相談シタイノハ、ソロルト我々デ相互不可侵協定ヲ結ベナイカト言ウ事ダ」

「へ?か、海軍に存在を知らせるの?」

「違ウ。ソロル鎮守府トダケ、ダ」

「・・・・あー」

ビスマルクは少し怪訝な顔をしたが、頷きながら唸った。

「モチロン、提督ヲ全面的ニ信用セネバナラナイ前提ダガ・・」

「まぁそこは、大丈夫じゃないかしら。約束は守る人だしね」

「ソ、ソウカ。ヤハリ私ノ考エスギナノカ・・」

ビスマルクが苦笑した。

「本来で言えば間違いなくあなたの懸念は正しいでしょうけどね」

「ソウダロウ?ソウダヨナ・・本来ハ」

「じゃ、提督とちょっと話してくるわ。お待ちになる?それとも明日にでも出直されるかしら?」

浮砲台組長は少し考えたが、

「イヤ、待ッテイタ方ガ良イ気ガスル。良ケレバ、ダガ」

と、答えたので、

「なら応接室で。浜風!大きい方の応接室に案内してあげて!」

そう言って浜風を呼んだのである。

 

 

 


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