Deadline Delivers   作:銀匙

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S.05話

飛龍は苦笑しながら口を開いた。

「私達が元々所属していた鎮守府なんですが、提督はとっても変わり者なんです」

「今の話だけでも充分予想出来るさね」

「ただ、大本営で研究所長やってた人なんで頭は良いんです。とてつもなく、奇抜ってだけで」

浮砲台組長が苦笑した。

「まさにその通りだ。深海棲艦を艦娘に戻せるなど、他では聞いた事が無・・」

その一言に大声で返したのは蒼龍だった。

「ええっ!?深海棲艦が艦娘に戻れるんですか?」

「うむ。その数は千を超え、少なくともあの海域の軍閥が3つは飲み込まれた」

「・・・・」

「毎日のように艦娘化を希望する深海棲艦達が世界各地から押し寄せ、その全てが艦娘なり人間に戻っていく」

「・・・」

「少し前にそれ専用の基地を作り、どこかから連れてきた大勢の深海棲艦と所属艦娘に共同運営させている」

おばちゃんがげっそりした顔で頬杖をついた。

「今さらっと変な事言ったね。でも他がおかし過ぎてむしろまともに聞こえるってのが困るさね・・・」

「部下に継続的に確認させとるが、今も変わらず艦娘や人間に戻してる。それに・・」

「それに?」

「我が地上組の中にも、ソロル鎮守府で人間に戻った子達を働かせているんだが」

「何で受け入れたんさね?」

「無論調べるためです。高度なスパイ用の機器とかが埋め込まれてるかもしれないと」

「で、どうだったんさね?」

「発信機もロガーの類も無く、スパイ活動させている形跡も無い。複数回確認させたので間違いないでしょう」

「一体何がしたいんだろうねぇ・・」

そっと蒼龍が手を上げた。

「なんさね、蒼龍ちゃん」

「えっと、そうすると、私達は提督の元に戻れるかもしれないって事ですか?」

「そうだな。あー、まぁ鎮守府近海の深海棲艦達は鎮守府の運営をサポートしてるんだが」

おばちゃんが白目を剥いた。

「一体全体どういう事なんさね・・もう理解の枠を超えてるとしか言いようが無いさね・・」

「お分かり頂けましたか?」

「充分さね。あぁ、話の腰を折って悪かったね。蒼龍ちゃん、続けとくれ」

「そっ、それなら・・それなら私、提督の鎮守府に、帰りたい、です・・」

おばちゃんが腕を組んだ。

「二人とも、地上組の事を話さないって約束できるかい?意外とうっかり話しちまうもんだよ?」

浮砲台組長が肩をすくめた。

「実は・・その・・」

「なんさね?」

「ソロル鎮守府には、我々の存在は・・とうに知られてます」

おばちゃんはぽかんと口を開いた。

「・・なんで放ってるんさね」

「それがその・・提督が、全く大本営に報告するそぶりが無い。むしろ隠しているんです・・」

「・・・単に忘れてるだけじゃないのさね?」

「いいえ。先程話題に出てきた山田シュークリームですが」

「あぁ」

「その視察に大本営から査察団が来ましたが、我々の事は最後まで提督は説明しなかった」

「・・」

「また、あれは鎮守府近海の深海棲艦達が海底資源を掘り、我々に卸して得た金を元に運営してます」

「・・・で?」

「その仕組みをまとめたのは、ソロル鎮守府所属の龍田という艦娘を筆頭とする事務方という組織です」

「どっぷり癒着してるじゃないさ。鎮守府に上納金でも収めてるのかい?」

「いえそれが、そういう要求は一切ありません。更に警備する我々には給金を支払ってくれています」

「でも設立時点で地上組の存在を明らかにせざるを得なかった、そういうことさね?」

「まぁ、資源購入窓口という所しか打ち明けてはおりませんが」

「・・まさかアンタ、その場に居たんかね?」

浮砲台組長はささっと目を逸らした。

「う、打ち明けたのは私ではないですよ。鎮守府近海に住む深海棲艦の代表がぽろっと・・その」

「あー」

「ちなみにですが・・」

「まだなにかあるんさね?」

「白星食品の粕漬けセットは、その・・当主の大好物・・でして・・」

「・・アンタも何か好物があるんじゃないのかい?」

「いっ!?・・あ、あの、ブイヤベースが・・・その・・本格的と言いますか・・」

「レ級組組長は?」

「白星食品ではありませんが、鎮守府がたまに供する、お好み焼き定食が・・」

その時、そっと日本エリア長が手を上げた。

「あ、あの、私は白星食品の雪ん子蒲鉾が大好きで・・・あ、すいません」

おばちゃんは深い溜息をついた。

「そういう事かい・・完璧に罠に嵌ってるじゃないさ、お前達」

「えっ?」

「そんな好物を提供してくれる鎮守府、潰す気になれないだろ?」

「まぁその・・潰す意味が・・」

「それを懐柔工作っていうんさね・・しかし何と手間のかかる事を・・」

「し、しかし、今は深海棲艦達は討たれて沈んでいる訳ではありませんし」

「冗談じゃないさね。艦娘や人間になるって事は、味方が減って敵が増えてるって事じゃないさ」

「まぁ・・」

「戦って討たれるなら味方が減る時、大抵敵も減ったり傷つくが・・」

「・・」

「提督のやり方だと味方がただ減って、敵は元気なまま更に増えるんだよ?」

「・・・あ」

「考えようによっちゃ下手な戦闘より深刻なダメージを受けてるとも言えるんさね」

「・・・」

おばちゃんは溜息をついた。

「まぁ、それでも納得ずくで艦娘なり人間になるならそれも良いかもしれないさね」

「・・確かに、深海棲艦で居るのも楽ではありませんからな」

「そうさね。ただそれは、何の苦しみも不利益も無いならって前置きが付くけどね」

「その点なのですが・・」

「何さね?」

「深海棲艦から艦娘に戻った場合は鎮守府での生活方法などの再教育を受けられます」

「・・」

「更に人間に戻る場合は、提督が後見人となり、社会復帰の為の支援金も持たせる。これは確認しています」

「・・そのお金はどこから出てるんだい?」

「それが、白星食品や宝石工房の売り上げでは無いかと、分析班は言うのですが・・」

おばちゃんは肩をすくめた。

「見えたよ。なんてこった。全部辻褄があってるじゃないさ」

 

 

 


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