Deadline Delivers   作:銀匙

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S.04話

 

 

「わざわざお越しになるという事はよほどの用向きなのでしょうか?北陸地域部長殿」

「あっ、あのっ、あのですね・・」

日本エリア長を前にすっかり動揺している飛龍の肩に手をおくと、おばちゃんは、

「久しぶりさね、日本エリア長」

と、にこりと微笑みながら声をかけたのである。

「ご無沙汰しております。先代日本エリア長殿」

「すっかり貫禄がついたねぇ。立派になったじゃないさ」

「とんでもないです。私などまだまだ勉強不足で」

この間、飛龍と蒼龍は交互に二人を見ては、その発言にぎょっとしていた。

えっ?おばちゃん、元日本エリア長なの?どういう事?

「ちょっとこの子達のお願いを聞いてやって欲しいんさね」

「お願い、ですか?」

おばちゃんはぽんぽんと飛龍の肩を叩いた。

「怖がらないで本心を言ってごらんよ。大丈夫さね」

飛龍が見返すと、おばちゃんはにこりと笑って頷いた。

飛龍は深く息を吸ってから、ゆっくりと話し始めた。

途中、何度か蒼龍が自分の思いを補足した。

自分達は轟沈の経緯に、提督に、心残りがある事。

地上組の事を知らしめたいのではなく、世話になった提督に謝り、礼を言いたいと言う事。

「私はそう思ってますけど、飛龍ちゃんは付き合ってくれただけで・・」

「・・ううん。私も機会があるなら御礼を言いたいよ」

「ひーちゃん・・」

「私達は何度思い出そうとしても、所属していた鎮守府の番号も、位置も、どうしても思い出せなかったんです」

「・・・・」

「だからエリア長、お願いします。昨日、私達の町を通りがかった提督の鎮守府番号を、教えてください」

日本エリア長は眉を顰めて腕組みをし、少しの間考えていたが、

「少し、待っててください。我々にとって危険が無いか確認してきます」

そう言うと、奥の自席でしばらくパソコンのキーを叩いていたが、

「はあっ?・・えっ?ええっ?」

画面にぐっと近寄ってはごしごしと目を擦り、やがて印刷した紙を手に、困惑した様子で3人の所に戻ってきた。

「え、ええとですね・・」

「な、何か問題が?」

「元老院の一部の方と、その鎮守府とは契約を結んでるんだそうです」

「・・・は?」

飛龍は思わず素でそう答えてしまった。

おばちゃんは首を傾げながら言った。

「どういう事だい?」

「えっと、長老のお一人である浮砲台組長殿は、日本から遥か南の海に自拠点を構えてらっしゃいます」

「そうだったね。確かレ級組もご近所だろう?」

「ええ。温暖な気候の方が体にあってると仰って」

「で?」

「昨日、恐らく蒼龍さんがお会いになったのは、ソロル鎮守府の提督だと思います」

3人は首を傾げ、おばちゃんが呟いた。

「・・何で番号じゃないんだい?」

「それが、元々は第5646鎮守府と呼ばれていたそうなのですが」

「「!」」

その番号を聞いた飛龍と蒼龍ははっとして、互いに見合い、頷いた。

日本エリア長は続けた。

「大本営指令で移転し、ソロル鎮守府と改称したそうです。大本営内ではX01鎮守府と呼ばれてるそうですが」

おばちゃんは首をかしげた。

「なんでまたそんな番号にしたのかね・・何か違うのかい?」

「それがその・・理由が全く解らないのですが、とにかく我々に好意的なのです」

「地上組にって事かい?」

「いえ、深海棲艦に、という意味です」

「鎮守府・・なんだろう?」

「ええ。でも、浮砲台組にしろ、レ級組にしろ、ソロル鎮守府と契約してて」

「何をさね?」

「浮砲台組は、ええと・・白星食品の漁船の護衛を」

「な、なんだいその白星食品ってのは?」

「・・ち、鎮守府の所属艦娘が経営する水産加工会社だそうです」

「何でそんな事してるんさね」

「さっぱり解りませんが・・社長は元深海棲艦の、ビスマルクさんだそうです」

「え?なに?も、元深海棲艦?」

「は、はい、資料にはそう書いてあるんです。ここです・・」

「・・・ほんとだね」

「そしてレ級組の方は、や、山田シュークリームの公式・・護衛・・部隊?だそうです」

「・・ええと、それは何なのさね」

「し、深海棲艦が、深海棲艦向けにシュークリームを作ってるそうで」

「はぁ?」

「その配布員の護衛契約を、ええと、鎮守府のベンチャーキャピタルを通じて山田シュークリームと結んでるそうです」

「訳が解らないにも程があるさね」

「本当に、ほ、ほら、ここに書いてあります」

「別にアンタを疑ってるんじゃないんさね・・あー、浮砲台組長かレ級組長は居ないんさね?」

「あ、もうすぐ浮砲台組長さんは会議を終えて出てくると思いますよ」

「ちょっと呼んで来てくれないさね?」

「解りました。私も気になりますし」

ごく自然にスルーされたけど、元老院の幹部だよね・・こっちに呼ぶなんて良いのかなぁ。

飛龍は冷や汗をかいていた。

 

「これはこれは坂之上殿、ご無沙汰しております」

「なにジイ様の格好してるんさね?」

「いやまぁ、元老院として一応格好をつけませんとな」

「ちゃんとご当主のサポートしてあげてるんだろうね?」

「勿論」

飛龍は色々突っ込みたくて仕方なかったが、ぐっと堪えていた。

「ところでこの、白星食品と山田シュークリーム、そしてX01鎮守府ってのはなんなんさね?」

「あぁ、ソロルですか。我々も判断に困っておりまして。今は共存政策を維持してるのですが」

「厄介事でも押し付けられてるのかい?」

「逆です。あまりにも友好的なのです」

「そんな弱腰の鎮守府なら隙を突いて乗っ取っちまえばいいじゃないさ」

「いえ、それが、油断も隙も無いんです」

「・・・強いのに友好的って事かい?」

「ええ。建設時、付近に居た深海棲艦の7割以上をたった数時間で掃討する程の猛威を見せつけました」

「どんだけの大型鎮守府なんだい・・150名体制くらいかい?」

「いやそれが、所属艦娘は今も80名前後のごく一般的な規模でしてな」

「それでそんな攻撃力があるのかい?」

「ええ。ところが、鎮守府が出来た途端、急に態度が変わった」

「・・」

「他に類例も無く掴み所が無い。大本営もそれを意識してのX01という番号なのかもしれませんな」

「今、態度が変わったといったね。我々に何を要求してるんさね?」

「それが・・我々に食事を振舞ったり、水産加工会社や宝石工房を作ったり、何がしたいのか全く読めんのです」

「あー・・」

飛龍と蒼龍は苦笑しながらポリポリと頬をかいた。

あの提督の事だ。更に悪化・・もとい、進化を遂げたのだろう。

うん、何か色々変な出来事があったのを思い出してきた。バンジーとか・・

「あんた達、何か知ってるのかい?」

「何でも良い。提督について知ってる事があれば教えてくれないかね?」

おばちゃんと浮砲台組長がこちらを向いたので、飛龍は頷いた。

 

 

 


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