Deadline Delivers   作:銀匙

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S.03話

 

翌朝。

「なんだいなんだい?そんな目の下真っ黒にして・・」

「おばちゃーん」

ずっと悩みぬき、ほとんど眠れないまま、困り果てた飛龍は坂之上のおばちゃんを訪ねたのである。

勿論地上組には体調不良で休むと伝えてある。

 

「・・んー、そりゃ厄介だわ」

「良かったぁ、良かったよぅ・・・うえーん」

「なっ、何が良かったんだい?」

「悩んでるアタシがおかしいのかとー」

「いや、そりゃ、普通に難題だよ。地上組を裏切るような真似をするのは・・」

「でもー」

「まぁ、1課が出張る確率は無いとは言えないさね」

「ってことは、出てこない可能性もあるんですか?」

「地上組の事が大本営に知られないよう、知ってしまった鎮守府を潰すってのがルールさね」

「はい」

「だから深海棲艦になった蒼龍ちゃんが蒼龍ちゃんだって提督に気づかれるのは該当しないさね」

「・・あ」

「でもアンタが地上組に勤めてると知られたら限りなくアウトさね」

「ゲッ」

「更に言えば、そんな状況なら辞めさしてくれないと思うよ」

「ど、どうして、です?」

「辞めちまったらアンタは自由に提督に喋れるじゃないさ。罰が無いんだからね」

「やっぱり・・」

「だから無理矢理辞めたり姿を消したらアンタ含めて全員消しに来るよ。1課、あるいは2課がね」

「どうしよー、ねぇおばちゃん。色々な意味で私死にたくないよぅ、どうしたら良いのー?」

「アンタはどっちをとりたいんさね」

「えっ?」

「地上組の今の仕事か、提督さんに挨拶に行くのか」

「そりゃ今の仕事ですよ。挨拶行ったって復帰出来ませんもん」

「まぁ深海棲艦が鎮守府に就職出来るなんて話は聞いた事が無いさね」

「・・でしょう?」

「ふーむ」

おばちゃんはしばらく天井を睨んでいたが、

「・・ま、意見をまとめるかね。ついといで」

そう言うとどっこらしょと腰を上げたのである。

 

「・・なるほど」

飛龍と共にスーパーを訪ねたおばちゃんは、店長と蒼龍を交えた3人に提案を説明した。

だが蒼龍は懐疑的だった。

「万が一、万が一1課が提督や鎮守府の皆を手にかけたら、私、死んでも詫びきれません・・」

「だから、アタシが口を利いてあげるよ」

飛龍は恐る恐る訊ねた。

「本当に、お任せしてしまって良いんですか?」

おばちゃんは笑った。

「じゃあアンタやってみるかい?」

「絶対無理でございます」

「カッカッカ!可愛い教え子の頼みじゃないか!任せときな!」

店長がポケットからキーを取り出した。

「社用車、使われますか?表に止めてるセダンですけど」

「おや、借りて良いんさね?」

「しばらく使いませんし・・お店があるので私が出来るのはこれくらいですし」

「ん、ん、充分さね。これで足が確保出来た」

店長は蒼龍に向き直った。

「二村さん」

「はい」

「提督さんにお話出来ると良いですね。影ながら応援してます」

「あ、ありがとうございます」

おばちゃんは立ち上がった。

「じゃあさっさと出発しようかね」

店長が微笑んだ。

「お惣菜コーナーから好きなお弁当と飲み物を持ってってください。腹が減っては戦が出来ませんよ」

 

「・・・・」

高速道路を南下すると、湿った鉛色の景色は次第に乾いた景色になっていった。

ハンドルを握るおばちゃんの横で、飛龍は疲れきった顔で外をぼんやり眺めていた。

ほんとにこれが見納めになるかも・・・もうしょうがないか・・今まで生きられた事の方が奇跡なんだもん。

あーでも、最後にもう1度だけモヒート飲みたい。

後部座席の蒼龍が口を開いた。

「ひーちゃん」

「なによぅ」

「ありがとね」

「まだ何もしてないわよぅ」

「ううん。そんな事ないよ。だから、もしエリア長さんが怒ったら、全部私のせいだって言ってね」

「・・えっ」

「そして裏切り者を連れてきたんですって、私を突き出して」

「えっ」

「私はそれでも、提督や二人に害が及ぶより良いから」

「・・」

「だって私は、もう轟沈した身だもん。大丈夫」

「・・」

「ねっ?」

「・・うー」

飛龍が唸り始めたのを見て、おばちゃんは溜息をついた。

「やれやれ、蒼龍は本気でそんな事を飛龍が出来ると思ってるのかい?」

「いいえ?」

「えっ?」

「こう言えば、そんなの無理だよー、じゃ頑張ってーって流れに出来ますから」

「あ・・あー」

飛龍がジト目になった。

「ほんっと、蒼ちゃんて悪魔だよねー」

「えーそうかなー」

おばちゃんは苦笑した。

蒼龍ちゃんの方が地上組の幹部には向いてるかもしれないねぇ・・・

 

おばちゃんはとある地方のICで高速を降りると、そのまま田畑の続く田舎道を走り抜けた。

やがて民家が減り、里山となり、雑木林が両脇に生い茂る林道に変わった。

「あ、あの、坂之上さん」

「なんだい」

「ち、地上組の日本支部に、向かってるんですよね?」

「日本エリア長はそこに居るからね」

「と、東京とかじゃないんですか?」

「まぁ、理由は見てのお楽しみさね」

「・・・」

 

ふいに道の両脇が開けた時、飛龍と蒼龍は言葉を失った。

城壁。

もはやそうとしか言いようが無いほどの高く頑丈な塀が遥か先まで続いている。

その塀越しに建物の屋根が見えるが、一体どこまで続くのかというくらい果てしない。

「見えるかい?あれが正門さね」

二人がやっと識別出来たほど小さな黒い塊は、やがて見上げるほどの大きな門になった。

ふと見ると、元来た方角の敷地内へと巨大なヘリコプターが着陸していく所だった。

二人は言葉が出なかった。どんだけデカイんだ。

「失礼します。こちらにどのようなご用件でしょうか?」

門の脇の小屋から出てきた警備員が、運転席の窓を下げたおばちゃんに訊ねた。

「こちらの北陸地域部長が日本エリア長さんに相談があるんさね」

警備員が覗き込んだ時、飛龍はそっと頭を下げた。

「お待ちください。顔写真を1枚撮らせて頂きます」

警備員はスマホを取り出すと、おばちゃん達に向けた。

カシャッ・・

カメラの撮影音が聞こえた後、警備員はなにやら画面で操作していた。

程なくスマホから着信音が鳴り響き、

「・・ええ、はい。解りました。それでは」

そう言ってスマホを耳から離すと、おばちゃんに話しかけた。

「お待たせしました。認証が終わりましたので開門します。入ったら案内に従って左にお進みください」

警備員が言い終わる頃、ギギギと音を立てながら大きな門が開き始めたのである。

 

 

 


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