Deadline Delivers   作:銀匙

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S.02話

 

「・・・は?ほんとそれ?」

「ほんと」

「ヤ・・ヤバいわ・・C・・いやBランクかな。エ、エエ、エリア長の直通番号は確か・・」

蒼龍の話を聞いて真っ青になった飛龍はカバンから携帯電話を取り出した。

だが、手が震えてボタンが操作出来ない。

蒼龍は心配そうに飛龍に訊ねた。

「ねぇ、ひーちゃん」

「なに?あ、ごめん、電話帳呼び出してくれないかな」

蒼龍は飛龍から携帯をそっと受け取りながら訊ねた。

「良いんだけど、その前に1つだけ教えて」

「なっ何?は、早く電話したいんだけど」

「ひーちゃんは、提督の事、恨んでる?」

「えっ?」

問われた飛龍はぴたりと震えを止め、顎に手をやった。

「そっか・・・んー」

蒼龍はじっと飛龍を見ていたが、しばらく眉を顰めて考えていた飛龍はそっと口を開いた。

「恨みは無いよねぇ。あの状況を提督が予測出来る筈無かったし」

「うん」

「長門は即時撤退命令を出してたし」

「うん」

「無理に進撃させられたーって程のダメージでもなかったし」

「うん」

「・・まぁ私個人に限って言えば、提督に何の恨みもないんだけど・・」

「うん」

「でも、今の私を提督が見たら確実に討伐命令出されるよ?」

「なんで?」

「だってアタシ、地上組北陸地域部長やってんだよ?」

「うん」

「いや、うんじゃなくて」

「何かダメなの?」

「まず深海棲艦じゃん?」

「うん」

「で、会員が海軍に狙われたら881研が来る前に逃がす手伝いもやってるし」

「うん」

「地上組の事を大本営に知らせようとした鎮守府は、基本的に壊滅させてるんだよ?」

「・・えっそうなの?」

「露呈したら全面戦争になるからね。まだ実例は無いみたいだけど」

「そっ・・か・・」

「うん」

「私達・・提督の敵になっちゃってたんだね・・」

俯いた蒼龍に、飛龍は慌てたようにそっと声をかけた。

「そ、その、蒼ちゃんに言ってなかったのは、ショック受けるかなって思ってさ・・」

蒼龍は飛龍の携帯を持ち上げて言った。

「ねぇ、今日の事をエリア長さんに知らせるとどうなるの?」

飛龍の目が泳ぎ出した。

「えっ、そっ・・それは」

蒼龍は飛龍を真っ直ぐ見つめた。

「ちゃんと言って」

「わ・・私達は、他の地域に逃がされる。多分北欧とか、遠い国」

「それだけ?」

「・・いっ、1課が出てくると思う」

「提督の鎮守府を壊滅させるために?」

「う・・うん」

蒼龍はグっと携帯を握り締めながらいった。

「ひーちゃん」

飛龍は縮こまった。蒼龍の声色が明らかに変わったからである。

「はっ、はい」

「さっき、恨みは無いって、言ったじゃん」

「はい」

「私、そうじゃないかって声をかけられただけだし、人違いだって誤魔化したんだよ?」

「はい」

「なのになんで提督や長門達を皆殺しにしようとしてるの?」

「そ、それは、だって、それが、今の私の、し、仕事、なんだもん・・」

蒼龍の声が更に一段低くなった。

「・・・ひーちゃん」

「は、はい」

「地上組って、そんなゲスな組織なの?」

「えっ、ええっ?」

「艦娘だった私達を高Lvまで育ててくれたから、私達Flagshipクラスになれたんだよ」

「そ、そうだね」

「Flagshipクラスでなきゃ出来なかった事、沢山あるよね」

「あります」

「それは今の生活に欠かせないものだよね?」

「その通りです」

「じゃあ提督は今の生活の恩人でもあるんじゃないの?」

「・・そうなんだけど」

「もう1度聞くけど、提督に何か恨みでもあるの?」

「ない、です」

「ひーちゃん」

飛龍の目が揺れ出した。

「だっ、だって、だってさ、わ、私、北陸地域部長で」

「辞めちゃいな」

「・・・ふえっ?」

「そんな事しなきゃいけないなら、地上組なんて辞めちゃいな」

「でっ、ででででもそんな簡単には」

「悪い子は明日からご飯抜きよ?」

「すいません」

「ひーちゃん」

「ほっ、ほんとに、そんな簡単には辞められないし・・」

泣きそうになる飛龍を、蒼龍はジト目で見つめた。

「携帯は預かります」

「えっ?」

「返したら連絡するでしょ」

「だっ、だって、その、それが、義務で・・」

「うるさい。たかが仕事だの義務だので人の命を奪ったら取り返しつかないんだよ?」

「そ、そりゃそうだけど、で、でもねでもね」

「SIMカード割るよ?」

「止めてくださいお願いします」

「ひーちゃん」

「・・うー」

飛龍はこれ以上無いというほど渋い顔をしつつ、

「解ったわよぅ・・連絡しないわよぅ・・あー、エリア長にバレたら大変だー」

と、頭を抱えた。

「ひーちゃん」

「なによぅ」

「ひーちゃんは、提督と話したくない?」

「へっ?」

「私は、ちゃんと会って話がしたい」

「・・」

「別に地上組の事とかどうでもいいの」

「こ、これでも一応頑張って出世したんだけどなぁ・・地味に傷つくんだけど」

「提督に一切合財ぶちまけるわよ?」

「本気で止めてくださいお願いします」

「話を戻すけど、私、提督に何一つ言えずに今に至るの、ちょっと心残りだった」

「・・まぁ、ね」

「提督は艦娘だった私達に、とても沢山の事を教えてくれた」

「うん」

「Lv上げだけじゃない。常に未来を、生き方を、全部自分で納得するまで考えろって教えてくれた」

「考え方もね」

「だから私達は、あの海岸に打ち上げられた後も、考えて、選んだから、今まで生きられた」

「・・そうね」

「そしてもう1つ。あの作戦で私達は、撤退出来なかった」

「・・だ、だけどさぁ」

「事実でしょ」

「じ、事実です・・そんな睨まないでよぅ」

「提督は戦況が悪ければあらゆる手段を使って逃げて来いって言ってたじゃない」

「まあ・・100%勝ち目無かったもんね」

「それを守れなかった事を、謝りたいの」

「で、でも私達は無茶をして突っ込んだわけじゃないし、サボって沈んだんじゃないよ?」

「そうだけど、提督はきっと、凄く悲しんだんだと思う」

「どうして解るのよ」

「今日、私を蒼龍だと気づいた後、提督は真っ青な顔になってた」

「・・えっ」

「私が人違いだと言い切らなかったら、提督は、あの場で謝ってくれたんじゃないかって気がする」

「物凄く怒って蒼白になってたかもしれないよ?」

「違う。あの目を見たらひーちゃんも解る」

「・・」

「だから私は、謝って、感謝して、教えられた通り一生懸命考えて何とかやってますって伝えたい」

飛龍はテーブルの上でクーバリブレの缶を指でくるくる回しながら呟いた。

「・・まぁ、私もそこは、まぁ、そうかなぁ」

「ねぇひーちゃん」

「・・・えっ?何か凄く嫌な予感するんだけど」

「調べて?」

「へっ?なっ、なななななにを?」

「今日、この町を、どこの鎮守府の提督が、通ったのか」

「やっ、やややややめようよ。データ勝手に調べたなんてエリア長にバレたら二人とも殺されるよ?」

「ひーちゃん」

「だめだめだめだめだめ絶対ダメ。絶対ダメよ?ダメったらダメ」

蒼龍はひょいと飛龍の手からクーバリブレの缶を取ると、にこりと笑った。

「このクーバリブレ飲んじゃうわよ?」

「止めてください今週唯一の楽しみなんです最後の1本なんです」

「ひーちゃん」

「ほ、ほほほほ本気でエリア長怒ったら怖いんだって。ほんとに!」

「じゃあ、そっと調べる手を考えようよ」

「そ、そんな事しなくても規定通り通報すれば」

「クーバリブレ飲みながらSIMカードへし折ろっかなー」

「止めてください本気で勘弁してください」

「ひーちゃん」

「んもぉーお、なんでアタシが・・」

「私、地上組の内情なんて知らないし」

「うー、私、誤爆の巻き添えになるくらいのとばっちりじゃなーい・・」

・・・プシッ

「黙ってクーバリブレ開けるの止めて!解りましたやりますやらせて頂きます!・・うぅぅもぉ~」

飛龍はがくりと頭を垂れた。

エリア長に気づかれずにセンターのデータ調べてこいなんて・・・

戦場のど真ん中で阿波踊り踊るくらい無謀な事なんだけど・・

上目遣いに見た先で、蒼龍はにこりと笑うとグラスに注いだクーバリブレを自分の目の前に置いた。

エリア長も怖い。でも怒った蒼龍はもっと怖い。

とほほ、どうしたら良いのよアタシ・・誰か助けてよ・・

半分やけになった飛龍は、ぐいっとグラスの酒を喉の奥に流し込んだ。

ちくしょう!こんな時でもクーバリブレは美味しいわね!

「はー、どーしろってのよーもー」

「頑張って、地上組北陸地域部長さん」

「くっ!」

飛龍は歯を食いしばった。

もう本気で辞めてやろうかしら・・・

 

 

 

 


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