Deadline Delivers   作:銀匙

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第8話

話は現在に戻る。

 

5月22日 夕方

 

「ベレー、10時の方角に艦影が見える。どっちだ?」

ミストレルの問いにベレーはレーダーを向けた後、

「・・深海棲艦側ノ斥候部隊ダト思イマス。高速型駆逐艦4隻デス」

「どうする?話してくるか?」

「・・ソウデスネ。問題ナケレバ15分毎ニ探照灯デ合図ヲ送リマス。途絶エタラ迎エニ来テクダサイ」

「アタシはあっち、ヤシの木が1本突き出てる島の影に居るからな」

「解リマシタ」

ミストレルは島へと舵を切り、ベレーはそのまま深海棲艦達に近づいていった。

「コンニチハ」

「ヤァ、単独ノニ級トハ珍シイネ」

「哨戒任務デスカ?オ疲レ様デス」

 

「んー・・そろそろか?」

ミストレルは時計を見た。14分30秒が過ぎている。

そっと岩陰から片目だけ覗くと、ベレーがシグナルを出しているのが見えた。

よし。大丈夫。

ミストレルは再び時計を見た。予定より早めに動けてるから2時間くらいは余裕がある。

上手く聞きだせるかな、ベレーの奴。

 

ベレーは真面目な表情で説明を聞いていたが、深く頷きつつ呟いた。

「・・ソウイウ事ナンデスネ」

「アア。コノ計画ガ上手ク行ケバ良イノダガ・・・アアスマナイ、マダ回ル所ガアルンデナ」

「オ引止メシテスミマセンデシタ。オ気ヲツケテ」

「デハ」

艦隊が十分離れてから、ベレーはそっとミストレルの元に帰って来た。

「どうだった?話聞けたか?」

「聞ケマシタケド、チョット想像ヲ超エテマシタ」

「あん?」

 

「ト、言ウ訳デス」

「洒落にならねぇな・・・」

ミストレルはベレーの話を聞いて渋い顔になった。

ファッゾに相談すれば間違いなく「スーツケースを捨てて帰って来い」レベルの話だ。

 

 

 第2鎮守府の司令官を誘拐し、身柄引き渡しの条件として大本営に武装解除または停戦を飲ませる。

 

 

要約すればこれが深海棲艦達の計画である。

周辺6海域の深海棲艦が協力し、大本営が把握している数の50倍の軍勢で周囲を囲んでいるという。

先程の部隊は偵察がてら、作戦を知らない深海棲艦が巻き添えにならないよう知らせて回っているのだという。

 

だが。

それだけの戦力差があるのなら、今更スーツケースを届けようがどうしようが状況は変わらない。

深海棲艦達が動き出すのは明日の夜明け。今から最大戦速で突入すれば撤退を含めても十分間に合うだろう。

ミストレルは頷くと海図を取り出し、ベレーと計画を微調整した。

 

 

5月23日 未明

 

「あー、シアルガオ島臨時鎮守府はそこだよな」

「誰だ貴様は」

目的の島が視界に入った頃、単艦で進んでいたミストレルは艦娘で構成された2艦隊に止められた。

声をかけてきたのは一方の旗艦と思しき重巡艦娘だった。

静かな真夜中なのに緊張感を失ってない辺りはさすが第2鎮守府の精鋭だなとミストレルは思った。

ミストレルはあらかじめ聞いていた合言葉を話し出した。

「えっと、今夜は良く晴れてるな。星が881個は見えてるよ」

途端に相手の眉がピクリと動き、

「・・ああ。そこに見える星座は何だったかな」

「三本矢座だな」

「・・よかろう。荷は?」

「これ1つだ」

重巡艦娘は探照灯を照らしてケースの刻印と封印を確認すると頷いた。

「確かに。ほら、受け取りの札だ」

「了解」

「ではな」

くるりと背を向ける重巡艦娘に、ミストレルはそっと声をかけた。

「な、なあ」

「ん?なんだ。まだ何かあるのか?」

ミストレルは一瞬迷ったが、信じる信じないはこいつらの問題だと思い直した。

「耳かせ。大事な話だ」

 

「ミストレルサン、コッチコッチー!」

集合地点で待っていたベレーは、明かりをぶんぶん振り回しながらミストレルに声をかけた。

ミストレルはベレーの傍で止まると、島の方を振り向いた。

あの旗艦は司令官に報告するだろうか?

司令官は艦娘の話を信じるだろうか?

・・全員で夜明けまでに撤退出来るだろうか?

どう考えても蜘蛛の糸より頼りない確率だ。

しかし、脱走兵のアタシが引き返して説明したところで旗艦より信じてもらえる訳もない。

ミストレルはベレーに向き直った。

ベレーはきょとんとした顔で見返した。

・・ならアタシは、アタシが出来る事をやる。

「帰るぞ。時間が押してる。最大戦速出すから手を離すなよ」

「ハイ」

ミストレルはベレーの手首を掴むと、艤装の推進装置を最大出力にセットした。

ベレーは、アタシが護り抜く。

 

 

5月26日 夕刻

 

「受け取りの札です。残りの金を頂きたい」

「・・ギャラの残りと連絡された経費だよ。ああ、ギャラの割増分も入ってる」

バッグを受け取りながら、ファッゾは蛇又の表情が冴えない事に気づいていた。

札束を2つ3つ手に取り、真贋を確かめるとバッグに戻す。

「他ならぬ蛇又さんだ。額面通り入ってることは信じますよ」

「・・ありがとう」

ファッゾはサングラスの上端から見上げるように蛇又を見た。おかしい。

「どうしました?持って行った物で何かトラブルでも?」

「ん・・」

蛇又が顎をしゃくると、蛇又に同行してきた面々はミニバンに戻っていった。

蛇又は内ポケットからタバコを取り出した。

「吸うかね?」

「意志が弱いんで止めときますよ」

「ふ」

キン・・シュボッ。

深々と紫煙を吸って吐き出した後、蛇又は海原の方を見ながら言った。

「君達が島を去って数時間後に、深海棲艦との大海戦が勃発した」

「・・」

「第2鎮守府の少将閣下は現地で自害、艦娘も1名を除き壊滅した」

「・・」

「その艦娘が、少将から君達への伝言を持ち帰ったよ」

「え?」

蛇又はそっと、ファッゾに向き直ると続けた。

「・・・ありがとう。だが我々は引く訳には行かない、とな」

ファッゾは口惜しそうに目を細めた。

 

 

 

 


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