Deadline Delivers   作:銀匙

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第20話

ライネスの言葉を聞き、ニヤリと笑ったナタリアはくるりと踵を返し、店内に戻ってきた。

「じゃあ見届けてあげよっかなー」

「うへっ!?よ、余計な事をせんで良い!」

「ほらクーちゃん、こっちこっち。特等席よ」

クーもニヤリと笑った。

「僕はお母さんだからしっかり見届けないとねぇ」

「アンタ・・なんか姑っぽいわよ?」

「ちょっ!?」

盛り上がるクーとナタリアを横目に、見る間に茹でダコのようになって立ち尽くすライネスとルフィア。

それぞれにくっついていくナタリアとクー。

「ほらほら、ちゃんと向き合いなさいよ。ライネス、あんたどこ向いて言う気?壁と結婚するの?」

「あーあー、襟折れてるよルフィア。手で弄りすぎ。ん、これでよし。ほら笑顔固いよ?」

間近で向き合わされたライネスとルフィア。

たっぷり30秒ほど、ぷるぷる震えながらルフィアを見ていたライネスは、意を決して口を開いた。

 

「ルフィア。君と出会って10年が過ぎたけど、解った事がある」

「君が隣に居てくれないと、私はどうにも元気が出ないんだ」

「いつからそうなったのかはよく覚えてないけれど、今は間違いなくそうなんだ」

「元気が無くても生きてはいける。ちゃんと店くらい開けられる」

「でも君が居れば、私はとても嬉しくて、元気が出て、幸せなんだ」

「ルフィア、君が私の傍にいたら、私と同じように」

「嬉しくて、元気が出て、幸せになるように、する」

「だからルフィア、私の傍に、ずっと居て欲しいんだ」

 

ルフィアがそっとライネスの目を見た。

「それはその、私に・・C&L商会を畳んで、トラファルガーに居ろって事?」

 

ナタリアが、クーが、そしてルフィアがじっと見つめる中。

ライネスは答えた。

 

「あぁ。君が戦地の海で命を賭す事も、長い間居ないのも、嫌だ」

「・・お金、稼げなくなっちゃいますよ?」

「3人ぐらい、うちの稼ぎで食っていける」

「育ててもらった時に使わせてしまったお金、返せないですよ?」

「要らない。私が欲しいのは、ルフィア、君だけだ」

ナタリアとクーがムンクの叫びみたいな格好になる中。

ルフィアはライネスに抱きつき、熱い口づけをした。

愛している、その気持ちをありったけこめて。

ライネスの手が優しく自分の頭を撫でていると解った時、ルフィアの目から涙がこぼれた。

嬉しくて嬉しくて、ただただ嬉しくて。

ようやく正気を取り戻したナタリアとクーがゲフンゲフンと大声でわざとらしい咳払いをしまくっても。

二人は唇を離さなかったという。

 

後日。

その時のキスの味を訊ねられたルフィアは頬を赤らめながらこう返した。

 

「ええとね、その、しょっぱかった、わね」

その答えにアイウィは眉をひそめた。

「えー?普通はレモンの味とかイチゴの味って言わない?」

ビットがぽんと手を叩いた。

「あ!ファーストキスじゃないとか?」

見る間に真っ赤になったルフィアはバンとテーブルを叩いた。

「ちっ違います!ファーストキスですっ!・・・あ」

ルフィアの目の前には口に手をやりながら、によによと笑うアイウィとビット。

たまらず横を向くと、そこには親指だけ立てた拳を掲げ、ニッと笑うナタリアとクーが居て。

音速で反対側を向けば顔を赤らめ、視線を逸らすファッゾとミストレル、そして目を輝かせるベレーが居て。

 

「~~~~~!!!」

 

ルフィアはついに両手で顔を覆い、耳まで真っ赤になって立ちすくんでしまった。

 

そんな様子をライネスはキッチンから見つつ、頬を掻いた。

あの日から1年以上経つが、ありとあらゆる人から毎日こうして冷やかされている。

やっと先月になってC&L商会が店を閉じたという事もあり、昔の話題になるのはまだ先になりそうだ。

商売を畳むのが遅れたのは、それぞれの後任を決めて引き継いだ為だった。

最後までしっかりする事が大事だとルフィアは言い、ライネスも賛成した。

だから最終日はとても沢山の来訪者がC&L商会とキッチン「トラファルガー」に足を運んでくれた。

大盛況の店内でクーちゃんもルフィアも嬉しそうだった。私も感慨深かった。

だからこそ好意的に、今もトラファルガーを訪ねてくる客は三人を祝福してくれているのだと思う。

実を言えば、クーちゃんと自分達のスタンスは曖昧だ。

ルフィアの母親的スタンスのような感じでもあり、一方でお騒がせな所も変わっていない。

子供のようで、友達のようで、母親のようで。

だからこそちょっぴり不思議な毎日で。

それが飽きる事のない日々の欠かせない要素になっている。

私にとっても、ルフィアにとっても、クーは大切。

そんな3人の関係で良いと、クーも言ってくれた。

だからこのまま、1日でも多く過ごせますように。

 

「そう!そうだ!みっ、水!水のお代わり持ってきますうっ!」

 

視線に耐え切れず奥へと引っ込むルフィアを見送りつつ、ナタリアはくすっと笑った。

「実際、ライネスは男を見せたわよねぇ・・指輪もちゃんとカッコ良く渡したし」

 

年も押し迫った、雪が綺麗に積もった冬の晴れた、静かな満月の夜。

ルフィアが一番お気に入りの、海が見渡せる丘の上で、それはそれはムード満点の状況で。

ライネスはもう1度プロポーズをし、指輪をルフィアの手に嵌めた。

「いや、何て言って渡したら良いか解らなくてな・・」

そしてルフィアもルフィアで、プロポーズにプロポーズで返し、ライネスの手に指輪を嵌めた。

「だっ、だって、だって私も結婚したいって気持ちは一杯ある・・し・・・」

そこまで言った後、ふと、二人は怪訝な顔でそれらを訊ねたテッドに聞き返した。

「・・・どうして知ってるの?」

 

周囲に誰も居ない場所で行われたこの模様は、翌朝には町中の人間が一言一句きちんと知っていた。

なぜなら何者かがその模様をビット謹製の超望遠カメラと高感度集音機で記録し、町中にDVDで配ったからである。

「一体誰にシステム売ったの?!ビット!言いなさい!言いなさいってばぁぁああ!」

真っ赤になったルフィアが襟首を掴んで尋問したが、ビットは最後まで口を割らなかったという。

そしてDVDを見た町の人は声を揃えて言った。

 

 「うん、末永く爆発しろ」

 

実はこれが今なお二人が弄り回される主な要因である。

 

「ホットコーヒー、パンケーキ、それにチョコミントアイス、あがったよ」

「あっ、はぁーい!」

ライネスの声にパタパタと駆け寄るエプロン姿のルフィア。

店でウェイトレスとして働くうちの奥さんは、それはそれは可愛らしい。

カウンター越しに手渡す時、ついつい私はにこりと笑ってしまう。

「どうしたの?あなた」

ルフィアは少し首を傾げて、でもにっこり微笑み返してくれる。

いつも通り、最高の笑顔だ。

ルフィアの左手薬指で、ライネスが贈った指輪がきらりと輝いていた。

 




3章、終了です。

ちなみに初老って40歳丁度の意味なんですけど、意外と予想外、もっと年下から思ったという反応が多くてびっくり。
提督は117研所長までやった人なんでそれなりに年が行って無いとおかしいかなって、ね・・まぁ40でも地位や経歴的に相当若いんですが。

今章は輸送ワ級が主役でした。
ワ級のノーマルクラスだけに見られる非武装という特徴。
さらに軍閥にも属さず、護衛が居ないとすればどう生活手段を得て、何を見て、どう生きると決めるのか。
その辺りをタネに膨らませてみましたが、今回のお話は如何でしたでしょうか。
コメントを首をニュッと長くしてお待ちしております。



さて、お知らせですが、本編をこれから数日止めたいと思います。
理由は特別編としてリクエストにお答えしたいと思うネタがあるのです。
本編とはちょっと異なりますし、それ程長くなりませんから、新章とせず、特別編とする事にしたのです。

特別編は1日に何話かアップしていきます。
ちょっと文の編集が荒いかもしれませんが、勢い大事という事で。
「艦娘の思い・艦娘の願い」に続編として書いても良いんですが、まぁあっちは完結させてますし、こっちのスタイルで書く方がまとめられる気がしたので。
もうお分かりの方も居るかもしれませんね。
楽しんで頂ければ幸いです。

それでは明日6時から数日間。
お付き合いの程、よろしくお願い致します。

追記:
特別編はDeadlineDeliversの新章扱いで公開しますよ~
説明が下手でごめんなさい(><)

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