Deadline Delivers   作:銀匙

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第16話

 

 

「で、その相談をしに、うちへ来たって訳?」

「突然来た事は謝る。ごめん!でも僕じゃどうにもならなくて、でも」

「・・解ったから、玄関開けたまま大声上げないで。とりあえず座ったら?」

「う、うん、ごめん・・」

 

事務所に入ってくる二人越しに茶を用意するよう部下に伝えると、ナタリアは細巻き煙草に火をつけた。

ソファに座った二人の前に、そっとアイスティーが置かれた。

「運が良いわね。本場の上質な茶葉よ。荷を運んだお礼に貰ったの」

ルフィアは目の前に置かれたグラスを見つめながら弱々しく答えた。

「・・うん。ありがとう」

 

ナタリアはその返事に目を剥いた後、溜息と共に紫煙を吐き出した。

「ちょっとぉ、幾らなんでも変わり過ぎでしょ。アンタがライネスの事を好きなんて町中誰でも知ってるわよ?」

「・・・へ?・・・クー?」

表情の抜け落ちたルフィアが死んだ魚のような目をクーに向けた。暗い瞳に狂気と殺意が満ちている。

クーは大慌てで手と首を振った。

「ぼっ、僕は何も言ってない!言ってないよ!」

ナタリアはジト目で続けた。

「クーから聞いたんじゃなくて、アンタがライネスと居る時の態度見りゃ誰だって気づくわよ」

クーはルフィアががくりと頭を垂れたので、ほっと息を吐きながらナタリアに言った。

「でもきっと、ライネスのおっちゃんは気づいてないよ?」

ナタリアは溜息をつきながら頷いた。

「ええ、ファッゾやテッドもね。あのビットだって気づいたのに、どうして男って鈍いのかしらね」

その時、俯いたままルフィアがつぶやいた。

「・・そうよ・・ライネスおじさまが気づいてくれないのが悪いのよ」

ぎょっとした顔でクーはルフィアを見た。

「ル、ルフィア・・?」

「こんなに愛してるのに・・こんなに大好きなのに・・おじさまの為なら何だって出来るのに」

「あ、あの」

「おじさまと結ばれないのなら生きてる意味なんて無い。私、私は・・」

ナタリアは目を細め、紫煙を吸い込みながら言った。

「アンタ、何でも出来るって言ったね?」

「・・ええ」

「じゃあ真正面から告白しなさいな」

ルフィアはがばりと頭を上げ、ナタリアを凝視した。

「っ!!!」

「何でも出来るんでしょ?」

真っ赤な顔から真っ青な顔へと一気に変わったルフィアはしどろもどろで答えた。

「で、ででっ、でででも、も、もも、もし断られたら」

「おや、じゃあ何でも出来るってのが嘘だったのかい?」

ルフィアは数秒固まった後、がくりとうなだれた。

「・・・そうね。何でもって言うのは嘘」

「素直に認められるとこっちが困るんだけど」

ルフィアは消え入りそうな声で答えた。

「しょうがないわ。本当の事ですもの」

ナタリアは細巻き煙草を持ったまま頬杖をついた。

「でもさぁ、正直な話、生きてる限りうんざりするほどの男と出会えるのよ?」

「・・・」

「こっちは幼女から老婆まで好き放題化けられるんだから、年の差なんて1ミリも関係ないし」

「・・・」

「もっといえば化け分ければ同時に何股だってかけられるのよ。自分さえトチらなきゃね」

「・・・そっ」

「うん?」

「そんな汚らわしい事いらない!それに、男だからじゃない!優しく愛を教えてくれたライネスおじさまだから!」

「じゃー宣教師のところでも行きなさいよ。何日もかけて優しく聖書の解説してくれるわよ?」

「ちがっ!」

「何が違うって言うのさ?え?ルフィア」

「えっ?」

「アンタが望んでる事はそんなに高潔な、人に語れるような清らかで真面目な事なのかい?」

「えっ・・ええっ・・と・・」

ナタリアはニッと笑って目を細め、ゆっくりと紫煙を吸い込み、吐いた。

「アンタ、ライネスと男女の関係になりたくないの?」

「そっ・・れ・・は・・」

「托鉢僧に説法語ってもらって悟り開きたいようには見えないけど?」

「え・・ええと・・」

「耳元で優しく睦言語ってもらって、人に言えないような時間を過ごしたいんじゃないのかい?」

「う・・うあ・・・・」

「身も心も蕩けるような時間を愛する相手に満足するまで求め、味わいつくしたいんじゃないのかい?」

「そっ・・それで・・良いの?」

全身真っ赤になったルフィア、何の事だろうときょとんとするクー。

本当に対象的で面白いわとナタリアは思いながら続けた。

「良いんじゃないの?男女ってそういうもんでしょ。求め合って気持ち良くなった果てに子をなすんだし」

「こっ、子供っ!」

「それが愛するって事でしょ。聖書に書いてある愛と愛する事は違うわよ?」

「・・・」

「アンタそれを一緒だと思って、目一杯ブレーキとアクセル同時に踏んでたんじゃないのかい?」

「・・・」

「かたや愛したいとアクセルを踏み、かたや高潔な愛でなければならないとブレーキを踏んづける」

「・・・」

「そんな事してたら狂っちゃうわよ?」

クーはそっとルフィアを見て、ぎょっとした。

ルフィアは笑いながら泣いていた。

「そっかぁ・・うん、私・・あははっ、そうだ・・そうよね・・」

「ルっ、ルフィ・・ア・・?」

ナタリアはじっとルフィアを見ながら続けた。

「アンタはアンタを許してあげなさいよ。そう願う事は忌むべき事でも汚らわしい事でもないわよ?」

「・・違う、の?」

「それが好きって事で、愛して欲しいって望むって事よ。当たり前の感情。強行すれば犯罪だけど」

「・・・」

ルフィアはそっと、グラスを掴んだ。

数回、グラスに浮かぶ氷をくるくると回す。

そして目を細め、ふふっと笑うとアイスティーを、こくり、こくりと飲み干した。

明らかに今までのルフィアと違う何かを察したクーはふるるっと震えた。

 

 コトリ。

 

ルフィアはグラスをそっとテーブルへと戻した。

その仕草は少女のそれではなく、女のそれだった。

ナタリアは小さく頷いて言った。

「答えは見つかった?ルフィア」

そっと、艶のある視線でルフィアはナタリアを見返した。

「ええ。よく解ったわ。借り1つ、ね」

ナタリアは口角を上げて笑った。

「アンタと同じ男の争奪戦にならなくて良かったって心から思うわ」

「そう?うふふふ」

「頑張りなさい。トチらないようにね」

「ええ。絶対に、しくじらないわ」

クーは二人を交互に見ていた。

一体どうなっちゃったの?

 

 


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