Deadline Delivers   作:銀匙

73 / 258
第15話

ルフィアはそのままの姿勢で、過去の記憶の掘り起しから今の気持ちの整理に移っていた。

 

・・そうだ。

ほんの2ブロックだけ、たった数年だけ、離れて住んで解った事がある。

私はおじさまと居たいんだって。

だって、離れていた時も、おじさまの店に行く理由が出来たらとても嬉しかった。

いつもおじさまの店に行ってたら、きっと寂しくて帰れなくなる。

だからいつもは他の店に行って、食べ損ねたらおじさまの店に行こうって自分へのルールを作った。

だから、だから、事務処理が大変でも、伝票が多くても平気だった。

夢中で仕事しても、食べ損ねたらおじさまの店に行けるって、無意識のうちに思ってたんだ。

 

でも、おじさまには何一つ言えない。

おじさまは間違いなく、私を見てもルフィアじゃなくて姪御さんだと思って見てる。

それで良いと、納得、した、筈。

私はどのようにでも化けられて、たまたま今の姿が姪御さんそっくりで。

それでおじさまが喜んでくれるなら、それで・・・

それで、良いって・・思っ・・

 

 「ねぇ!どうしたのルフィア?大丈夫!?」

 

声に気づいて目を開け、焦点を合わせると、いつになく真剣な顔で肩を揺さぶるクーの姿があった。

「・・えっ?えっ?何?」

「良かった、気がついた?さっきからお昼ごはんだよって何度呼んでも来ないんだもん」

「あ、あー・・」

「それはそれとして、ルフィア」

「なによ」

「何でそんなに泣いてるの?」

「えっ?」

ルフィアは自分の頬に手をやった。

そこには幾つもの涙の跡があった。

クーがぐいと顔を近づけた。

「ルフィア」

「う・・うん」

「僕は、どんな事があっても、ルフィアの傍にいるよ」

「・・うん」

「食べたくないかもしれないけど、おっちゃんが待ってるから下に行こう?ちょっとだけでも食べよ?」

「・・・うん、ええと」

「?」

「ありがと、クー」

「へへっ」

 

 

1時間後。

 

「・・だから、姪御さんの代わりで良いって・・思ってた・・筈なのに・・」

 

昼食を取り、店の片づけを手伝った後、自分の部屋でルフィアはクーにぽつりぽつりと話していた。

ルフィアは思った。

なんだろう。

どうしておじさまの事を話すと涙が止まらないんだろう。

おじさまと居ると楽しいのに、どうしよう、これじゃクーが誤解する。

 

「うーん・・」

クーは腕組みをして考えていたが、やがてルフィアに向き直ると言った。

「まとまってないから、ごちゃごちゃになるけどさ」

「良いよ」

「まず、えっと、おっちゃんに金を返せなくなっちゃったのは、僕のせいだから、ごめん」

「二人で決めた事でしょ。ナタリアの提案に乗って、古巣の軍閥を助けるって」

「そうだけど、ルフィアの言うとおり、輸送を断って伝言だけする手もあったし、そしたら今頃目標額だったじゃん」

「・・まぁ、ね」

「だから、万一の事とかあれこれ言って強行したのは僕だから、謝る」

「・・」

「で、もう1つの件だけど、ルフィア」

「うん」

「僕が今のルフィアの姿になろっか?」

「えっ?」

「それでさ、ルフィアはもっと年上のお姉さんに化けたらどうかな」

「どういう・・こと?」

「僕はおっちゃんに恩義は感じてるけど、友達以上の気持ちは無いよ」

「・・」

「だから姪っこちゃんの代わりに可愛がられても平気なんだ」

「・・」

「でもルフィアはさ、自分を、えっと、ルフィアとして見て欲しいんでしょ?」

「!」

 

クーが言葉を選びに選び、そっと放った一言はルフィアの心の深い所にある何かに直撃した。

ふるふると震えだしたルフィアを見ながら、クーはそっと続けていく。

 

「だったら、ルフィアはさ、えっと、おっちゃんとつりあいの取れる年に化けたら良いんじゃないかな」

「・・」

「地上組では年の取り方も教えてくれるんでしょ?」

「・・」

「その辺りを習ってさ、おっちゃんが死ぬまで人間のように振舞ってみたら?」

「・・」

「今から人間になるより、折角好きな年齢に化けられるんだから、それを生かしたらどうかなって」

「・・」

「ダメ、かな・・」

 

ルフィアはしばらく沈黙していたが、やがて絞り出すような声で言った。

 

「も、もし、私が今の姿じゃない姿に化けて、おじさまが、い、嫌だって、言ったら・・」

「・・」

「私・・もう・・生きていけない・・そんな冒険をするの・・こ、こわい・・よ・・」

 

クーは溜息をついた。

ルフィアは本気も本気、命を賭した恋愛をしている。

だめだ。

恋愛なんてした事が無い僕じゃどうしてあげたら良いか解んない。

誰なら・・この問題を解決出来る?

答えは出ていなかったが、クーはカタカタと震えているルフィアの手を取った。

「行こう」

「・・えっ?」

「とにかく行こう!さぁ!道を開こう!」

 

店の扉を開けながら、クーは言った。

「おっちゃんごめん!今晩は二人で外で食べてくる!」

ライネスは頷いた。

「あんまり夜に出歩くなよ。泊まって来ても良いから連絡を入れなさい」

「はーい!じゃあね、おっちゃん!」

 

出て行った二人を見送りながら、ライネスは考え込んだ。

いつも手を引くのはルフィアなのに、今は逆だった。

そしてルフィアはこちらを見ようともしなかった。

昼食の時から様子がおかしかったが、一体どうしたのだろう?

一緒の物を食べてるから、食当たりなんて事は無いはずだ。

やはり昨日の事だろうか?

確かにどっちを選んでも手放しで喜べる未来にはならない。

ルフィアは賢い分、ずっと先を見てしまうのだろう。

ライネスはふと、ポケットから象牙と金で出来たタンパーを取り出し、きゅっと握った。

神様。どうかあの子達に幸せを、御導きください。

私はその為にいかなる助力も惜しみません。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。