Deadline Delivers   作:銀匙

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少々表現に訂正を加えていた為、1時間遅れの配信となりました。
申し訳ありません。



第13話

 

見た目が変わらず、ずっと少女や若い女性の姿をしている艦娘や化けた深海棲艦達。

その為よく誤解されるが、例えば最長老である大本営の雷やヴェールヌイ相談役は1世紀近い時間を生きている。

それでも、人間の平均寿命や最高齢と比較すればそれほどの差異は無いように思うかもしれない。

だが、彼女達はその間ずっと「最前線に立てる現役」なのである。

人間の場合、どんなに頑張っても生後約20年は育成期間で、60歳を過ぎれば退職である。

つまり頑張っても40年そこらしか就労出来ないし、「最前線に立てる現役」はその中の20年程度。

戦死や病死、中途退職等で去る事も勿論ある。

かたや艦娘達は先程も書いたとおり最初からずっと「最前線に立てる現役」である。

つまり、雷や五十鈴から見ると、周囲の人間はどんなに長くても2世代、平均して4世代は交代している。

着任当初に周囲に居た人間は全員亡くなり、下手をするとその孫の代さえ亡くなる頃合なのである。

いかに艦娘や深海棲艦にとって人間の寿命が短く感じるかお分かり頂けるであろう。

 

ライネスは苦笑しながら言った。

「まぁその、ベレーちゃん達にとっちゃ20年はあっという間かもしれないが・・」

ファッゾが頷きながら続けた。

「人間は老いるからだろうな。60年でも生涯としては十分長い時間だよ」

ミストレルは頬杖をついた。

「考えた事無かったけど・・アタシ達とファッゾ達の時間の感覚は全然違うんだな・・」

ベレーはストローでグラスに入ったソーダを混ぜながら言った。

「私、ファッゾさんやテッドさん、もちろんライネスさんともずっと居たいです。その後が想像出来ません」

その時、カウンターで静かにウィスキーのグラスを傾けていた武蔵が振り向いた。

「我々の時間にファッゾ達が合わせる事は出来んが、逆は出来るぞ?」

クーが肩をすくめた。

「まぁ、艦娘の皆には解体っていう手段があるからねぇ」

ルフィアも頷いた。

「そうすればライネスおじさまと同じ人間としての時間を歩めますものね。でも、私達は・・」

武蔵がルフィアを見た。

「うん?まだ聞いてなかったか」

「何がです?武蔵さん」

「あぁいや、例のソロル鎮守府なんだが」

「あの魔境がどうかしましたか?」

「何故に深海棲艦が大勢集まっていると思う?」

「カレー教に洗脳されて狂ってしまったからでしょう?」

「ま、まぁ、カレー教の事は否定しないが、最近はそれだけではないらしい」

「と、おっしゃいますと?」

「深海棲艦を艦娘や人間に戻してくれる。結構遠くの海域まで勧誘の為の船を出してるらしいぞ」

一瞬、場が静まり返ったが、沈黙を破ったのはクーのヘッという笑いだった。

「どうせデタラメで、船も乗ったら自爆するとかなんでしょ?酷い手使うじゃん」

ルフィアも頷いた。

「深海棲艦から艦娘に真剣に戻りたがっている子は沢山居るのに・・それを利用して騙すなんて・・」

だが、武蔵は首を振った。

「気持ちは解るが続きを聞いてくれ。我々は以前、野暮用でソロル鎮守府に行ったのだがな」

「うん」

「その時、深海棲艦になっていた姉上と扶桑を艦娘に戻してくれたのだ」

「・・・えっ?」

腕組みをしていたファッゾが思い出したように口を開いた。

「そういえば神武海運に大和さんと扶桑さんが増えたな。てっきり逃げてきたのかと思ってたが」

武蔵が続けた。

「ソロル鎮守府の司令官は、艦娘も深海棲艦も希望すれば社会復帰させる用意があると言った」

クーが笑った。

「どうして鎮守府が深海棲艦に手を貸すのさ?敵だよ?うまい事言っておびきだそうとしてるんじゃない?」

「それなら姉上や逃亡兵の我々がここに戻ってきている事をどう説明する?」

「あれ・・そっ・・か」

その時、ベレーが天井を見ながら言った。

「そういえば・・私も前にソロル鎮守府へ配達に行った時なんですけど」

「うん」

「工廠で艤装をメンテナンスしてくれたんです」

 

ミストレルを除く面々は一瞬聞き流し、えっという顔でベレーを見た。

 

クーが訊ねた。

「それって、艦娘に戻ってから?」

「いいえ、深海棲艦だった時です。私も出来るのかなって、ちょっぴり心配だったんですけど」

「直してくれたの?」

「はい。とても調子が良くなりました」

ルフィアは眉をひそめた。

「解体後は戸籍取得や後見人といった手続きがあります。逃亡兵や深海棲艦にまでやってくれるとは・・」

武蔵は肩をすくめた。

「ソロル鎮守府の司令官は出自は問わぬし、司令官が後見人になって戸籍取得や就職の面倒も見ると言った」

「そんな事を本当にしてくれるなら、それこそ深海棲艦が山のように押しかけ・・あっ」

武蔵が頷いた。

「そういう事だ。また、こんな噂もある」

「なんでしょう?」

「深海棲艦から艦娘に戻らないかと勧誘してる深海棲艦の一団があるそうだ」

「えっ?」

「こっちは軍閥単位で誘っているようだ。応じた所もあるようで、最近勢力図の変更が激しくなっている」

クーが思い出したように言った。

「・・あー、あれってそういう事だったのかなあ」

「どうしたのよ、クー」

「懇意にしてくれてた軍閥がね、契約を終了するって言ってきたんだけどさぁ」

「解約くらい普通にあるでしょ」

「どこかで会ったとしても私達は絶対撃たないからね、って言ったんだよね・・」

「別の軍閥に併合されたんじゃないの?」

「その海域で最大手だったから去る理由が無いんだよ。彼らが居なくなった後は紛争状態になって大変だったし」

「ふーん・・」

武蔵が肩をすくめた。

「噂の方の真偽は定かではないが、ソロル鎮守府の方はそういう事だ」

「・・・」

「だから人間となって一緒に時を歩みたいなら手段はある」

「・・・」

「ただ・・」

「なに?」

「見た所、ソロル鎮守府の司令官は初老を過ぎていた。軍役が残り何年かは解らぬが・・」

ルフィアが頷いた。

「司令官が変われば鎮守府の方針はまるっきり変わってしまう。そこね?」

「そういう事だ」

 

 

 


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