Deadline Delivers   作:銀匙

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第7話

「・・やべぇ」

ミストレルが思わず呟くくらい、夥しい数の艦娘達が自分の予定航路を横切っていく。

全員戦闘準備を整えた艦隊であり、ミストレルのように単艦など居ない。

集まっている規模から言っても討伐クラスの大海戦対応だ。

そうミストレルの勘は告げていた。

 

自分は逃亡兵だ。

艦娘達に気づかれないよう島影に停泊してやり過ごすか、あえて話しかけて疑われないようにするか。

迷っているうちに偵察中の艦載機に発見されてしまった。

程なく艦載機を回収する為か、単独で艦娘が近づいてきた。

「第11263鎮守府の隼鷹だよ。そっちは?」

しまった。以前所属してた鎮守府のナンバーなんて言えない。

「あ、えーと、アタシは摩耶だ。西方海域への長距離遠征帰りなんだけどよ、皆は討伐か?」

「あぁ。全鎮守府に招集かかってる例の討伐だよ」

「もうそんな時期だったかあ。じゃあアタシも帰ったら出撃命令かかるかなー」

隼鷹は周囲をきょろりと見回した後、ミストレルに耳打ちした。

「暗号表の7は使っちゃダメだって1ヶ月前から指令が出てるだろ。今は1か3を使っとけよ」

ミストレルはひやりと汗をかいた。当然最近の指令変更なんて知らない。

「そうだった。つい癖でさ」

隼鷹はにこりと笑った。

「だよなー、アタシもラッキーセブンだからつい使っちまうんだよー」

「あはははー」

よし、切り抜けられる。ミストレルがそう思ったとき。

「隼鷹ダメじゃない!隊列から勝手に離れないで!」

そう言いながら近づいてくる飛鷹を見た途端、隼鷹の表情が曇った。

「ゲ。お前早く行け」

「え?」

「お前、脱走兵だろ。飛鷹は容赦しねぇからさ」

「・・・」

見抜いてなお、隼鷹は情報を伝えてくれたのだ。

これから帰港するまでに、犯してはならない致命的な間違いを。

ミストレルはとっさに自分の連絡先が書かれた名刺を隼鷹の手に押し付けた。

「お?」

「物を運びたかったら連絡しな。必ず届けてやる。この借りは返す」

「左舷側の島を回り込んで中央の海峡を進みな。艦隊航路から外れる」

「サンキュー」

こうしてミストレルと隼鷹は目配せを交わし、隼鷹は大袈裟な身振りで飛鷹の所に戻っていったのである。

 

「そうか。出航前に最新情報の収集をしておく必要があるな」

「やー、敵の群れに遭遇するのとは別の意味で冷や汗かいちまったぜ」

隼鷹のくれた情報のおかげで、以降遭遇した艦娘達とは暗号表1で通信を交わし、事なきを得た。

ミストレルは帰港後、ファッゾに顛末をすっかり話して聞かせたのである。

ファッゾはしばらく顎を撫でていたが、ちらりと時計を見ると

「じゃあ外でメシ食うか、たまには」

と言い、ミストレルを促したのである。

 

「いらっしゃい」

チリリンと鐘を鳴らしながら、ファッゾ達はキッチン「トラファルガー」のドアを開けた。

中から声をかけたのは口ひげを蓄えた初老の男だった。

「やぁライネス、元気かい?」

「どっかの誰かさん達が何でも屋を廃業しちまったからな。買出しが面倒だよ」

「そりゃすまないな」

「ミストレルもピラフ定食で良いのか?」

ライネスの問いにミストレルは頷いた。

「その方が手間が省けるだろ?ピラフ旨いしな」

「良い子にはエビフライをサービスだ」

「やった!」

嬉しそうにテーブル席に座るミストレルを横目に、ファッゾはライネスにたずねた。

「なぁ、情報屋で信用出来るのは誰だ?」

「ネタにもよる。深海棲艦関連ならムファマス、海軍内部ならケイル、海域関連なら・・」

ライネスはカウンターの奥に顎をしゃくった。

「そこに居るマッケイだろうよ」

ファッゾはマッケイに近寄ると、声をかけた。

「やぁ、海域関係に詳しいって聞いたんだけど、どんな事を聞いても良いかな?」

マッケイはグラスをコトリとカウンターに置くと、口を閉じたままファッゾを見返した。

ピンと来たファッゾはライネスに聞いた。

「すまん。こういう時の相場は?」

ライネスはニッと笑って答えた。

「そうさな。奴はそろそろジントニックのお代わりが欲しい頃だろうよ」

「OK、奢るよ」

ライネスがジントニックをマッケイに手渡すと、マッケイはニッと笑った。

 

手渡されたジントニックを旨そうに一口飲んだ後、マッケイは話し始めた。

「元何でも屋で今は大手の一角に食い込もうって勢いのブラウン・ファッゾさんだな」

「毎日食うので精一杯だけどね」

「質問の答えだが、鎮守府と大本営のやり取りなら大体解る。深海棲艦が新たに出現した海域とかな」

「それはその、イベント、とかもか?」

マッケイは目を細めた。

イベント、とは海軍内の符丁であり、その意味は「大討伐事案」である。

「ふーん、なら話は早ぇや。クエスト含めた定期連絡と緊急通信は押さえてる」

「情報料は?」

「一言2千コイン」

その時、ライネスはおやっと言う顔をして口を挟んだ。

「マッケイ、それはお得意さん向けの値段じゃなかったのか?普通は4千コインだろ?」

マッケイはファッゾを見ながら言った。

「そうなるだろ?ファッゾさんよ」

ファッゾは肩をすくめた。

「間違いなくね」

マッケイは目を輝かせながらピラフを食べ始めたミストレルをちらりと見た。

「あの嬢ちゃんの為だろ?」

「経営者としては従業員の安全確保義務があるんでね」

「義務ねぇ。まぁ良いや。オフィスはこの裏、デカいアンテナが目印だ」

「定休日と営業時間は?」

「そんな物があるような上等な商売じゃねぇよ」

「解った。じゃあこれからよろしく」

「ごちそうさん」

マッケイが機嫌良く出て行ったのを見送ると、ファッゾはミストレルのいるテーブルに戻った。

そして少し怪訝な顔になると、

「なぁ・・確かピラフ定食にはエビフライが2本ついてた気がするんだが、なぜ俺のは1本なんだ?」

「気のせいだろ」

「そーかなー」

「う、疑うなら証拠はあるのかよぅ」

ファッゾはついとミストレルの皿の端を指差した。

「どう見てもエビの尻尾が4本分あるんだが?」

「!」

「ライネスはオマケしてくれても1本だ。なら2+1は3だよな」

「・・・」

「なんで4つあるのかなー?」

「ご・・」

「ご?」

「ごめん・・1本食べた」

「正直でよろしい」

ファッゾはピラフを頬張って目を細めた。

ライネスの料理は少し冷めたくらいでは、その美味しさは変わらないのだ。

 

依頼をこなす度に、二人の役割は自然と固まっていった。

ファッゾは依頼内容の交渉、金銭管理、兵装の調達、海域の情報収集および全体計画の立案。

ミストレルは実際の輸送と艤装の整備、である。

マッケイ達の情報によって依頼の成功率も上がり、コストも無駄が無くなった。

「サンキュー、見立てが良かったから楽なもんだったぜ」

ミストレルが笑顔で帰ってくる度、ファッゾはほっとしながら頭を撫でたのである。

 

 

 




思いきり名前間違えてましたので数ヵ所訂正。
途中で名前変えるとろくなことになりませんね。
反省。

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