Deadline Delivers   作:銀匙

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第5話

 

クーがルフィアを責めるような目で見ると、ルフィアが申し訳なさそうな顔になった。

ライネスは手を軽く振った。

「もう2年も前の事だし、大丈夫だ」

「ご、ごめんなさい。あの、客船事故ということは、もしかして・・」

「ダメだよルフィア、こういう事は詳しく聞いたら失礼だよ!」

「えっ!あのっ!ごめんなさい!私そんなつもりじゃ」

ライネスがふふっと笑った。

「クーちゃん、良いよ。えっと・・君の名前はルフィアっていうのかな?」

「あ、あの・・・はい」

「じゃあルフィアちゃんにクーちゃん、ちょっと長いけど聞いてくれるかな?」

二人がこくりと頷いたので、ライネスはガラスの器を2つ取り出した。

そして冷凍庫からチョコミント味のアイスを取り出すと、盛り付けて渡したのである。

「あの・・これは・・」

「僕達お金持ってないよ?」

「話を聞いてくれる御礼とでも思ってくれれば良いさ」

ライネスからアイスの入った器へと目を移した二人は

「頂きます!」

と、にっこり笑った。

 

はむっ。

 

「~~~~!!!」

 

ルフィアが目を見開き、幸せ一杯の顔になった。

美味しい・・こんなに美味しい物を食べた事が無い。

プチプチ入ってる粒が甘くほろ苦く、飲み込めば爽やかに喉を過ぎていく。

「これは、なんという食べ物なんですか?」

「チョコミントアイスだよ。粒々がチョコで、緑の所がミントアイスだ」

「へぇぇ・・」

急いで食べるのは勿体無い。勿体無いけどスプーンがとまらない!

「美味しいねー」

「美味しいわねぇ・・」

 

ライネスは二人の様子を見て微笑んでいたが、食べ終えたのを見て話し出した。

 

兄の家族3人と共に、寂れ行く郷里の国を捨ててきた事。

当時は景気が良かったこの港町で起業すべく、家を買って4人で飲食店に改装した事。

開店当時はこの国の税制や諸手続きが解らなくて何度も迷惑をかけた事。

ようやく軌道に乗った時、家族水入らずで旅をしておいでと送り出した事。

その帰り道、客船が台風を避ける為に取った航路で深海棲艦と思われる砲撃にあって沈んだ事。

 

「だからこの店は、ほら、あの辺がデコボコしてたり、机の高さが微妙に違うだろ?」

「・・・」

「町の人間も随分減っちまったし、店も赤字続きだが、それでも兄貴達と作った店だからさ」

「・・・」

「そんなわけで、最後まで頑張ってみようと思っ・・」

 

ライネスはそう言いながら、ふと二人を見てぎょっとした。

それはもう絵に描いたようにボロ泣きしていたからである。

 

「き、君達・・」

「うっ・・ぐすっ・・えううう」

「可哀相・・良い事してあげたのに・・ひど・・いよう・・」

「・・・ん・・そうだな。ちょっと・・辛かったなぁ」

二人がライネスにぎゅっとしがみついたので、戸惑いながらもライネスは二人の頭を撫でた。

「ありがとう・・ありがとうな、二人とも・・」

 

「客引きします!」

「手伝います!」

 

二人は泣き止んだ後、意を決したように頷いてライネスにそう言った。

「え?なんでだい?」

「このお店がずっと続けられるように!」

「お客さん沢山呼んできます!」

ライネスはきょとんとしていたが、やがて苦笑すると、

「よし、じゃあ頼むよ。住み込みで手伝ってくれ」

と、言ったのである。

その時、ライネスは喫茶店の経営に二人が貢献するとは思っていなかった。

ただ、持ち金も無く、治安の良くないこの町で子供二人が生きていく事は不可能だと考えたのである。

 

一方、ライネスの想定よりクー達は遥かにタフだった。

二人は深海棲艦であり、町を歩く人が人間か化けた深海棲艦か、あるいは艦娘かは見れば解る位生きていた。

ライネスの店に居候しつつ二人が街を歩いた限りでは、人間6割、艦娘1割、深海棲艦3割という所であった。

誰がどこで何を食べ、何が流行り何が敬遠されているか。

二人はしばらく情報を貯め、話し合った上でライネスに1つ提案をした。

「塩味を止めろって?」

「止めなくても良いんですが、塩味って書くのを止めた方が良いと思うんです」

「なんでまた?」

「海で生活してると否応なく塩味オンリーになるので、わざわざ食べたくないんです」

「・・なるほど。じゃあソースとか醤油とかの方が良い訳だ」

「はい」

「調理法に関しては?」

「お刺身よりは揚げ物や煮物といった火が通っている料理の方が良いと思います」

「同じ理由だね?」

「はい」

「ふーむ・・」

 

チリリン。

 

ドアチャイムが鳴った。

「ライネスさん、何でも屋です。何かご用はありますか?」

「やぁファッゾ、丁度良い所に来てくれた。隣町のスーパーに行く機会はあるかい?」

「ええ、さっき米を頼まれたんでこれから行きますよ」

「それならデミグラスソースの缶詰、瓶詰めケチャップ、パン粉、後は豚の・・」

ルフィアとクーはにこにこしていた。

自分達の言った事をライネスは受け止め、考えて反映してくれる。

それはとてもやりがいに繋がる。

ルフィアはふと、ポケットにあった紙切れにそれをメモした。

何となく忘れないほうが良いと思ったからだ。

 

それから2年が経った。

ライネスの店はメニューの調整とルフィア達の客引きにより、少しずつ売上が伸びていた。

また、ライネスは町の変化にも気がついていた。

「ルフィアちゃん」

「はい?」

「最近・・町に若い人、増えたと思わないか?」

「それは多分、人が減って、深海棲艦か艦娘が増えてるんだと思います」

「そうなのか?」

「艦娘は元々少女から若い女性の姿をしていますし・・」

「ふうむ」

「深海棲艦も必要がなければ老人には化けません」

「なんでだい?」

「お年寄りになると体の動きが鈍くなったりするじゃないですか」

「そうだなぁ」

「でも化けてるだけなんで、本当は軽々動くわけです」

「ふむ」

「なのでうっかり元通りに動いちゃうと怪しまれるじゃないですか」

「まぁ杖突いてたジィさんがアスリートみたいに走り出したら首を傾げるな」

「その通りです」

「なるほどな。ルフィアちゃんもそうやって見分けてるのかい?」

「いえ、なんとなーく、見たら解ります」

「なんとなーく、か」

「はい。なんとなーく、なんです」

「ん。そうか。ありがとな」

わしわしと頭を撫でられた後、ルフィアは手帳を取り出した。

 

 「見返りは額より返す早さ」

 

そう記したルフィアはうむと頷いた。

手帳はそうした言葉が沢山書かれていた。

 

 

 


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