Deadline Delivers   作:銀匙

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11月ですねぇ・・
人恋しい季節ですわ・・・えぇ・・



第3話

「うー、今日は滅多にない生春巻ランチの日だったのにぃ」

とぼとぼと原付の所に戻り、ヘルメットを被りながら考える。

「・・・よし!」

ルフィアはぐるんと原付をターンさせた。

 

「ライネスおじさま!」

ドアベルが揺すられすぎて鳴り止まぬ中、ルフィアは涙目でキッチン「トラファルガー」の主の名を呼んだ。

キッチン「トラファルガー」のランチタイムも過ぎており、ドアには「closed」の札が下がっていた。

それでもライネスは頼み込めば作ってくれる事をルフィアは知っていた。

ライネスは山のような洗い物をこなしていたが、きゅっと蛇口を閉め、布巾で手を拭きながら答えた。

「また食べ損ねたのか?」

「・・うぅ・・おじさまぁ」

「やれやれ、そこに座れ」

「わーい!」

ライネスが指差したカウンター席にきちんと腰掛けると、身を乗り出し、目を輝かせて言った。

「おじさま、生春巻を作って頂けませんか?」

ライネスは顎に手をやった。

「んー?まぁ・・材料は揃ってるか。食べたいのか?」

キツツキのように高速で頷くルフィアを見て、

「ちょっと時間かかるが、待てるか?・・あー解った解った」

と言いながら冷蔵庫をガパリと開けた。

 

トントンと軽やかに包丁を捌きながら、ライネスは訊ねた。

「そんなに生春巻が好きだったか?」

「今日は朝からそのつもりだったので・・」

「・・あぁ、山下食堂のランチか」

「ええ、でも売り切れだって断られちゃって・・」

「何時に行ったんだ?」

「う」

お見通しだと言わんばかりのライネスの視線に頬を染めながら告白した。

「い、1405時・・」

ライネスは手元に視線を戻しながら言った。

「山下食堂のランチタイムは14時までだった気がするがな」

「だって」

「それに、山下食堂は毎日13時半には全部売り切れるのはルフィアだって知ってるだろ?」

「でも、トラファルガーだってランチタイムは1400時まででしょう?」

「最近は遅刻魔が多くてな、closedの札を下げてても14時で終わらせてくれん」

ライネスがそう言った途端。

「おっちゃんお願い!ごはん食べさせて!」

勢い良く開いたドアから聞こえてきたのはクーの声だった。

ルフィアは真っ赤になりながら

「ご、ご迷惑をおかけいたします・・」

と、頭を下げたが、クーはいつも通り元気よく入ってきた。

「ねぇねぇおっちゃん、生春巻食べさせてー!あー!ルフィアみっけー!」

「・・くっ!」

ルフィアが下を向いたまま、歯軋りして拳を固めた。

こぉの能天気娘!

クーはルフィアの隣にどすんと腰を下ろしながら言った。

「ねーねールフィアぁ、会議費って事で良いでしょ!それなら自分のお金出さなくて良いし!ラッキー!」

ゴチン!

クーの頭にルフィアの拳骨が落ちた。

「ま・・商売繁盛ってやつだ」

ライネスは肩をすくめてルフィアにそう言い、ルフィアはクーの頭頂部にぐりぐり拳をねじ込みつつ

「ほんとにすみません・・」

と、再び頭を下げたのである。

 

「ふわーぁ、美味しかったぁ」

「食べたい時に食べたい物を食べられるって最高ね!」

 

ライネスがふふっと笑いながら食器を下げた時、クーは元気良く手を上げた。

「チョコミントアイスください!」

ルフィアはクーを見て固まった。

ここで自分だけ頼まないという自由はもちろんある。

ライネスだって無理にとは言わない筈だ。

だが。

 

目の前でチョコミントアイスを貪られてジッとしてられる訳がない。

私の大好物なのに!

でっ、でもっ、節・・約・・

 

「ほれ」

 

コトリと二人の目の前に置かれたのは、ガラスの器に入ったチョコミント味のアイス。

「あ、あの・・おじさま・・」

ルフィアがライネスを見ると、再び食器を洗い出したライネスが、

「うちのCランチはデザートもあるんでな。今日はチョコミント味だ」

そう言ってパチンとウィンクした。

クーが首を傾げながら言った。

「ねぇおっちゃん、ランチセットってここにはAかBしか書いてな・・イタタタタ!」

ルフィアは目一杯クーの腕をつねりながら、ライネスにぺこりと頭を下げた。

 

「おじさま、ご馳走様でした」

「美味しかったよ~、またねぇ」

「いつか時間内に来いよ」

ニッと笑うライネスに頭を下げた後、二人はキッチン「トラファルガー」を後にした。

クーが歩きだったので、ルフィアも原付を押して歩く。

しばらく二人は黙々と歩いていたが、クーが先に話しかけた。

「ねぇルフィア」

「なによ」

「困った時に助けてくれる人って、かっこいいよね」

ルフィアはクーを見た。

「そっ・・そうね」

クーはニカッと笑うと、

「僕もさ、二人で決めたとおり、依頼は出来るだけ断らないようにしてるんだけど・・」

「ええ」

「あんな風にかっこよく見えてるかなぁ?」

ルフィアはにこりと笑い返した。

「ええ。きっとそう見えてるわ」

「へへへー」

「それで、今日の集配は終わったの?」

「うん!案外まとめて渡せちゃったし、受ける分も少なかったから!」

「あら・・そう♪」

言い終えて、そしてルフィアの飛び切り素敵な笑顔を見て、クーは青褪めた。

しまった。几帳面なルフィアがランチに遅れる理由なんて1つしかないじゃないか。

「・・・あ」

「手伝ってくれるわよね?伝票整理♪」

「あ、え、ええと・・」

「ちょうど後2束あるから1束ずつやりましょ」

「げげっ!?あ、いや、僕・・」

ルフィアはすっと真顔になると、言った。

「ランチ代を会議費で落としてあげたんだから働きなさい」

「はい」

クーは諦めて頷いた。この状況で回避なんて無理だ。

 

そして日は暮れて。

 

「おじさまぁ・・・」

「おっちゃぁん・・」

閉店後の楽しみであるパイプを咥えたまま、ライネスは店の戸口を開けた。

そしてドアをノックしていた二人を見て呆れ顔で言った。

「お前達・・昼に続いて夜もか?もう閉店時間過ぎたなんてもんじゃないんだが・・」

「お願いします~」

「他のご飯処、全部閉まってたんだよぅ」

その時、店内の柱時計が1時を告げた。

「・・こんな夜中ならそうだろうよ」

クーがしょぼんとしながら恨めしげに言った。

「出納帳が100コイン合わなくてさ・・ルフィアが揃うまでやるって言うからさ・・」

「だから何度も謝ったでしょ!」

「僕の方が疑われて2回も伝票の束を計算しなおしたのにさ・・」

「あの6にしか見えない5の字を書いたベトナムの連中に文句言いなさいよ!」

「だってぇ」

ライネスは紫煙を吐いて苦笑した。

「大体解ったから入れ。ポトフなら仕込んであるし、ピラフも作ってやろう」

途端にクーが目を輝かせてライネスを見る。

「大盛り!」

「・・夜中に沢山食うと太るぞ?」

「あ・・じゃあ普通・・でもピラフにチーズ乗せて!あとチョコミントアイス大盛り!」

ルフィアはクーの背後で歯を食いしばって拳を固めているが、遅くなった理由が理由なので行使しづらいのだろう。

ライネスは溜息をついた。

「やれやれ・・店はもう掃除したから居間に上がってろ」

「はーい!」

慣れた様子で店の通路を通り、ライネス家の居間へと向かう二人。

「まったく・・ちっとも進歩してないな・・」

ライネスは苦笑しながら冷蔵庫のドアを開いた。

やっぱりあの二人はお騒がせだ。

 

 

 


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