Deadline Delivers   作:銀匙

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第17話

「ところで武蔵、一つ聞いても良いかな?」

海原を町へと戻る途中、時雨は武蔵に話しかけた。

「うん?なんだ?」

「僕達が出航する日、艤装をオーバーホールしたよね」

「あぁ」

「その後武器屋に行って、即金で兵装買ったよね」

「あぁ」

「そのお金はどこから出てきたんだい?」

武蔵はポリポリと頬を掻きながら言った。

「あーその・・・た、宝くじだ。そうだ!」

大和がくすくす笑い出した。

「貴方って本当に嘘が下手ね」

扶桑が頷いた。

「特に答えを用意してなかった時の嘘はすぐばれますね」

武蔵が真っ赤になった。

「あっ、姉上っ!」

大和は武蔵の鼻をつんと突いて笑った。

「大丈夫よ。時雨は説明すれば解ってくれるでしょ?はぐらかすから追求されるのよ?」

武蔵はチラと時雨を見た。

時雨はじっと武蔵を見つめている。

「あー、その・・トトカルチョ・・だ」

「へっ?トト・・何?」

龍驤が納得したように頷きながらいった。

「ほれ、大きな輸送話があるとテッドが賭け事やるやんか」

「・・賭博」

「武蔵は昔からクジ運ええからな。それで元手を増やしとった。そういう事やな?」

武蔵は龍驤を見て頷いた。

「まぁそういう事だ。元手は貰った給料だから・・・ひいっ!?」

武蔵がそんな声を出したのは時雨に目を向けたからである。

氷のような瞳をした時雨は静かに言った。

「・・・神武海運社規22条・・違反だね」

「い、いや・・でも他に皆に気付かれずに増やす手がなくてだな・・」

「そもそも僕達に内緒で復讐計画を進めようとしてたから悪いんじゃないか」

「ぐ」

「それに・・ちゃんと言ってくれたら・・僕の方が無駄にならなかったのに」

山城がぽつりと言った。

「あーなるほど、あれはそういう意味だったのね」

神通が首をかしげた。

「どういう事ですか?時雨さん」

「皆から毎月天引きしてる項目に、年金特別控除って項目があるよね」

「・・覚えてません」

山城が頷いた。

「月2万5千コインだったかしら。結構引かれてたわね」

「あれはこういう時の為の基金だったんだよ」

大和が頷いた。

「年を取るという概念の無い私達には、老後の生活は無縁の存在ですからね」

「まぁ、提督が今回、その可能性を開いてくれたから無駄にはならなかったけどね」

龍驤が首をかしげた。

「わざわざ人間になりたい言うんか?たった50年やそこらで死んでまうんやで?」

「に、人間と結婚したいって可能性もあるかもしれないじゃないか」

「時雨はそんな相手が居るんか?」

「僕じゃないよ」

「誰やねん」

「武蔵だよ」

グキリと音を立てて武蔵が時雨の方に向き、山城がニヤリと笑った。

「なっ!?何で私が!天地神明に誓って心当たりが無いぞ!?」

「えっ?そうなのかい?」

「ちょ、ちょっと待て時雨。私が一体誰と結婚したがると言うんだ?」

「テッドさんだよ?」

「時雨、私は仕事上の窓口だから奴の所に行くのであって」

「・・それだけかい?」

「それだけだ!全く何を勘違いしてるんだ!」

「だって、事ある毎にテッドさんの作戦は素晴らしいとか、実に頭が良いとか褒めてるし」

「そっ、それは皆もそう思うだろ?事実今回の作戦だって成功したではないか!」

「んー、そうだけど・・」

扶桑がふふっと笑った。

「時雨さんは結構勘が鋭いですものね」

大和が頷いた。

「武蔵は賢い人が好きですものね」

武蔵は真っ赤になってバタバタと腕を振った。

「ちっがう!ええい変な事言うな!帰ったら報告に行かねばならんのだぞ?」

山城がニヤリと笑った。

「嬉しいんでしょ?」

「ばっ、馬鹿者!」

龍驤が山城に抱きついた。

「あなたぁーん、ただいまー、寂しかったんよー」

山城が宝塚の男役のようにきりっとした声で応ずる。

「よしよしハニー、僕の元に帰ってきてくれたんだね。はっはっは!」

武蔵は邪悪な笑みを浮かべ、砲塔を動かしながら言った。

「・・遺言はそれだけだな、二人とも」

ばばっと二人は両腕を上げた。

「ドンピシャやからて本気で怒るなや!」

「そうよそうよ!」

「違うわ馬鹿者!ふしだらな猿芝居をするなっ!」

大和が武蔵の肩をぽんと叩いた。

「ま、お姉ちゃんとしてもテッドさんならまぁOKかなぁ」

「姉上?!」

時雨は溜息をついた。すっかり話題が逸れてしまった。

今更社規違反の話を持ち出せないではないか。

 

 

「・・・戻ってしまったのなら、もう仕方ありませんね」

「す、すみません。課長」

武蔵達が帰って数日後。

テッドから連絡を受けた治安維持庁3課の課長は、艦娘に戻った大和と扶桑を見て溜息をついた。

「貴方達のどちらかを私の後釜にしようと思ってましたのに」

「あー・・」

テッドはゆっくりと煙を吐きながら言った。

「ただ、あの魔境で艦娘や人間に戻れるってのはビッグニュースなんじゃないですかい?課長さん」

課長はこくりと頷いた。

「ええ。組合員の中には逃亡生活や公安にばれる事を極度に恐れてる子も居ますからね」

「すっきり人間になっちまえば怯える事もない。そして経緯は問わない」

「・・その鎮守府の提督殿は信用して良いのでしょうか」

テッドがニッと笑った。

「あぁ。所長っていうか提督は俺の元上司だが、そういう事で嘘は言わねぇ。保証するぜ」

課長はちらりと二人を見た。

「・・貴方達、少し艤装を調べさせてもらって良いかしら?」

「えっ?はい、良いですよ」

課長は真剣な眼差しで艤装を丹念に調べていった。

 

数分後。

 

「ふーむ、盗聴器やGPS発信機の類はありませんね・・普通の艤装です、か」

テッドが肩をすくめた。

「だろ?所長はそういう事はやらねぇよ」

課長は二人に問うた。

「あ!ち、地上組の事を含め、何か聞かれませんでしたか?話してしまいましたか?」

大和は扶桑と顔を見合わせた。

「聞かれたのは・・元の艦種といつ沈んだかという事くらいで・・」

「艦娘化の作業は黙って立ってるだけでしたし、そう言えば何も聞かれませんでしたね・・」

「ほっ、本当?本当に?作業時間はどれくらいかかったの?」

「ええと、多分15分くらいだったと思います」

「そうですね。あっという間でした」

課長はしばらく頭を掻きながら唸っていたが、

「今の所疑念はありませんが・・そもそもなんでそんな事を・・」

テッドが珍しく真顔になると、言った。

「俺達は117研で色んな事故を調べてきたんだがよ」

「・・」

「その時から既に、所長は艦娘の轟沈事故に心から同情してた」

「・・」

「俺はそのうち、くだらねぇ差配で沈んだ艦娘が深海棲艦になるって事に気づいちまってよ」

「・・」

「当時、所長はもう鎮守府に異動してたんだが、その事を言ったらさ」

「・・」

「そういう可能性があるなら、こちらへ戻す道が必要だなって言ったんだ」

「戻す、道・・」

「ああ。司令官のせいでそっちへ行っちまったのなら、引き戻すのは海軍の責任だって、な」

「・・」

「まぁ、所長以外誰も俺の話なんて信じてくれなかったから、所長が変わり者なんだろうよ」

「・・」

「どうやって方法を見つけたのかは知らねぇが、所長なら納得出来るぜ。なにせあの所長だからな」

「・・」

「まぁ、それを地上組の中でどう活用するかはアンタ達が勝手にすればいいさ」

課長は溜息をついた。

「そうですね。私だけで判断するには大きすぎます。持ち帰って検討しましょう」

そして課長は二人を見ながら言った。

「これまでの実績を考慮し、お二人に地上組を抜ける条件を伝えます」

「はっ、はい!」

「海軍に地上組の情報を漏らさぬ事、約束してもらえますね?」

「わ、わかりました・・それだけで良いんですか?」

「ええ。条件は少ない方が良いでしょう?」

テッドが肩をすくめた。

「俺がもし海軍に復帰したらどうすりゃ良いんだ?」

ぎょっとして課長がテッドを見た。

「お戻りになるんですか!?」

「可能性の話」

「止めてくださいよ・・折角Deadline Deliversの皆様とパイプが出来たのに・・」

「だよなぁ・・もう無理だよなぁ・・」

大和は溜息をつくテッドをそっと見ていた。

テッドが海軍所属に戻るなら妹の嫁ぎ先としては安心かもしれない。

まぁ今も充分稼いでるみたいだし、傍で見ていられるからそれはそれで良い。

「うふふ」

どっちに転んでも、お姉ちゃんは武蔵の味方ですからね。

 

こうして総勢7名となった神武海運は、Deadline Deliversの主力の1つになっていくのである。

 

 




終了、です。

本話はちょっと長めですが、まぁ最終話なので。

ちなみに、最初に神通が心を病んでしまっていたのは、海軍学校時代に見た「本物の司令官」に淡い恋心を抱いていた訳です。
ところが着任してきた司令官のあまりに無体なやり方で姉妹が轟沈してしまった悲しみと、抱いていた恋心を傷つけられたという気持ちと、(無茶な)命令に添いきれない事を自らの不甲斐なさを責めてしまった。
そういう事なんです。
だからこそ武蔵が着任した司令官が偽物である事を告げた時、あらゆる疑問が氷解していった、すなわち霧が晴れたという訳です。
もちろん好きな人を殺された怒りもプラスされました訳です。

ブラック鎮守府の司令官って人でなしだよね。

人じゃないとしたら?

深海棲艦だったら?

そんな事から書き上げた2章でしたが、如何だったでしょうか。

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