Deadline Delivers   作:銀匙

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第16話

提督は7人に話しかけた。

「さて、君達の処遇についてなんだけど」

ピクリとした後、全員が恐る恐るこちらを見たので提督は続けた。

「まず、今度の件で4219鎮守府は完全に崩壊し、再建には時間がかかる」

「・・」

「こういう場合、通常、所属艦娘はLV1化と記憶の剥奪が行われ、それぞれ別の鎮守府に行く」

長門がおやっという目で提督を見たが、鳳翔がこちらを見て小さく頷いたので黙っていた。

「・・」

鳳翔が後を継いだ。

「ただ・・」

「・・」

恐る恐る鳳翔を見る7人。

「戦闘中に行方不明になった皆様を先程の攻撃隊が懸命に捜索した所、IDプレートだけ見つかった」

「・・」

「そう、大本営に報告する事は可能ですよ」

神通は首をかしげた。

「えっと、それは、解体して人間になる、という事でしょうか?」

「いいえ。IDプレート以外は我々もどうなったかは与り知らない事です」

神通は眉を顰めた。

「そ、それは・・つまり脱走を認めて頂ける、という事ですか?」

明後日の方を向いている提督を横目に、鳳翔は首を振った。

「与り知らない事、です」

「そ、それじゃ・・武蔵さんは逃亡と恐喝の罪でずっと手配犯のままになるという事ですか?」

「IDプレートを大本営に返した時点で轟沈や解体と同じ、除籍扱いとなります」

「・・」

神通は今一つ理解していない様子だったが、龍驤が

「除籍された奴の手配なんて残らんわな」

と言った事に長門が頷いたので、ようやく納得したようだった。

時雨が呟いた。

「このまま、LV1化してバラバラに配属されるか、今の生活を続けるかって事だね」

時雨はそっと神通に言った。

「確かに、選ぼうとしている事は正しくないかもしれない。だけど、だけど神通、僕は」

神通はそっと、掌で時雨の口を塞いだ。

「皆まで言わなくても解ります」

神通はふぅと溜息をつくと、全員を見回しながら言った。

「海軍の支援無しに生きて行く事は、体験した通り大変シビアな世界です」

「私一人なら、到底やっていけないと思います」

「でも、私は時雨さんも、龍驤さんも、武蔵さんも、山城さんも、ずっと一緒に居たい。忘れたくない」

「そして、尊敬する大和さんや扶桑さんにもお越し頂けるなら心強いです」

「・・皆さんは、いかがですか?」

神通は発言の最後の方はまるで囁くようであり、耳まで真っ赤になっていた。

そんな神通を6人は微笑んで見ていたが、

「しゃあないなあ、こんな可愛い筆頭艦娘をほっとけんで?」

「あっ、あのっ、ぼっ、僕も神通と一緒に居たいな」

「私は姉様についていきます」

「あらあら。じゃあ山城と一緒にお世話になろうかしら」

「武蔵、いつまでも泣いてないで、私達の会社に帰りましょ?」

「・・・姉上?来てくれるのか?」

恐る恐る訊ねた武蔵に、大和は笑顔で応えた。

「ええ、もちろんです」

「・・姉上が一緒なら、私は倍、いや3倍は働ける。働いてみせる!」

鳳翔がそっと、銀の箱を浜辺に置きつつ言った。

「この箱には私達が現場海域で見つけた、行方不明となった方のIDプレートが入っています」

「・・」

「提督は少しお手洗いに、私は忘れ物を取りに食堂へ行ってきます」

「・・」

「その後、この箱を添えて、本件の顛末と行方不明者について大本営に報告します」

鳳翔が7人に微笑み、提督がちらりと7人を見たとき、神通達は深々と頭を下げた。

「・・ご恩は生涯忘れません」

提督は海原に視線を戻しながら言った。

「そうそう、鳳翔さん」

「なんでしょうか?」

「うちではさぁ、もし人間に戻りたいなーっていう艦娘や深海棲艦が居たらさ・・」

「その方がどこからいらしたかといった事は問わず、受け入れてますねぇ」

「解体処置をした上でさ、戸籍の付与手続きとかもきちんと手続きしてるし」

「他と違って提督が後見人になってますものね」

「スズメの涙だけど、路銀も渡してあげるし」

「人間社会での一般教養研修もありますし、就職の面倒とかも見てますよねぇ」

「ちょっと前までは忙しかったけど、今はそんなに来てないよねぇ」

「そうですね。施設を遊ばせておくのは勿体無いですねぇ」

「いやー誰か来ないかなー。この事が広まると良いなー」

そう言うと提督は大げさにぶるっと震えた。

「おっと、砂浜で長居をしたから冷えてきたな。ちょっとお手洗いにいってこよー」

「あ、私も忘れ物を思い出しました。長門さん、手伝って頂けますか?」

「任せろ。ああ、そうだ・・確か日本は向こう、だったな」

長門は小さく1点を指差すと、ウィンクしてから鳳翔を追いかけていった。

砂浜には置き去りにされた箱が1つ残された。

 

最後に自分のIDプレートを箱に入れ、蓋を閉めると神通は微笑んだ。

「もし・・私達の司令官が提督でしたら、私は命を賭して戦えたと思います」

龍驤はニッと笑った。

「ほんならアイツが司令官でなくて良かったわー」

「えっ?」

「だからこそ今、こうやって神通と話せるんやからな」

「・・・」

「で、武蔵はそろそろ泣き止んだのかいな?」

龍驤の声に武蔵は思い切り渋い顔で応える。

「うっ・・うるさい・・とうの昔に泣き止んでる」

「波止場の夜以来ね、武蔵の泣き顔見たのは」

武蔵は蒼白になりながら素早く山城の首を締め上げた。

「それ以上言ったら轟沈者としてIDプレートを返還する事になるぞ!」

「うぐ・・わ・・解った・・わよ・・」

大和が溜息をついた。

「どうせ波止場でわんわん泣いてたんでしょ?」

「うぇっ!?」

「武蔵は一人になった時とかそうやってよく泣いてるもの」

「姉上・・ばらさないでくれ・・」

龍驤がぐいっと伸びをした後言った。

「ま、あの3人が帰ってくる前に出航しよか!」

7人は海へと歩いていった。

 

「・・記憶を残したまま他鎮守府へ紹介する、その手を何故示さなかった?提督」

提督室から7人の航跡を眺めつつ、長門は提督に話しかけた。

提督はその隣で小さく頷いた。

「彼女達は知りすぎた存在、だからね」

長門は困った顔をした後、俯き加減にこくりと頷いた。

「・・まぁ、今回の件は特別機密事項として処理されるだろうな」

「間違いなくそうだね。ヴェールヌイ相談役の狼狽振りを考えれば・・ね」

「彼女達に悪意はなくても、何かの折に話してしまう事は充分考えられる」

「だから他鎮守府に記憶を持ったままでの転属は選択肢に入れられない。そう判断したんだよ」

「今回解体するという選択肢を外したのも、人間に戻った後厄介事に巻き込まれるのを防ぐ為であろう?」

「勿論。公安にマークし続けられる生活なんて楽しくないでしょ」

「うむ。私も提督の話を聞いた後考えていたのだが、推論が合っていて良かった」

「今まで頑張ってきたのだから、彼女達が笑って過ごしていける方法を提示してあげないとね」

長門は提督と頷きあうと、窓の外に目を向けた。

 

 

 


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