Deadline Delivers   作:銀匙

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第13話

鎮守府で戦闘が始まった頃、柿岩家会議室。

 

会議室には浮砲台組長と防空棲姫だけが残っており、浮砲台組長が戦況報告を読んでいた。

「研究局は木っ端微塵、鎮守府はまもなく開戦。こちらは状況に応じて適宜支援を出しましょう」

「ええ。課長には許可しています」

「懸案は大本営内部ですな。今後3課で対応を?」

防空棲姫は静かに首を振った。

「その為のアンダーカバーです。彼女達なら大本営の始業前に始末出来るでしょう」

浮砲台組長は眉を顰めた。

「いささか4課を使い過ぎではありませんかな。881研の至近距離なのですぞ?」

防空棲姫は両手を組み、目を伏せたまま言った。

「・・881研の特殊砲弾にしろ、今度のフォックスハントにしろ、緊急度や重大性は最高レベルです」

「ならば今後、4課の増員強化は必須となりましょう。交代要員も含め、早く手を打つべきです」

「異存はありませんが、4課の特殊性を考えれば適任者は大変少ないのが実情です」

浮砲台組長は腕を組んだ。

「その通り。目立たず溶け込み、長期間の待機に耐え、真夜中の指令でも迅速かつ確実に事を・・」

 

ピッピッ

 

浮砲台組長の話を遮るように鳴ったアラームと共に、モニタに写し出された短いメッセージ。

 

 8 stinky foxes kick out.

 Walk in the park or naw?

 

防空棲姫は頷いた。

「終わったようです。後は鎮守府のみですね」

浮砲台組長は首を振った。

「汚いスラングを使うのは止めさせねばなりませんな」

 

 

同時刻、4219鎮守府海域。

 

神通達の遥か後方から、戦況を見つめる9人の目があった。

「深海棲艦は何体くらいですカー?」

「反応は54体です、お姉様!」

「・・それじゃ、艦娘はもう誰も居なかったって事ですか?」

「司令も深海棲艦ですし・・そういう事になりますね、榛名」

「カタパルトの調子は如何ですか、姉さん」

「バッチリじゃ!ところで陸戦にならなくて残念だったな、球磨?」

「別に良いクマ。海底でもこの鉤爪があれば八つ裂きに出来るクマ」

「あらかた位置特定したにゃ。潜水艦も結構居るにゃ」

 

 ソロル鎮守府腐敗対策班攻撃隊。

 

彼女達は、そう呼ばれていた。

金剛4姉妹、利根姉妹、そして球磨と多摩で編成される部隊である。

その8人に臨時指揮官の龍田を加え、計9人が現場海域に到着していた。

数日前、大山事務官ことテッドからcorrosion計画を聞かされたソロル鎮守府の提督は直ちに腐敗対策班を召集。

攻撃隊は鎮守府で戦闘となった場合の支援攻撃をする為に来ていたのである。

 

「潜水艦2体、重巡3体がこっちに向かってます!即応を!」

榛名がそう叫んで主砲を発射すると、金剛達は主砲を、球磨達は爆雷を構えた。

「さぁさぁ、鎮守府の攻勢にも加勢しようぞ!カタパルト用意!」

利根がニカッと笑うと、筑摩が頷いた。

 

「!?」

 

正面の敵が砲弾の直撃を受けて沈んでいくのを見て、武蔵は呆気に取られた。

龍驤の爆撃は先程終わった筈だし、今のは重巡クラスの弾着観測射撃だ。

30を越す深海棲艦達が浮かんできたのを見て、武蔵は分の悪さに唇を噛んだ。

こちらは精鋭5人だが、圧倒的な数量差は練度優性を覆す事がある。

それが押される事なく、均衡、いや、こちらが有利に押しているという事は・・

 

「一体・・誰だ・・」

「武蔵さん!左!」

神通の声に即座に回避行動を取りながら左方へと主砲を撃つ武蔵。

見事に深海棲艦に直撃し、また1体沈んでいった。

「懸念は解ります!両面即応体制を崩さないでください!難しいですが私達ならやれます!」

「すまぬ神通!行くぞ!」

 

2時間後。

 

「クソッ・・チクショウッ・・アト3ヶ月ダッタノニ・・」

司令官役だった潜水カ級は墜落後1度も海面に浮上することなく、海底を歩いて静かに撤退していた。

たかが2人の艦娘では何も出来まいとタカを括っていたのが失敗だった。

1度は海底から魚雷を撃つ事も考えたが、海底に沈んでいたデータの入ったスーツケースを見て考えが変わった。

1人沈められるかどうかも解らぬ無謀な賭けをするより、まずはこれを研究局に届けなくてはならない。

テストはまた別の所ですれば良い。

地上組と合意した海境まであと2km。基地まで3km。

ここでは艦娘はもちろん、地上組の連中も敵だ。

今見つかれば協定合意内容を無視した越境作戦である事が地上組に発覚してしまう。

海面からはしょっちゅう艦娘達がソナーを発信しており、全く油断出来ない。

探査と探査の合間に気づかれないように移動する。

移動しては止まり、止まっては移動する。

冷静かつ迅速に。

訓練の通りだ。落ち着け、落ち着くんだ俺。

今自分が捕まれば文字通り水泡に帰す事を理解しているからこそ、潜水カ級は最後の気力を振り絞っていた。

あの・・岩の・・下まで・・まずは・・

 

パシャリ。

 

潜水カ級は予定通り、緊急脱出時の休息ポイントに到達した。

岩の中に空気が溜まっている広場であり、潜水カ級は水辺の岩に腰を下ろした。

ここなら一息つける。ソナーも届かない。

「フー・・ヤレヤレダ」

 

だが。

 

「コンニチハ。見ナイ顔ネ」

 

ハッとして振り向くと、そこには南方棲戦姫が立っていた。

地上組のバッジをつけている。

「・・・ア」

「オ互イ時間ヲ省キマショ?アナタ・・海底国軍ヨネ」

潜水カ級は懇願する他なかった。

「ミ、見逃シテクレ。攻撃ノ意志ハナイ。後デ海底国軍カラ地上組ニ必ズ詫ビト礼ヲスル」

「・・・」

潜水カ級はスーツケースを見せた。

「艦娘ドモヲ一掃出来ル作戦データヲ持ッテルンダ。頼ム、見逃シテクレ!」

「ドンナ作戦ナノカシラ?」

乗り気だと判断した潜水カ級は続けた。

「鎮守府ヲ乗ッ取ッテ轟沈スルヨウ仕向ケルンダ」

「上手ク行クノ?」

「勿論ダ。俺ハ4年近ク司令官トシテ何十モノ艦娘ヲ沈メテキタ。間違イナイ!」

「・・・」

「カ、艦娘ハ俺達共通ノ敵ダロウ?」

「・・フフッ」

「良カッタ。ナァ、解ッタラ頼・・・」

南方棲戦姫は右手の指を3本立てながらいった。

「貴方ニ3ツノ事ヲ教エテアゲル。ソレガ答エヨ、海底国軍第41研究局ノ局員サン」

「エッ・・ナゼソレヲ・・」

「1ツ目。貴方達ノ侵略行為ヲ認定シタカラ、第41研究局ハ我々ガ既ニ消シ去ッタワ」

「オイ・・ウソダロ・・?」

「2ツ目。貴方達トサッキ戦ッテイタ相手ハ、私ノ妹ヨ」

南方棲戦姫はぐいっと潜水カ級に近づいて言った。

「3ツ目。ダカラ貴方ガ艦娘ダッタ私ヲ沈メタ仇ナノ。会エテ嬉シイワ」

蒼白になった潜水カ級の返事を待たず、南方棲戦姫は潜水カ級を一瞬で粉砕した。

空母棲姫はそっと、南方棲戦姫に声をかけた。

「少シハ気ガ晴レマシタカ、ミシェル?」

ミシェルと呼ばれた南方棲戦姫は潜水カ級の欠片が輝くのを見ながら、

「・・思ッタ程デハ無カッタワ、サマンサ」

無表情のまま、そう呟いた。

 

 

 




ちなみに。

 アンダーカバー:潜伏中のスパイ
 狐(Fox):敵方のスパイ、または味方の裏切り者
 Walk in the park:簡単・朝飯前

そんな感じの意味があるそうです。
始末された8のうち、海底国軍側が何体で、大本営側が何人だったかはメッセージからは解りません。
なお、もう1つはあえて伏せますが、アレは誤字ではありません。
説明すると一発でキャラ特定されちゃうし、難しいところです。
解った方だけニヤッとしてください。
この子の環境を表現するのは難しそうなので、多分今回だけの登場でしょうねぇ・・

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