Deadline Delivers   作:銀匙

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第10話

corrosion計画。

それは深海棲艦の天敵である艦娘と直接対峙するのではなく、内側から崩壊させようという計画である。

具体的には司令官の交代を狙い、移動中の司令官を道中で殺害し、深海棲艦が司令官に化けて着任する。

着任後は所属艦娘達をわざと不利な編成や兵装で送り出し、長期的に少しずつ轟沈させていく。

長期作戦とする理由は3つ。

1つは長く悪辣な運用をして艦娘達に恨みを蓄積させ、1人でも多く深海棲艦側に引きずり込む為。

もう1つは短期間に多数轟沈させると大本営に嫌疑をかけられて憲兵隊が来るので、それを防ぐ為。

最後は艦娘の轟沈と並行して、大本営が補給してくる資源を深海棲艦側に少しでも多く横流しする為である。

これらを丁寧に行えば人間の司令官が行うブラック運用と見分けは困難で、発覚の恐れは低いと記されていた。

 

「想像以上に・・邪悪だね」

時雨の言葉にテッドを始めとする全員がうなづく。

数秒の沈黙後、

「次に、この計画に関与する連中の組織図があるから説明するぜ」

テッドが再び説明を始めた。

 

まず、後方支援を請け負う「第1セクト」は3つの部隊に分かれている。

 1つは司令官の転勤情報等を収集する「諜報部隊」

 2つ目は鎮守府に送り込む深海棲艦に司令官の基本教育を施す「訓練部隊」

 3つ目は横流しされた鎮守府の資源を回収し分配する「資材部隊」

次に、実行部隊である「第2セクト」には3つの部隊がある。

 1つは道中の司令官を痕跡を残さぬよう殺害し、身の回りの品をすりかえる「処置部隊」

 2つ目は憲兵隊や大本営直轄鎮守府調査隊に対する懐柔工作を行う「制御部隊」

 そして、鎮守府に送り込まれた深海棲艦達が所属する「運用部隊」である。

最後に、上記全ての状況を把握し、企画や統括を行う部隊が「第3セクト」

これらの構成員は本計画専用に創設された「第41研究局」に居ると記されていた。

 

裏表紙を見て、ミシェルが言った。

「それは海底国軍の紋章ですね。これで本件に海底国軍が組織的に関与している事が明らかになりました」

サマンサはタブレットを見ながら頷いた。

「海底国軍の第41研究局は単独で、我々との海境に近い海底山脈の中にあります。そちらは我々が処理します」

 

テッドが紫煙を吐きながら続けた。

「ムファマスの話だが、現在は本稼動前にデータを集める為の最終テスト段階らしい」

「・・・」

「そのターゲットとなった鎮守府は・・もう言うまでも無いよな?」

神通が頷いた。

「他の鎮守府にこの地獄が及ぶ前に始末出来る分だけ、良かったかもしれませんね」

山城は目を細めた。

「私達はまんまと嵌められたってわけか。ただ、奴らの計画が少しだけ狂ったとすれば」

龍驤がくすくす笑いながら言った。

「武蔵が大人げなかったっちゅうこっちゃな」

武蔵が苦笑した。

「鎮守府強行離脱をやる艦娘なんて居ないからな。ただ、今思えば納得出来る事がある」

「なんや?」

「出て行くと言った時、普段あれだけ傲慢な司令官が急におたおたし始めたのだ」

「ほぅ」

「私は怒り心頭だったから足早に司令官室を辞したが、今思えばあれは・・」

「マニュアルに書いてなかったから対応に困った、という事ですね」

「そういう事だろうな」

 

ミシェルが静かに言った。

「司令官は深海棲艦である疑いが濃厚ですがまだグレーです。黒の証拠を見つけねばなりません」

武蔵がニッと笑った。

「案外簡単かもしれんぞ?」

全員が武蔵を見た。

武蔵はミシェルに言った。

「1つ確認したい。貴殿達は海中でも変身を継続出来るか?」

ミシェルは首を振った。

「いいえ。半身が海中に没すれば変身は解かれます。変身中は海中用の生命維持装置が起動出来ないからです」

武蔵は頷いた。

「よし、確認は私が行う。我々は乗り込む班と近海からの支援組の2手に分かれよう」

神通が頷いた。

「武蔵さんが乗り込むなら私も」

「いや、神通と時雨、龍驤も待機してて欲しい」

「えっ?」

「山城、お前は面の皮が厚いからな」

山城がじとりと武蔵を見た。

「ポーカーフェイスの訓練が出来ているだけです」

「まぁそういう事だ。顔に出ると困るんでな」

テッドが言った。

「じゃ、明日の仔細とタイミングをまとめていくぜ」

サマンサが一人呟いた。

「課長・・間に合うかしら」

 

 

夕刻。

 

「さ、最速記録更新よ・・島ちゃん・・私・・頑張った・・えへへ」

「うんうん、さすがばりっちだよねっ!」

放心するビットに膝枕をしながら、アイウィは一団に向かって声をかけた。

「ばりっちが命がけで整備したんだから大事に使ってよ!」

カシャリ。

艤装に53cm艦首酸素魚雷を装填しおえた神通が振り向いた。

夕日を浴びて立つその姿は闘志に満ちていた。

「ええ・・使い切らせて頂きます」

 

 

その夜。

 

「俺の見送りなんて滅多にねぇ事だからよ、ラッキーだなお前達!」

テッドが冗談めかして言うと、神通がすうっと流れるように敬礼した。

「はい。これまでのお力添えに感謝致します。テッド様」

テッドは神通を指差しながら武蔵を見た。

「なぁおい、武蔵。こいつはこんなに堅物なのか?」

武蔵は苦笑した。

「まぁ、時雨がお茶目に見えるくらいだな」

「おいおい。鉄筋コンクリが豆腐並みって事かよ・・・なぁ、神通ちゃん」

神通が敬礼のまま、困ったような目で見返した。

「はっ、はい?」

テッドは素早く神通の頬を両手の人差し指でぷにぷにとつついた。

神通はビクリとして思わず声を上げてしまった。

「ひゃん!び・・びっくり・・しました・・」

テッドは優しく微笑み、まっすぐ神通を見た。

「肩の力が入り過ぎだぜ。力むな。しなやかに行け。お前なら出来る」

「あ・・」

「しっかりてめぇの未来をもぎ取ってきな。待ってるぜ」

神通はにこりと笑った後、

「・・解りました。では、行ってまいります!」

そう言って静かに岸壁を離れたのである。

テッドは波止場の先に消える灯火を見送った後、カリカリと首筋を掻き、呟いた。

「あぁ痒い。くそ、柄じゃねぇ・・俺の柄じゃねぇ・・所長の真似したって付け焼刃だぜ、くそっ」

そしてくるりと振り向くと、歩きながらスマホを取り出した。

「さっさと本物に電話しねぇからだな。俺の仕事を済ませるか」

 

 

 




コメント頂いている皆様、本当にありがとうございます。
今作は前作以上に異端なシナリオにも関わらず、ついに毎日1000UAを突破する状況となりました。こちらにも御礼申し上げます。

今作は特殊な状況やシナリオとなりますので、読み手の皆様を置いてきぼりにしていないかという点を非常に留意しております。
それを唯一確認出来る手段が皆様のコメントですので、コメントを頂けると大変参考になりますし、かつ筆を進める糧となります。
今後ともご愛顧のほど、何卒よろしくお願いいたします。

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