Deadline Delivers   作:銀匙

50 / 258
第9話

「んもー、なーにー?」

ウサギ柄のパジャマ姿で出てきたアイウィは、眠そうに目をこすりながら言った。

「今まだ0430時だよ。開店時間まで4時間はあるんだけどー?」

武蔵は構わずに続けた。

「どうしてもな、全員の艤装をオーバーホールしたいのだ」

途端にアイウィはパチリと目を覚ました。

「・・5人分?」

「あぁ」

「即金で?」

「即金だ!」

ぴこんと良い笑顔になると、アイウィは

「すぐにばりっち起こしてくるね!待ってて!」

と言いながら家の中に消えたのである。

 

「起き抜けに随分とヘビーな物見せてくれたわねぇ・・」

「あ、あは、あはははは」

うっすらと寝癖がついたまま、ビットは作業着姿で現れた。

だが神通の艤装を見た途端、一気に眉をひそめてジト目になった。

「兵装はデリケートなの。艤装は日頃のメンテナンスが大事なんだからね」

「面目次第もございません」

武蔵は肩をすくめながら言った。

「長きに渡る療養の間、我々も艤装まで手が回らなかったのだ。許せ」

「これは預かりになるわよ。再塗装とか含めてじっくり1週間くらいかけたいわね」

「ダメだ。どうしても今日中にやってもらいたい」

ビットがお前の気は確かかと言う目で武蔵を見た。

「ちょっと、幾らなんでもこれを今日中にどうにかするなんて無理過ぎるわよ!?」

「他の4人分もだ。兵装は新しく買うから艤装部分だけで良い。頼む」

「武蔵さんの艤装くらい状態が良いならともかく、他の人のは完全分解が要るわよ?」

「・・・」

「海の上で動かすんだし、特に神通さんのは防錆塗装からやり直したいし・・あーもーこんなになって・・」

武蔵はアイウィの方を向いて言った。

「1割増」

アイウィが言った。

「3割増」

「くっ」

「起きぬけのばりっちは機嫌悪いんだよー」

「むう」

「へそ曲げちゃうと本当に1週間かけちゃうかもー」

「1割5分!」

「2割5分!」

「・・1500時まで」

「1900時!」

「間に合わん!」

「じゃあ2割増で1700時」

「・・手を打とう」

ガシリと握手する武蔵とアイウィ。

武蔵から受け取った札束を数え終えると、アイウィはビットの方ににこやかに近づいていく。

ビットは物凄く嫌そうな顔でアイウィを見て口を開いた。

「ねぇ島ちゃん、解るでしょ。5人分の艤装を12時間で直すなんて幾らなんでも」

「出来たらスタビレーのフルコンプリートレンチセット買って良いよ」

「やらせて頂きます!」

山城は頷いた。アイウィは優秀な経営者だ。

 

「46cm用の三式弾!?無い無い、41cm用が2発あるだけだぜ武蔵さん」

「是が非でも要るんでな。今日はその他兵装もまとめて買う。な?頼む!」

夕島整備工場を後にした5人は武器屋に足を運んでいた。

渋い顔をする武器屋の耳元で武蔵が囁いた。

「誰にも言わぬ。我々神武海運の口の堅さは知ってるだろう?」

武器屋は渋々席を立つと店のドアをロックし、「closed」の札をかけた。

「・・本当に黙っててくれよな」

「さすがだ。頼りになる」

「ちぇっ。年末オークションの目玉商品にしようと思ってたんだがなぁ」

「まぁまぁ、そう言うな」

武器屋がレジ脇のくぼみを押すと、ビーっという音がして床板の一部がするりと開いた。

穴の下には梯子と薄暗い地下室が見える。

武器屋はその中に入りかけて、慌てて武蔵を見た。

「・・おい、ついてくるなよ?」

武蔵がにやりと笑った。

「フラグか?フラグだな!」

「ちっ違・・えぇと・・さ、酸素が少ないんだ。だから危ないんだ。絶対来るなよ?!」

「そういうな主よ、さぁさぁ早く行こう!早く!」

「やめろ馬鹿!押すな!」

だが、身軽に二人の間を抜けて穴に飛び降りたのは神通だった。

「ああっ!?お嬢ちゃんダメ!」

 

地下室の底に降り立った神通は壁にかけてあったランタンを手に、どんどん奥に向かって歩いていく。

「ちょ!?待って!ほんとにそっちはダメ!あー!」

慌てて武器屋が下りていき、武蔵達も続いていった。

 

1時間後。

「・・・・とほほ、年末年始の目玉商品根こそぎ持っていきやがって」

がくりと肩を落とす武器屋を尻目に、5人は手にした兵装を見て頷いていた。

「さすが町一番の武器屋さんですね。53cm艦首酸素魚雷をこんなにお持ちとは」

「そうだね。あと、三式爆雷とソナーもとても良い状態だ」

「46cm主砲の重みはやはり心強いな!三式弾もこれだけあれば十分だ!」

「武蔵ぃ、ちゃんと零観も持ちや?それにしても彗星一二甲は久しぶりやなぁ」

「私はC4のフルセットと偵察用ドローン、主砲は試製35.6cm三連装砲2セットで良いわ」

武器屋は涙目になりながら電卓を武蔵の目の前に突きつけた。

「ちゃんと払ってくれんだろうな?ツケなんて許さねぇぞ?」

武蔵は持参したスーツケースを開き、札束を見せてニッと笑った。

「私がそんな野暮を言うと思うか?」

 

 

昼過ぎ。

 

「ええ。大変助かります。大歓迎ですよ」

全員で参加する事を伝えに行くと、ミシェル達は既に事務所に居て、テッドと話をしていた。

葉巻に火をつけながらテッドが言った。

「それならもうちょいすっきり分けられるな。情報もアップデートされたしよ」

武蔵が眉をひそめた。

「どういう事だ?」

「それもあってミシェル達を呼んでた。お前達にも連絡する所だったんだが手間が省けたぜ」

「というと・・情報源は」

「先に言っとく。とびっきり胸糞悪い話だから覚悟して聞きな」

時雨がぐうっと拳を握ったとき、サマンサが時雨の肩にそっと手を置いた。

慌てて時雨が振り返ると、サマンサはにこりと笑った。

「大丈夫。落ち着いて聞いてね」

頷きながら時雨は何か思い出せそうな気がしたのだが、テッドが話し始めたので思考を止めた。

「ムファマスが入手したのは計画書の複製だ。最終草案だから大きな変化は無いだろうよ」

そう言ってテッドが取り出したのはcorrosion計画と記された冊子だった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。