Deadline Delivers   作:銀匙

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第8話

神通は時雨の手を掴んだまま、俯き加減に言った。

「武蔵さん」

「・・あぁ」

「今のお話、全て本当なんですね?」

「私の計画も、テッド達から聞いた話も、何もかもそのまま言ったぞ」

神通は目を瞑り、頷いた。

「・・なるほど。良く解りました。それならば全て腑に落ちます」

武蔵が神通を見上げた。

「どういう事だ?」

神通は目を細めたまま、淡々と言った。

「現在の、深海棲艦である事が疑われる司令官のオリジナル、すなわち殺された司令官は私の知り合いです」

「!?」

「ですが、着任当初から違和感がありました。ご無沙汰していますと申し上げてもそっけない返事だったり」

「・・・」

「そして夏には海水浴にお誘いしたのに、泳ぎは嫌いだと拒否された」

「・・」

「私が知る限り、彼は水すましと呼ばれるほど泳ぎが好きだったはずなのです」

「・・」

「違和感はどれも小さい物でしたが、まとめてみればかなりの差です」

「・・」

「容姿に騙されてましたけど・・深海棲艦が化けていたのなら全て辻褄が合います」

神通は武蔵に顔を向けた。

その目はかつて秘書艦と第1艦隊旗艦を務め、出撃の為に海原に立った時の、あのキリッとした顔だった。

「神通・・」

「軽巡洋艦、神通。鎮守府に巣食う深海棲艦を成敗する為、いきますっ!」

龍驤が神通に向かって言った。

「あー、えっとな、神通」

「さぁ、皆さんも出陣の支度を!」

「出発は明日の夜やから、今から行くと誰も居らんで?」

「・・・えっ?」

慌ててカレンダーを見た神通は見る間に真っ赤になると

「あ、あの、日付・・間違えてました。か・・顔が火照ってきてしまいました」

そう、囁いた時。

「あぁ・・あぁ神通・・やっと・・僕達の所に戻って来てくれたんだね」

そう言って神通にしがみついたのは時雨だった。

神通は時雨をしっかりと抱きしめながら、こくりと頷いた。

「お話を伺って霧が晴れた気がします。長い間、私を見捨てないで頂き、ありがとうございました」

視線を時雨から順に、武蔵、山城、龍驤へと移しながら続ける。

それはかつて、旗艦として作戦を説明している時の神通の姿そのものであった。

「私、この件に決着をつけます。私の姉妹の為、沈んだ皆の為、そして・・・」

視線を再び時雨に戻すと、神通は澄み切った声で宣言した。

「赴任前に殺された、司令官の為に!」

武蔵が不敵に笑った。

「それでこそ我が艦隊の旗艦殿だ。喜んでお供するぞ」

時雨が大きく頷いた。

「僕も行くよ。神通と同じ気持ちさ」

山城は微笑みながら頷いた。

「全力で姉様の敵討ちをするのも悪くないわ」

龍驤はにこりと微笑んだ。

「しゃあない。うちも行かんとあかんやろ」

神通は武蔵に向き直った。

「テッドさんや治安維持庁の皆様にもお伝えしなくてはなりません」

武蔵は頷いた。

「強力な助っ人が来るのだ。テッド達も喜ぶだろう」

神通は尋ねた。

「ところで、どうやって司令官が深海棲艦が化けていると証明するのですか?」

武蔵はニッと笑った。

「さっきの話を聞いて方法を思いついたが、確証を得たいな。明日テッドの所で聞いてこよう」

神通が頷いた。

「解りました。ではその結果を私に報告してください」

「あぁ。一緒に行っても良いだろう」

「そうですね。あと、皆さんは・・といっても私が主ですけど、艤装の手入れと給油を済ませておいてください」

時雨が頷いた。

「弾薬の補給も要るね。明日は武器屋にも行こう」

山城が微笑んだ。

「私は艦娘兵装とは異なるものも仕入れてくるわ。役に立つ筈よ」

龍驤が続けた。

「それなら食料も備蓄しといた方がええで。すんなり通れんかもしれへんし・・」

龍驤は神通を見てニッと笑った。

「行き詰まったら練乳でも舐めれば良いアイデアが浮かぶかもしれんしな」

神通が再び真っ赤になった。

「あ、あの、あの、それは」

龍驤がすっと真面目な顔になった。

「皆、それくらい肩の力抜きや。力んだら上手く行くものまで失敗するで?」

武蔵が頷いたあと、そっと龍驤に話しかけた。

「ところでもう全部白状したのだから、そろそろビーフシチューが食べたいのだが・・」

龍驤は山城が頷いたのを見てニコッと笑った。

「お許しも出たようや。武蔵は生クリームやのうてサワークリームやったな。パンはどれがええ?」

「ミッシュブロート。たっぷり添えてくれ。腹が減った」

「よっしゃよっしゃ、待っとき。大盛りで持ってくるで!」

廊下に出た龍驤はにこりと笑った。

神通が元に戻った事で一気に空気が変わった。

これはいける。うちの勘は当たるんやで!

龍驤は調理室に向かって軽やかに走って行った。

 

翌朝。

 

「これは・・旗艦失格ですね。すみません」

神通達は日の出を合図に倉庫に集まって艤装の手入れを始めたのだが、神通の艤装は長らく展開していなかった。

あまりに久しぶりに展開したそれは赤錆が浮き、蜘蛛の巣が張っていたのである。

時雨が苦笑しながら言った。

「確かに、それどころじゃなかったけどね・・」

龍驤は首を振った。

「艤装がこれじゃ元気もなくなるで・・」

山城が神通の主砲を外して呟いた。

「これは使うと危ないわ。兵装一式交換ね」

「でも、そんなお金は・・」

その時、倉庫にドロドロドロという低いエンジン音が響き渡った。

皆が周囲を見回すと、入り口に真っ白なダッジラムのバンがピタリと寄った。

武蔵がプライベートの時に使う車である。

「ほら皆、夕島整備工場と武器屋を回るぞ!早く乗れ!」

運転席からそう怒鳴った武蔵は、歯を見せてニッと笑った。

 

 

 




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