Deadline Delivers   作:銀匙

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第3話

神通達は現在、「神武海運」と名乗るDeadline Deliversである。

元々全員が4219鎮守府に所属していた、神通、武蔵、時雨、山城、そして龍驤で構成されている。

艦娘ゆえに深海棲艦達や海底への輸送は出来ないが、艦娘の居る海域や鎮守府への輸送は可能である。

武蔵は急死した前司令官に代わって着任した司令官の運営方法に辟易し、鎮守府を去る事を決意。

司令官を恫喝し、当時第1艦隊の精鋭だった残る4人を随伴させると堂々と昼間に去ったのである。

 

鎮守府近海を抜けた頃、武蔵の傍に時雨が寄ると、ぺこりと頭を下げた。

「ありがとう。神通はこれ以上出撃したら轟沈していたと思う」

武蔵は山城が支える、憔悴した神通を見ながら頷いた。

「奴の好きな捨て艦戦法をしようにも我々が居なければ、もはや高LV艦娘は居ない。しばらくは安全だろう」

山城が遠くの海原を見ながらつぶやいた。

「定期補給船に食料しか頼めないようシステムを改竄しておきました。時間稼ぎにはなるでしょう」

「なるほどな。さすがだ」

龍驤が肩をすくめた。

「ほんまに、あんな奴を取り締まる為の調査隊やないんかいな・・」

 

 大本営直轄鎮守府調査隊。

 

龍驤が調査隊と言った組織の正式名称である。

大本営の説明によれば、艦娘達への無理な指示や不正行為を取り締まる為の直轄組織という事だった。

しかし、届いてくる噂は黒い物ばかり。

袖の下を献上する鎮守府は取り締まるどころか悪事に加担してるとまで言われている。

そもそも、調査隊を束ねる男は元々良くない噂の絶えない奴だとも聞く。

どうして大本営の上層部はそんな奴に調査隊を任せたのか。

どうして今起きている鎮守府内の不正を正せないのか。

どうして調査隊自体の不正を許すのか。

艦娘達の間では、調査隊が出来た事でかえって大本営に対する不信感が高まっていたのである。

 

龍驤の嘆きを聞いた武蔵は、フンと息を吐いた。

「上の考える事なぞ知らん。大本営に居る私の同艦とやらに拳の1つでも食らわせてやりたいがな」

「完璧反逆やんけ」

「意見具申だ。沈んだ者達の痛みの1%でも思い知れば良い」

「で、どないするんや、この先」

「まずは神通を始めとする皆の療養を優先する。その為にも食い扶持を見つけねばなるまい」

「アテはあるんか?」

「無い!」

「胸張って言うなや!」

「無いものは無い。だがあれを耐えた我々なら何とかなる!」

ニッと笑う武蔵を見て龍驤は溜息をついた。

どうして武蔵は戦術は仔細まで考えるのにそれ以外はズボラなんや?

「ほんなら、うちが先導してええな?」

「ん?何か策があるのか?」

「Deadline Deliversって仕事があるらしいんよ」

「なんだそれは?」

「まぁ、要するに民間の海運業や」

「海運だと?どれだけ危険だと思ってるんだ。タンカー1隻動かすのに艦娘が4人はつかねばならんのだぞ?」

「だから、危険を引き受ける代わりに報酬も良いんやて。噂やけどな」

「ふーむ・・」

「で、それを生業としてる人が多く集まる港町があるらしいんよ」

武蔵自身には他に策もなかったので、山城の方を向いた。

「山城はどう思う?」

山城は武蔵の問いに少し考えた後、

「まぁ、行って様子見しても良いんじゃないですか?いざとなれば撤退くらい可能でしょう」

そして山城は武蔵を見てにぃっと笑い、続けた。

「私と武蔵さんの火力があれば」

武蔵はぎょっとした顔になった。

「お、おいおい、町を焼け野原にするつもりか?」

「必要なら」

龍驤は二人の話を聞きながら肩をすくめた。

山城は戦地での順応も早い頭脳派だ。

そして現時点で武蔵と共に行動してる以上、我々はお尋ね者である。

アウトローにはアウトローとして必要な考え方があり、山城は既にその思考に切り替えている。

龍驤はそっと時雨に囁いた。

「あの二人、絶対敵に回したらあかんな」

「もちろん。僕達を救い出してくれた恩に報いる為、命を懸けて従うつもりだよ」

「ええと・・まぁええわ・・」

龍驤は溜息をついた後、天を仰いだ。

このメンバーに欠けてるのは「ほどほど」という言葉だ。

堅物という言葉さえ裸足で逃げ出すほど真面目な時雨。

その時雨にさらに輪をかけて生真面目な神通。

悪く言えば戦術馬鹿、よく言えばまっすぐな武蔵。

徹底的に理詰めで思考し、白黒きっちりさせる山城。

「あーあ。どこ行っても、うちの役は変わらんようやなぁ」

龍驤は手で額を押さえつつ祈った。

行き先の町にうちを助けてくれるお仲間が沢山居ますように。

 

行き着いた港町では、既に自分達と同じような境遇の艦娘が働いていた。

最初はショックを受けたり戸惑う事も多かったが、働きながら次第に町の流儀に慣れていった。

「よし、ここらで一旗上げようではないか!」

武蔵の一声と、たまたま部屋数の多い事務所兼倉庫が格安で売りに出た事をきっかけに起業した。

神通を社長に据えたのは、ひとつは鎮守府最高LVだった事に敬意を込めて。

もう1つはあまり体調の良くない時でも、秘書艦経験を生かして書類仕事なら進められる為であった。

こうして「神武海運」は始まり、今は鎮守府を後にしてから3年の歳月が過ぎていた。

 

現在の「神武海運」には2つの顔がある。

一つは龍驤、時雨、そして神通が引き受ける、海と陸の輸送業務。

もう1つは武蔵と山城が引き受ける傭兵ならびに護衛任務である。

激しい戦域への強行突入も1社で受けられるが、その場合の報酬は高額になる。

それでもワルキューレの価格表を見た後では「安っ!」と依頼人が叫ぶので、如何にワルキューレが高いか、である。

 

先のモンスター事案の折、武蔵が護衛部隊長を立派にこなした事から、神武海運の評判は確固たる物になっていた。

しかしその一方で、神通の具合は段々と悪化していった。

段々と眠る時間が増えている為、輸送業務を引き受けられなくなっていたのである。

先程武蔵が出かけたのも、テッドに説明する為だった。

 

 

 


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