Deadline Delivers   作:銀匙

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体育の日も休まず営業いたします。



第41話

「ベレー」

「はい」

「お前、バツとして料理当番1週間な」

「ふええええっ!?」

それは、夕島整備工場からの帰り道だった。

BMWにはファッゾ、ミストレル、そして今、目を白黒させているベレーの3人が乗っていた。

 

そう。

 

あの強烈な光が収まった後。

ベレーは深海棲艦のニ級からU-511に戻っていたのである。

姿を見つけたビットは意外そうな顔でベレーに問いかけた。

「あら、昇天を選ばなかったの?」

ベレーは顔を真っ赤にしながらつんつんと左右の指同士を合わせつつ、

「折角皆さんに認めて頂いたわけですし、はるばるドイツから頑張って来ましたし」

そしてファッゾの方をチラリと見ると一層小さい声で

「・・ごはん、美味しいですし」

と言ったのである。

ベレー以外が一斉に笑い出したのは言うまでもない。

しかし。

「ベレーも艦娘になったし、深海棲艦との窓口役を募集するかなぁ」

ファッゾが工場の去り際にそう言った頃から、ミストレルは次第にむすっとし始めた。

「姉御にでも頼みゃ良いだろ」

「今更ギャラを大幅に上げるのは難しいから、ベレーのように省燃費な子がいいんだが」

「ニ級限定で募集すりゃ良いだろ」

「そこまで限定する必要は無いけどな」

「はん」

ファッゾはミストレルをちらりと見た。これは今の会話とは別の事でお冠だな。

まぁ察しはつくし、相談は明日にでも改めれば良いさ。

そして車が走りだした途端、ミストレルから放たれた言葉が冒頭の一言という訳である。

ベレーは何の事かさっぱり掴めていない様子でオロオロしている。

助手席で不機嫌そうなミストレルをちらりと見た後、ファッゾが肩をすくめて言った。

「ミストレル、幾ら心配したからといってバツ当番は酷くないか?」

「うるせーよ」

ベレーは解らず、おうむ返しに聞いた。

「えっと・・心配・・?」

ファッゾはニッと笑った。

「ベレーが大好きなミストレルはな、あの光とベレーの意味深な台詞で消えちまったと思ったんだよ」

「ちゃかすなファッゾ」

「えっ・・でも・・お礼はちゃんと言いたかったんです・・・」

ベレーはシート越しにミストレルを見たが、ミストレルは真っ赤になって外を見ていた。

ベレーは恐る恐ると言った様子で、そっと口を開いた。

「あの、ごめんなさい」

「フン」

ベレーは叱られた子犬のような顔になった。

「あうぅ・・」

ファッゾはハンドルを切りながら続けた。

「正直、俺もお別れかと思ったんでな・・まぁその、安心したってのはミストレルと同じだ」

「えっ?」

信号待ちで車を止めたファッゾは、ハンドルにもたれかかりながら言った。

「毎日一緒に居て、メシ食って、仕事して、笑って、泣いて、沢山話してりゃ・・な」

「・・・」

静かなアイドリングの音だけが車内に響きわたる。

道路には1台の車も通ってないので静寂な瞬間となってしまった。

続きを促す気配を感じ、ファッゾがごくりと唾を飲む。

 

「・・あーその、なんだ」

「はい」

ファッゾはちらりとバックミラーを盗み見た。

そこにはリアシートで一言も聞き漏らすまいと、身を乗り出し、真っ直ぐ見つめるベレーが映っていた。

「・・うっ」

い・・言いづらい。

そんなに純粋無垢な瞳で見つめないでくれ。

くそ、ミストレルが真っ赤になってるのも良く解る。

親しかろうと何だろうと、こういう事は流れに任せないとダメだ。

一旦途切れると恥ずかしくて物凄く言いにくくなる。

ミラー越しにベレーを盗み見ること30秒。

ファッゾは青信号に変わった瞬間、グイっとアクセルを踏みつけた。

ストレート6のエンジンは嬉々とした咆哮をあげ、タイヤはありったけの力で地面を蹴り飛ばした。

姿勢制御装置は突然の仕事に警告灯を点滅させて抗議しつつも車体を真っ直ぐ前へと導いた。

急加速にのけぞったベレーはそのままシートに押し戻され、慌ててシートにしがみついた。

「わあっ!」

ファッゾはエンジンの咆哮に紛れるくらいの声で呟いた。

「俺は大事な我が子だと思ってるんだよ。お前達をな」

ミストレルは外を見たまま、目を細めてくすっと笑った。

ファッゾだって不器用極まりねぇじゃねぇか。

ま、だからこそ本音だって解るけどな。

BMWはいつになくハイスピードで街のメインストリートを駆け抜けていった。

ようやくスピードに慣れたベレーがじっとファッゾを見ながら訊ねた。

「ファ、ファッゾさん、さっき何て仰ったんですか?」

ファッゾはATを3rdレンジに落としながら言った。

「さて、今夜の晩飯は何が良い?ミストレル」

「え・・あの・・」

ミストレルは頬杖をついたまま、ニヤリと笑ってファッゾに返した。

「さぁなー、ベレー料理長にお任せしようぜー」

ベレーの顔色がさあっと青ざめた。

「えっ!?さっきの話本当なんですか!私・・料理した事・・ない・・です」

ファッゾは肩をすくめた。

「こりゃあ米の研ぎ方から教えなきゃならんようだぞ、ミストレル」

ベレーは口を尖らせた。

「私、ファッゾさんのご飯が大好きなんです。ファッゾさんに作って欲しいです」

ミストレルはニッと笑った。

「じゃーアタシが作る時はファッゾの分だけで良いんだな」

「ふえっ!?ミストレルさんのご飯も大好きです」

ファッゾは肩をすくめた。

「二股かけられたぜ、ミストレルさん」

「二兎を追うものは一兎も得られないんだぜ、ベレー」

「え、選ばなきゃいけないんですか?!」

「だとしたら?」

ベレーはたっぷり1分ほど唸った後、

「・・・ファッゾさん!」

と言った為にミストレルは再びむすっとした。

だが、そこはファッゾが晩のメニューにエビフライを足す事を約束してとりなしたという。

BMWは3人を乗せて家路を真っ直ぐ進んでいった。

西の水平線は綺麗な茜色だった。

 

 




はい。終了です。

正直本気で忘れてたんですけど、私、この小説ってショートストーリーって言ってたんですよね。
いやぁ、41話は長すぎですね。反省反省。


…何か視線を感じるので補足。

私もファッゾ達の方で正直幾つか未回収の伏線がある事は承知しているんです。
ただ、タイトルを折角「Deadline Delivers」としているのに、いつまでもファッゾと愉快な仲間達で終始してしまうと話が狭まります。
ネタの広げ方が強敵の更に強敵の強敵といったドラゴン●ール方式になるのは好きじゃないんで、次は別の「Deadline Delivers」に主役を交代させたいと思います。

今度こそ短くいきますよ。
「ショートストーリー」ですからね!

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