「・・そうか」
ビット達から連絡を受けて駆けつけたファッゾとミストレルは、今までの経緯を聞かされた。
ミストレルはベレーの隣に腰掛けると、肩をくっつけて話し始めた。
「ベレー」
「・・はい」
「ビットはさ、深海棲艦になったきっかけを思い出しちまったんじゃねぇかって言うんだけどさ」
「・・・」
「アタシもさ、正直、軍ていうか、鎮守府生活にいい思い出はねぇ」
「・・」
「だからビットの見立てが正しかったとしても、聞き出すような真似はしない」
「ミストレル・・さん」
「けどさ、もしベレーが話して、スッキリしちまいたいならいつでも聞くぜ」
「・・皆さんに・・ご迷惑がかかるんじゃないでしょうか」
ファッゾが頬を掻きながら言った。
「あー、俺は以前、司令官をクビになった話、二人にしたよな」
「はい」
ビットがにやりと笑った。
「私達も知ってるけどねー」
ファッゾがぐきりとビットを見た。
「おい、何で知ってるんだよ」
「酔っ払ったテッドさんから聞いたわよ」
「あんのお喋り!」
「いーじゃない。私も気持ち解るし」
「なんでだよ」
「あれ?言ってなかったかしら。私が鎮守府追い出された理由」
「あぁ。ミストレルは知ってるか?」
「いーや」
ビットは軽い咳払いを一つすると、
「私は建造妖精の子達と一緒に、装備のメンテをする事が多かったのね」
「ほう」
「あの鎮守府は凄く入渠件数が多くてね、より早く効率的に修理するノウハウを覚えたかったの」
「・・熱心だったんだな」
「それで、深夜に修理の仕方とかを復習したかったんだけど、練習用の艤装なんてない」
「まぁそうだろうな」
「どうしようかなーって夜の波止場を歩いてたら、出会っちゃったのよね」
「・・・まさか」
「お察しの通り、傷ついた深海棲艦よ」
アイウィを除く全員が一斉に向いたので、ビットは小さく肩をすくめた。
「最初の子をちゃんと修理してあげたからか、波止場に深海棲艦達が並ぶようになっちゃった」
「まぁ・・解らなくもないが・・」
「で、私の方も何体も修理をこなした結果、幾つか発見があったの」
「・・」
「まず、深海棲艦の艤装と艦娘のそれは基礎技術に共通点が多かった」
「・・」
「更に言えば、深海棲艦、艦娘、それぞれ相手より秀でている部分があった」
「・・」
「で、司令官が食料のやりくりが辛いって溜息吐いてたから、ついぽろっと言っちゃったのよ」
「・・何を?」
「深海棲艦が持ってる生命維持装置を皆の艤装に組み込みましょうかって」
「・・あー」
「それで上を下への大騒ぎになって、波止場の件もバレちゃって」
「あー」
「ちょっとヤバイかなーって思ってたら島ちゃんが真夜中に荷物背負ってうちの部屋に来てさ」
「・・」
「皆が寝てるうちに逃げようって言ってくれたの」
「・・寝てたのか?」
「島ちゃん凄いのよ、夕食に睡眠薬盛って全員眠らせたんだから」
「・・利尿剤の時に手際が良かったのは前科ありだったからか」
アイウィはジト目になった。
「ばりっちと逃げた時は必死だったの!司令官は今夜中にばりっち解体しろとか叫んでたし!」
ビットはぎょっとした顔でアイウィを見た。
「えっ、それ初耳なんだけど!?」
「ほんとだよ!それに鎮守府には睡眠薬なんて腐るほどあるじゃない!」
「まぁね」
ストレスによる不眠や出航時間の変則シフトに対応する為、睡眠薬の常備は鎮守府では割と普通である。
ビットはベレーを見て言った。
「はい。私達の事はこんな感じ。ベレーちゃん迷惑だった?」
「い、いえ、皆、色々あるんだなって、思いました」
「そうね。だから私達もベレーちゃんの話聞くのは別に迷惑じゃないわよ」
ベレーはきょとんとした後、ぽうと頬を染めると、
「あ、あの、だからお話してくださったんですか?」
「そうよ、これでお互い様でしょ?」
ひゅうっと息を吸い込んだベレーは覚悟したように眉をひそめると、
「・・・つ、つまらなかったら、言ってください」
そう前置きすると、ぽつりぽつりと話し始めたのである。
「・・・そいつ、ムカつく位うちの司令官そっくりだぜ」
吐き捨てるように言ったのはミストレルだった。
「えっ?」
「アタシもさ、深海棲艦が武器を捨てて両手を上げるのを何度も見たんだよ」
「・・はい」
「そういう連中はさ、降伏したがってるんだから助けてやれよって言ったんだ」
「・・はい。私も、そう思います」
「けどさ、司令官は「嘘だから撃て、騙されるな」って判で押したように同じ答えしか返さねぇ」
「・・私の司令官も、そうでした」
アイウィは頷いた。
「うちもそんな事、確か神通さんが言ってたなあ。武士道の精神に反するって嘆いてたもん」
ファッゾが肩をすくめた。
「まぁ、それが大本営のマニュアルなんだよ。そして違反すると俺みたいにクビになっちまう」
ベレーはファッゾを見た。
「でっ、でもっ、私はファッゾさんの判断の方が正しいと思いますっ!」