Deadline Delivers   作:銀匙

33 / 258
第33話

 

 

ぷっくりと頬を膨らませる舞に、ファッゾは苦笑しながら手を振った。

「ごめんごめん。ちょっと考え事をしてたんだよ。ところで何か用事かい?」

「あ、そうだった。えっと、何でも屋さんはまだやってますか?」

「へ?あ、ああ、手の空いてる時にな」

「・・・つかぬ事を伺いますが」

「何だい?」

「あの・・MTの運転免許をお持ちですか?」

「持ってるぞ。トラックの限定解除もしてある」

「実はうちの署で、誰もMT免許を持ってない事が判明しまして」

ファッゾは呆気に取られた。時代って奴か。

「はぁ」

「それでその、MTの護送車を駐車場から署の玄関まで動かして欲しいのです」

「敷地内なら免許無くても良いんじゃないの?」

「・・ほっそーい公道を1本隔ててるんです」

「・・あー、まー、確かにそうか。でもあれくらい・・」

「オフの時だったらそれで良いんですけど、一応公務なので・・」

「この町でそんな細かい事をとやかく言う奴居ないだろ」

「なんでも海軍の方がいらっしゃるそうで、間違いがあってはいけないと」

「ふーん・・いつ?」

「明後日の午前中にお願いしたいんです」

護送車、海軍、明後日。

ファッゾの頭の中で点と点が線で繋がっていく。

「・・・あ」

舞は心配そうに覗き込む。

「ご都合悪いですか?」

ファッゾは超高速でプランを立てながらいった。

「い、いや、いや・・いやいや・・ええと、お、俺もMT久しぶりでな」

「ですよねー」

「だから明日の午後、ちょっと練習しにいって良いかな?」

舞はこくこくと頷いた。

「勿論です!じゃあビットさんにもその時来てもらおうかなあ」

「ん?ビット?」

「はい。全然動かしてなかったんで、使う前に点検してもらおうって事になって」

「ほう・・ほうほう・・ほうほうほう」

「点検して頂いて、ファッゾさんが運転練習して、翌日本番。準備万端ですねー」

「間に合うかな・・」

「え?何の話ですか?」

「ああいや、こっちの仕事の話。じゃあ明日の午後、2時位で良いか?」

「わっかりましたー!じゃあ署で声かけてくださいねー!」

「はいよ」

「助かります!じゃあよろしくお願いしまーす!」

去っていく舞の後姿を見ながら、ファッゾはぺこりと頭を下げた。

立役者の舞にも迷惑をかけないようにしなければ。

そこにベレーがひょこっと顔を覗かせた。

「ファッゾさん、お話終わりましたか?」

「終わったよ」

「じゃあ晩御飯の配膳始めますね」

「今日は何だ?」

「ポトフです」

「・・5人分、あるか?」

ベレーはきょとんとした後、

「大丈夫だと・・思います。どなたかいらっしゃるんですか?」

「テッドとナタリアにも来てもらおうと思うんだ」

ベレーの顔がパッと明るくなった。

「という事は、何か思いつかれたのですね!」

「うん。まだ整理の途中だが、行ける筈だ」

「解りました!5人分用意します!」

 

「俺の差配を蹴っ飛ばすんだ、良い案なんだろうなファッゾ?」

「あたしが急かしたからって早過ぎない?ちょっと心配なんだけど・・」

事務所を訪ねてきた2人は素直にそう言った。

ファッゾは席を勧めながら言った。

「正直、まだ固め切れてない。だから細部を相談したいんだ」

テッドはポトフに目を細め、早速スプーンを取りながら頷いた。

「まぁその方が俺も心配は少ないな。さっさとまとめちまおう。頂くぜ」

 

夕食後も2時間ほど3人は討論を重ねた後、ファッゾのBMWに乗ってどこかへと消えた。

疲れた様子でファッゾが戻ってきたのは真夜中に近かったという。

 

翌日。

 

署の交通課で舞の姿を見つけたファッゾは声をかけた。

「舞、来たぞ」

しかし、舞の表情は優れなかった。

「あ、ファッゾさん・・それが・・」

「どうした?」

「護送車、まだ修理中なんです」

「おや」

「ビットさんが工場でないと直せないって仰って、まだ戻ってきてなくて・・ごめんなさい」

「そうか」

ファッゾは時計を見た。

14時10分。

・・13時55分までには返してくれる筈なんだが、本当に壊れてたか?

舞はしゅんとした顔でファッゾに言った。

「なので、申し訳無いのですけど戻ったらお呼びしますので、それで良いでしょうか」

「構わないよ。無理を言ってるのはこっちだから。それじゃ」

ファッゾはそういって踵を返した。

 

舞から電話があったのは16時を過ぎてからだった。

再び訪ねたファッゾに舞はぺこりと頭を下げた。

「お待たせいたしましたー!本当にすいません!」

「いやいや、全然構わないよ。じゃあちょっと駐車場内を回らせてもらうよ」

「はい。あ、ビットさんから、まさかの重ステだから気をつけて、との事でした」

「うげ」

「重ステって何ですか?」

「あー・・知らないか」

「はい」

「まぁハンドル切るのに物凄く力が要るって事だよ」

「古い車ですからねぇ。じゃあこれ、鍵です!」

「うん」

鍵を渡した舞が、そっと上目遣いでファッゾを見た。

「それでその・・今回の御代はお幾らでございましょうか・・」

ファッゾは顎に手をやりながら言った。

「まぁ・・最短の15分もかからんだろうし・・税込1200コインてとこか」

「ほんとですか!ありがとうございます!助かります!」

「何でそんなに喜んでるの?」

「諸雑費は2500コイン超えると経理課に説明が要るので」

「きっついな」

「他県だともうちょっと緩い所もあるみたいなんですけどね」

「じゃ、請求書は明日持ってくるよ」

「わっかりましたー!」

 

そしてファッゾは駐車場で

「うお・・これは・・本当に重ステ・・だ・・」

と、額に汗しながら1時間ほど練習したのである。

 

そして翌日、すなわち移送の日を迎えたのである。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。