Deadline Delivers   作:銀匙

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第29話

 

 

「いいか、とにかく、十分気をつけるんだぞ」

「なんべん言うんだよファッゾ・・さすがに聞き飽きたぜ」

「マッケイやムファマスの話ではソロル近海での戦闘は無いようだが、そこまでだって油断は禁物だ」

港の岸壁で兵装を装備しつつ、ミストレルとベレーはファッゾと出発前最後の打合せをしていた。

ミストレルは肩をすくめた。

「二人で警戒しながら明朝0700時までにムルガ島へ行く。後は護衛機にのんびりついていく。簡単だぜ」

「ダメコンは持ったな?レーダーは動くな?」

「ちゃんとあるって。ベレーも大丈夫だろ?」

ベレーが頷いた。

「3回確認してますから大丈夫です」

ファッゾは二人の手をぎゅっと握ると言った。

「無事を祈ってるからな」

ミストレルはニッと笑い、岸壁を蹴りながら言った。

「じゃ、ちょっくら行ってくるぜ!」

ベレーはファッゾの手をぎゅーっと強く握り返すと、むんと頷き、

「い、い、行ってきます!」

そう言ってミストレルの後を追っていった。

「何回やっても、この瞬間は慣れないな・・・必ず、必ず帰って来いよ」

ファッゾは二人が見えなくなった海原を見つめながら、そう呟いた。

 

 

「くっそ、これじゃ指定刻限に辿り着けねぇよ」

「チョット、数ガ多イ、デスネ」

二人はムルガ島沖まで辿り着いていたが、そこで深海棲艦の艦隊と遭遇してしまった。

ベレーが交戦の意志がない事を伝えたにも関わらず、応答代わりに砲撃が始まったのである。

懸命に迂回してムルガ島に近づこうとしたが、運の悪い事にさらに別の深海棲艦の艦隊と遭遇。

両者から攻撃されて進路を阻まれていたのである。

ミストレルは舌打ちをした。

島の付近まで行かなければ護衛機は見つけてくれないだろう。

このままじりじりと戦闘を続ければランデブー出来ず、輸送任務は失敗だ。

その時、1発の砲弾がミストレルに着弾した。

 

「くっ!」

「ミストレルサン!大丈夫デスカ!?」

「至近弾だ・・ちょっと痛ぇけど大丈夫」

 

まだ自分は小破で済んでいるが、帰路を考えればこれ以上は厳しい。

状況を全て記録し、無理だったと伝えよう。ファッゾなら解ってくれるはずだ。

ミストレルが撤退の判断を下そうとした、その時。

 

「!?」

 

ミストレルとベレーを、黒い影が覆った。

とっさに見上げた二人は、我が目を疑った。

 

見えたのは、彗星六〇一空の群れだった。

1機2機ではなく、空を埋め尽くす勢いで飛んできたのである。

恐ろしい事に、それら数え切れないほどの大編隊が格子状にビタリと並んで飛んでいる。

「・・どんだけ訓練したらあんな事が出来るんだよ」

自らも水上偵察機を運用した事があるミストレルは、その異常性を即座に理解した。

数も錬度も尋常じゃない。誰がこんな航空部隊を操ってるんだ?

 

呆気に取られるミストレルにベレーが叫んだ。

「コールサインデス!」

「ん?!マジか!」

ミストレルがコールサインに対する返信を送ると、彗星の大編隊は二手に分かれた。

そして先程までミストレル達に砲撃を浴びせていた深海棲艦の2艦隊を一瞬で轟沈させてしまった。

「!?」

ミストレル達は呆然としていた。

相手は重巡や戦艦を含む6隻フルの2艦隊だった。

幾ら熟練した航空部隊とはいえ、1度の通過タイミングで全艦轟沈させるなんて不可能だ。

そう。

不可能だと、今の今までミストレルは思っていた。

 

だが、彗星六〇一空の航空隊は目の前であっさりとやってのけた。

そして再び1隊に集まると、ゆっくりとソロル島に向けて方向転換した。

ミストレルはベレーに向かって言った。

 

「お、おい、後を追うぞ」

「ハイ」

 

それからしばらくして。

 

「・・ミストレルサン、アレ」

「んー?」

ベレーが恐る恐る指差した先に見えたものは、深海棲艦達だった。

だが、二人が首を傾げた理由はそうではなく。

「・・なんで直立不動なんだ?あいつら」

「トテモ・・緊張シテル感ジガシマス」

最初は首を傾げるだけだったが、

「な、なぁ、あっちの奴らもこっち見ながら直立不動だよな・・」

「アッチノ方々ハ、敬礼シタママ動カナインデスケド・・」

「・・結構、大規模な部隊・・だよな」

「ハイ・・」

微動だにしない深海棲艦達を見て、二人は思った。

この航空隊、よほどこの海域で名を轟かせてる実力者なんだな、と。

 

「遠い所をわざわざ届けて頂き、ありがとうございました」

「い、いえ、大丈夫です」

「おかげさまで明日の支度に間に合います。嬉しいです」

 

ソロル近くの海原で待ち、大編隊を静かに艤装へと仕舞ったのはたった一人の鳳翔だった。

 

鳳翔は、軽空母である。

本来ならばこんな大編隊をたった一人で運用出来る筈が無い。

更に言えば、海は折からの風が強く吹き、立ってるだけでも結構大変な程に波が立っていた。

それなのに編隊は一糸乱れることなく着艦し、鳳翔は平然と受け入れたのである。

普通なら着艦自体諦める状況であるにも拘らず、何事も無かったかのように。

ミストレルはごくりと唾を飲んだ。

やっぱり尋常じゃない編隊は持ち主からして尋常じゃない。

荷を見て頷く鳳翔に、ベレーはおずおずと伝票を差し出した。

「エエト、アノ、後デ構イマセンノデ、コチラニ受取ノサインヲオ願イシマス」

鳳翔がにこっと笑った。

「すみません。私とした事がうっかりしてました。貸して頂けますか?」

「ハ、ハイ」

鳳翔はさらさらとサインすると伝票を丁寧にベレーに返した。

「こちらで宜しいですか?」

「・・ハイ、大丈夫デス」

鳳翔はミストレルの方に向き直ると言った。

「護衛が遅れてしまいすみませんでした。破損箇所の修理と補給を兼ねて島で休憩なさいませんか?」

ミストレルは頷いた。

破損は小規模だが、鎮守府で直してもらった方が早く綺麗に直してくれる。

それに、帰路の海域で再び好戦的な深海棲艦達に遭遇しないとも限らないからだ。

 

 

 

 


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