Deadline Delivers   作:銀匙

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第28話

 

ミストレル達がそんな体験をした数ヵ月後。

航路的にソロル近海を通りがかったクー達は、深海棲艦達から話しかけられた。

「ネェネェ、君達モカレー食ベニ来タノ?」

クーは思わず足を止めて聞き返した。

「ハイ?」

「ココノカレー美味シインダヨー」

「ヘー」

「抽選ダカラナカナカ食ベラレナインダケドサー」

クーは興味を持ちかけていたが、それを聞いて途端に意欲が失せた。

「チュ、抽選ナンダ・・」

「カレー教ニ入信スルト確率ガ上ガルンダヨ?」

「・・カレー教?」

その時、別の1体が海面に浮かんできて厳かに言った。

「ゴ本尊ガアル小屋ノ方ニ向カッテ、毎日3回海底デ教祖様ヲ称エル舞ヲ奉納シ、4回祈リヲ捧ゲルノデス」

「ゴ本尊?教祖?奉納?」

クーとルフィアは顔を見合わせた。

なんでカレー食べるのに宗教に入信しなきゃいけないの?

僕達の町ならトラファルガーに行けば普通に食べられるのに。

クーは眉を顰めた。

・・だから海底生活は嫌なんだよ。飛び出して良かった。

クーはルフィアに目で合図し、じりじりと後ずさりし始めた。

「イ、イヤ、僕達輸送任務デ先ヲ急イデルカラ」

「ソウ言ワズ、セメテ手ヲ合ワセルダケデモ」

「エー」

ふと、クー達が周囲を見ると、いつの間にか神器を手にした深海棲艦達に囲まれていた。

「ヒッ!」

「サァ、オ祈リノ時間デス。教祖様ノ為ニ祈リヲ捧ゲマショウ」

・・しょうがない。下手に刺激するのは得策ではない。

クーとルフィアは周りに合わせるべく、形だけ頭を下げてきたのである。

この話を帰ってきたクー達が尾ひれをつけて噂した結果、この町では

 

 ソロル海域は狂信的な深海棲艦の巣窟

 

というのが定説となり、この海域はタブーであるとDeadline Delivers達は認識したのである。

話は現在に戻る。

 

ファッゾは電話口でテッドに渋る理由を並べていた。

「ソロル近海だけでも5千体は深海棲艦が居るんだぞ?」

「・・まぁな」

「しかも変な宗教に入れとか言われるんだぞ?」

「・・」

「うちだけで突破するのは無理だ」

「じゃあ誰となら良いんだ」

「ナタリアは要る」

「ちょちょちょ!おいおい、ワルキューレはオーバーコストだぜ」

「連中を黙らせる必要があるだろ?」

「それがねぇんだとよ」

「なに?」

「ソロル手前のムルガ島から護衛をつけるそうだぜ。それなら安全だろ?」

ファッゾはそれでも躊躇っていたが、ミストレルが受話器をファッゾからもぎ取ると

「なぁテッド!後1割くれたら引き受けるぜ!」

「がめついなおい」

「ファッゾの説得代だ」

「・・ええい!その代わり最優先ですぐ出発してもらうからな!」

「OKテッド、任せときな。補充済ませたら事務所に行く」

「頼むぜミストレル。ファッゾによろしくな」

 

ガチャリと電話を切ったテッドは頷きながら言った。

「・・うちの組合員達も覚悟して行かなきゃならん海域なんですよ、メイさん」

メイと呼ばれたテッドの目の前に座る女性は、小切手にサインしながら答えた。

「これだけギャラを払うんです。失敗は許されませんからね?依頼主は大株主様なのです」

テッドは葉巻に火をつけながら言った。

「そいつは・・海域でドンパチやってる深海棲艦や艦娘に言ってくださいよ」

メイは小切手をピッと切りながら言った。

「それ込みの値段ですから、我々はあなた方に言うのです」

煙を吐きながらテッドは思った。言ってる事は正しいが、行き先が行き先だ。

テッドは長年の疑問を口にした。

「あんた方の勝手だが、なんだってあんなイカれた所にエクスプレス契約を認めたんだ?大赤字だろ?」

メイは重い溜息をついた。

「その通りなのですが、あのエリアの会員様はいずれも大株主と大得意様なので断れないのです」

「・・司令官がって事ですか?」

「いえ、全員艦娘の方です」

「複数の艦娘が株主やお得意様なんですかい?」

「・・ええ」

「しかし、今回何かあったら我々も次回以降は引き受けられませんぜ?」

「そうはならない、そう仰ってました」

「どなたがです?」

「今回の依頼主様がです」

テッドは肩をすくめた。艦娘がそう言うって事は大海戦でもおっ始めるつもりか?

戦闘に巻き込まれてミストレルやベレーが沈んだらファッゾがどれだけ怒るか解ったもんじゃない。

テッドは窓の外に目を向け、首を振った。何事もありませんように。

 

 

「目立つ特徴・・か?」

「ええ。依頼主様が識別用に教えて頂きたいとの事でした」

 

テッドの事務所に向かったミストレルとベレーは、着くなりメイからそう訊ねられた。

 

「識別なぁ・・サングラスとかで良いのか?」

「目立つのであれば」

「うーん・・」

考え込むミストレルを見て、ベレーがぽんと手を叩きながら言った。

「ちょっと待っててください。すぐ戻ってきます」

 

5分後。

 

ベレーが持ってきたのは長いロイヤルブルーのスカーフ2枚だった。

ミストレルが怪訝な顔で訊ねる。

「なぁ、こんなのあったか?」

ベレーがにこっと笑いながら返す。

「先日、玉ねぎの袋についてた懸賞で当たったスカーフセットです!」

「・・お前懸賞なんてやってたのかよ」

「当たると嬉しいじゃないですか。宝くじよりお手ごろですし!」

「まぁ良いけどよ・・これを二人それぞれ首に巻くので良いか?」

「はい。それが識別子になりますから決して身から離さないでください」

「じゃあ安全ピンで留めるか」

テッドが顔をしかめつつミストレルに言った。

「おいおい、それシルクだろ?折角の綺麗なスカーフに安ピンはねぇだろ」

「他に持ってねぇよ」

「しかたねぇなぁ」

テッドは奥の部屋に行き、数分後に小箱を手に戻ってきた。

「ほらよ、ミストレル。こっちはベレーちゃん」

「ああん?」

ミストレルが手渡された箱を開けると、そこには古いカメオのブローチが入っていた。

「うわぁ・・綺麗・・」

ベレーも箱を空け、入っていたブローチを取り出すと嬉しそうにスカーフにピン留めした。

ミストレルは首を傾げた。

「何でテッドがこんなもん持ってるんだ?」

「コレクションだ。なくすなよ?弁償出来るような金額じゃねぇからな」

「わ、解ったって。なぁメイ、これで良いか?」

メイはスマホのカメラで二人を撮りながら言った。

「・・はい。画像として送りました。それから伝言です。護衛は航空機だそうです」

「機種は?」

「彗星・・ろっぴゃくいち・・と読むんですかね?これ」

ミストレルはメイのスマホ画面を見て眉をひそめた。

「彗星六〇一空だと・・熟練部隊じゃねぇか」

「その護衛機に従って航路を取ってほしいとの事です。コールサインと返信はこちらだそうです」

「オーライ、見失わないようにするさ。あと、ベレーは深海棲艦のニ級だ。間違えて撃つなよって伝えてくれ」

「解りました」

 


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