Deadline Delivers   作:銀匙

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第73話

 

 

「ですから!マリモっぽい羊羹なんて言われたってさっぱり解りません!」

「あなたバカじゃないの!常識でしょそんな事!」

風雲が車で真っ先に向かったのは店ではなく、依頼主の家だった。

そして出てきた依頼主にもっと詳しく教えてくれと頼んだ。

だが、依頼主はまだ買いにすら行ってない事に激怒し、この有様になったのである。

風雲は額に青筋を立てつつ、ずいずいと依頼主に近づきながら反論した。

「バカですいません!さっぱり解りません!教えてください!お急ぎなんですよね!」

「急いでるってずっと言ってるでしょ!もう良いわよ他の人寄越して頂戴!」

「今から他の人に頼んだらもっと遅くなりますよ!さぁ!マリモっぽい色ですか?形ですか!」

「う、うう・・」

「さぁ教えてください!商品名でも良いです!さぁ!さぁ!」

「い、色よ・・緑色の・・」

「何味ですか?抹茶ですか!野菜ジュースですか!」

「や、野菜ジュース味の羊羹なんて、あ、ある訳無いでしょ何言ってるのよ!」

「はぐらかさないでください!じゃあ抹茶味で良いんですね!」

「う、うぅ、そう・・よ・・抹茶味よ」

「大きさは!?」

「大体こんな感じかな、こんな」

「長方形ですか円形ですか!」

「ちょ、長方形・・」

「オーソドックスな羊羹の形ですね?長さは!」

「さ、30cmくらい」

「重さは!」

「し、知らないわよ!普通の羊羹よ!」

風雲はペットボトルのお茶を取り出した。

「これより重いですか軽いですか?」

「お、重い・・かな?」

風雲はもう1本手渡した。

「これでどうですか」

「こ、こんなもん、かな?・・やるわね」

その時風雲は怪訝そうな顔になった。

「・・どこかでお会いしました?」

「ぜっ全然!全然会ってないわよ何言ってるの!」

「ふぅーん・・」

風雲はジト目で依頼主を見つめたあと、

「じゃ、1kg位ですね。お店の名前はわかりますか?」

「覚えてないわね・・」

「包み紙はありませんか?紙袋とか!」

「さっ、探せばあるかも・・でも面倒臭いし、それくらい良いでしょ?」

「お急ぎで買う為には絶対必要です!探してください!何なら私も探します!」

「あっだめ!入ったらダメ!」

「・・・やっぱりどこかでお会いしてませんか?」

「会ってない!会ってないから!ちょ!ちょっと待ってなさい!」

 

バタン!

 

勢いよくドアを閉められ、締め出された風雲は首を傾げていた。

あのお客さん、なーんかどっかで会ってるような気がするんですよねぇ・・

 

ガチャ!

 

「ほ、ほら紙袋あったわよ!これで良いでしょ!」

「・・・店名と住所、電話番号まで印刷されてるじゃないですか」

「じゃあ急いでください!」

 

バタン!

 

「・・・ください?」

風雲は首を傾げた。

なんか、変。

 

「・・・んー」

「か、風雲・・ちゃん・・ど・・・あれぇ?」

顎に手を添えて考えながら路地に戻ってきた風雲に声をかけたのはリットリオだった。

しかし、風雲は更に首を傾げた。

「リットリオさん・・どうしてそんなに息を切らせてるんですか?」

「だ、だって早す・・い、いや、何でもない・・よ・・」

「?」

「そ、それより、か、買い物は、済ませたのですか?」

「いえ、これから買いに行きます」

「・・・これから?」

「ええ。マリモっぽい羊羹1本なんて曖昧過ぎるオーダーだったんで詳細確認してきました」

「あー・・」

リットリオはポリポリと頬をかいた。

このお題は間違いなく自分や先輩達が引っかかったアレだ。

だが風雲は最初から依頼主に訊ねるという最も適切な行動を取ったのだ。

とすると、自分の出番が・・・

「あ、あは、あははははは」

「どうしたんですかリットリオさん?」

「いえ、あ、ええと、情報は補完出来ましたか?」

「はい!前回購入した際の紙袋を頂いて、大きさや重さ、色、形、味まで伺いました!」

「す、凄いね・・ぬかりないというか・・手馴れてるね」

風雲はジト目で溜息をついた。

「ある意味、巻雲姉ぇのおかげなんですけどね・・」

「え?」

「あ、とりあえず買い物まだなんで、良かったら一緒に行きませんか?」

「あ、はい」

で、伝統・・どうしよう・・

変な汗をかき始めたリットリオを他所に、風雲は自分の車へと促した。

 

車を走らせながら、風雲は口を開いた。

「とにかく雑なんですよ、巻雲姉ぇは」

助手席でちょこんと座るリットリオはおうむ返しに聞いた。

「雑?」

「ほわほわーっとしたやつーとか、紅葉の葉っぱのような色の~とか」

「それ、説明なんですか?」

「ええ。そもそも例えが悪いし擬音ばっかり多用するんでさっぱり解らないんです」

「あー・・・」

なるほどとリットリオは頷いた。

それは今回の訓練よりはるかに質が悪い頼み方だ。

「それを人づてで聞くと余計酷くなるんで、直接本人に質すのがいっちばん早いんです」

「なるほど」

「だから今回の依頼主もそうだと思ったんで、直接聞きに行ったんです」

「カンペキだね」

「巻雲姉ぇの対応が役立つ日が来るとは思いませんでしたけど」

「・・だね」

「でも、なーんか引っかかるんですよねぇ・・」

「引っかかる?」

その時、横道からバイクに乗った強盗が飛び出してきたが、風雲は

「うるさい、考え事してるの」

と、呟くや否や急ハンドルを切りつつサイドブレーキを引いた。

 

ギャギャギャギャギャギャ!

・・・・タタッタタタッ・・パララララ!

 

車がスピンしてバイクと対峙する角度になった時。

風雲は躊躇う事無く運転席の窓から出したMP5KA1の引き金を引いた。

あまりにも突然の出来事に応じ切れなかった強盗は、あっさりタイヤを撃ち抜かれて転倒。

そのまま元の方向までスピンさせた後、風雲は何事もなかったように話を続けた。

「ええと、どこまで話しましたっけ」

「えっと、引っかかる、かな」

そう答えつつ、リットリオは助手席で風雲の対応に舌を巻いていた。

自分とは明らかに異なるスタイルをいつの間に確立していたのだろう。

あしらい方は自分より上手いかも・・

 

 

 


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