Deadline Delivers   作:銀匙

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第72話

鹿島の言葉に、風雲がふっと力を抜いた。

「・・・そっか・・あくまで研修センターであって、何か処置を施してもらう場所じゃないですものね」

「ここは改造する施設じゃありません。私達が出来るのは導く事だけです」

「半身を差し出して、悪魔と契約するわけじゃないんですものね・・」

「・・まだそれ信じてたんだ」

「だ、だって、LVがほとんど変わらないのに、どうしてあんなに強くなるのか理由が解らなくて」

「それが学んだ結果なんだってば~、やだよぅ風雲っちー」

「す、すみませ~ん」

その時、ふとリットリオは風雲が鹿島と普通に話してる事に気がついた。

あまりにショックな事を聞いたから、自らの防壁を構築してる暇が無かったと言う事か。

そしてその絶妙なタイミングで、ごく自然に登場した鹿島はやはり只者ではない。

リットリオはそっと、鹿島を見た。

鹿島はちらとリットリオを見返し、ぱちんとウィンクを返したのである。

リットリオはほっと溜息をついた。

どうやら、最大のミッションは達成できたようです。

 

「鹿島さん・・リボルバーって隙間からの火花が酷いですね」

「まぁそういう構造だからねぇ」

「6発しか撃てないし」

「代わりに1発の威力が大きいし、構造が単純だからメンテは楽だよ?」

「でも、あの時の事を考えると、1発の威力より装弾数の多さが物を言う気がするんです」

「あの時?」

「山賊を撃退する時です!」

「まぁ、最初のうちはマシンガン欲しくなるくらい出てくるもんねぇ・・」

「はい。そう考えるとこっちが良いんでしょうか?」

そういって風雲はM16A4を指差したが、鹿島は首を振った。

「気持ちは解るけど運用コスト的にNGです」

「ああっ!その問題が!やーだー!」

「でもって、車内や街中の銃撃戦で使うには長過ぎるのです」

「ぁーもう!全部良い武器は無いのですか!」

「ないねー」

リットリオはにこにこしながら風雲と鹿島の会話を聞いていた。

すっかり風雲は鹿島には打ち解けたようだ。

M93Rの分解整備を終えてスライドを戻した時、風雲がこちらを向いた。

「リットリオさん」

「はい?」

「リットリオさんはなぜ、M93Rを選んだんですか?」

「まず、両手で持てて、幾つか弾の選択肢がある事」

「ええ」

「3点バースト射撃が便利だって聞いたし、反動も小さかったし」

「なるほど」

「・・・イタリア製だし」

途端に風雲はジト目になった。

「リットリオさん」

「・・はい」

「本音は最後だけですよね?」

「そ、そそ、そんなことないですよー」

「解り易すぎます」

「えー」

リットリオは違いますよねという目で鹿島を見た。

だが鹿島はうんうんと頷いていたので、

「1個残しておいた紅白饅頭があるんですよねぇ」

と、ポツリと呟いたところ、鹿島はキリッとした顔で、

「そんな事ないよ風雲さん!リットリオさんは思慮深い先輩ですよ!」

そういったので、風雲はジト目で

「鹿島さん、買収に応じすぎです」

と、返したのである。

結局、風雲は散々悩んだ末にMP5KA1を選んだ。

「うん!9mmパラベラム弾でも絶対こっちの方が撃ちやすいわ!」

空薬莢に足首まで埋もれながら満足げに頷く風雲を見て、鹿島はリットリオに囁いた。

「ねぇ、風雲ちゃんてとことん真面目だよね」

「はい」

風雲はイヤーマフを手にすると鹿島の方を振り向いた。

「後100発練習して良いですか?」

「ひゃ、ひゃっぱつ!?」

「はい。通常弾としてAPかFMJか、多弾数撃った後の手の痺れ具合で決めたいんで!」

「あ、あぁそう・・ま、まぁ良いけど?」

「ありがとうございます!」

 

 タタッタタタッ・・パララララ!

 

ふと、リットリオは鹿島に尋ねた。

「あの」

「ええ」

「風雲ちゃん・・集弾率上がってませんか?」

「よく気が付いたね。うん。初めの頃に比べると良くなってるよ」

「です・・よ・・ね・・」

「でもリッちゃんのM93Rよか集弾率は元々良いからねぇ」

「えっ?M93Rって集弾率悪いんですか?」

「フルオートも出来るピストルと、本家SMGじゃねぇ」

「・・・」

「単発で撃てばM93Rだって良く当たるよ?」

「私も・・MP5撃ってみて良いですか?」

「えーと・・あー、MP5SDならあるよ」

「なんか形違いませんか?」

「先っちょが消音器になってるんだよー」

「へー」

「突然の屋内戦には有利だよね」

「お借りします」

 

ピスッ!ピスススススス・・・

 

「んー・・」

「どお?」

「やっぱりSMGは重いですね」

「そうだね」

「それに、消音器がついてても結構音はするんですね」

「サプレッサーが無音にしてくれるなんて幻想だよ~?」

「やっぱり私は、こっちで良いです」

「M93Rは良い銃だからねぇ」

リットリオと鹿島が話し込んでいると、風雲が何度も頷きながら戻ってきた。

「やっぱりフルメタルジャケットで行きます。一番疲れません」

鹿島は頷いた。

「良いんじゃない?FMJは最も整備性が良いし、銃が壊れにくいし」

「やっぱりAP弾は厳しいですか」

「ホローポイントよりマシだけどね」

「なるほど」

リットリオは微笑んだ。

警戒して話すら出来なかった時に比べれば、この短い時間でも風雲は沢山学べている。

私が居る間に、もっと楽しんでくれたら良いな。

 

こうして鹿島を皮切りに、朝潮、そして香取とも風雲は話が出来るようになって行った。

時は進み、風雲がついに一人で買い物に行く日がやってきた。

だが、その任務を聞いた風雲は明らかに戸惑っていた。

「ふええっ?こっ、これが依頼なんですか?」

香取は普段より機嫌が悪そうに返事をした。

「そうです。ではよろしくお願いいたします」

「・・・んー・・・んー・・・」

「車は3番を使ってくださいね。あまり時間はありませんよ」

「あの・・あーいや、はい・・行って・・きます」

 

パタン。

 

風雲が閉めたドアを見て、香取は小さく溜息をついた。

「聞き辛い雰囲気であろうと、訊ねなければならない時はあるのですよ、風雲さん・・」

 

しかし、風雲は香取の予想とは全く異なる展開を取ったのである。

 

 

 





連休最終日。
リアル私は生きてるかなぁ・・

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