Deadline Delivers   作:銀匙

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第71話

 

 

翌朝。

朝食の席で、おもむろに香取が口を開いた。

「今日は銃の訓練日と致します。入った依頼は朝潮さんに対応頂きます」

「うえええっ・・あ、いえ、なんでも、ないです・・はい」

「ではリットリオさん、朝食の片付けを風雲さんと済ませた後、射撃場にお連れください」

「解りました」

 

カチャカチャと音をたてながら、その割に静かなキッチンで。

俯き加減で食器を洗う風雲の隣で、リットリオは何と言葉をかけたら良いか迷っていた。

昨晩は一気に色々なことを教えてもらったので、まだ消化不良気味だった。

ついでに言えば、その事を考え続けていてあまり寝ていなかった。

だから正直、買い物当番がなくてホッとしていたのである。

 

「・・リットリオさん」

 

ようやく、風雲が重い口を開いたのは、食器を拭き始めた時だった。

「はい」

迷いが表に出て、声色が変わって無ければ良いなと、リットリオは思った。

「あ、あの、わ、わたし・・ええと・・あぁ上手く言えない・・」

目を泳がせる風雲の両手を、リットリオはそっと包みながら言った。

「聞きます」

「ふえっ?」

「時間がかかっても良いです。上手に言えなくても良いです。私は、貴方の話を聞きます」

「・・・あ、あぁ」

「だから、聞かせてください」

「うっ、ひっく、うわああああああん」

立ち尽くした風雲がわんわん泣き始めた声は、家の外まで聞こえたという。

 

「・・そんな、それは無理ですよ」

「でも、でもぉ・・」

泣き止んだ風雲がポツリポツリと話した事。

夕雲型として恥ずかしくない成績を残したい。

皆勤賞は当然、銃の訓練は最初から満点で、あらゆるテストを満点でクリアする優等生でありたい。

 

「でないと・・でないと当番をやりくりして送り出してくれた姉さん達に申し訳が立ちません・・」

 

その呟きに、リットリオは頷いた。

それこそが風雲をガチガチに縛っていた元凶だし、根本的に勘違いをしている。

「風雲さん」

「・・」

「ここの名前を覚えてますか?」

「・・山甲町・・研修・・センター」

「ええ。その通りです。間違っても山甲町試験場ではありません」

「・・?」

怪訝な顔で見返す風雲に、リットリオは続けた。

「ここは知らない事を教えてもらい、出来ない事を出来るようにしていく場所です」

「・・」

「全ての試験に最初から満点であれば、恐らくその方は研修不要と評価されるはずです」

「えっ」

「来る前から全て知っているのなら、そもそもここに来る意味が無いからです」

「・・そっか」

「一番の問題は、知っているかのように振舞うこと。知る事を怖がる事と言っても良いです」

「・・で、でも、教官に聞くの、こ、怖いんです」

「なぜですか?」

「わ、私に対する教官の覚えは悪いと思います。ですからこれ以上失態を重ねては・・」

「重ねては?」

「こ、ここから追い出されるんじゃないかって、そしたらそれこそ、姉さん達に合わす顔が・・」

風雲がぎゅっと縮こまったので、リットリオは優しく風雲の背中を撫でた。

「・・・んー」

ここは恥ずかしいけれど、仕方ない。

「風雲さん」

「はい」

「私は着任3日目に、峠道を通行止めにしちゃいました」

「・・へ?ど、どうして?」

「山賊さんの車に向けて主砲を撃ったら道路脇の崖まで崩しちゃいまして・・」

「・・・え」

「その後警官隊に囲まれて護送車に乗せられまして」

「ふええっ!?」

「取調べを受けて、留置場に夜まで入れられて」

「・・・・」

目をぱちぱちさせ、ぽかんと口を開けたままの風雲をちらりと見たリットリオは、

「最後に署長さんにこってり絞られて、香取さんに迎えに来て頂きました」

と、言い切った。

風雲はたっぷり1分ほど固まっていたが、

 

「そ・・そ、それって・・た・・逮捕・・じゃ・・」

「です」

「リ、リットリオさんが・・そんな」

「で、でも!でも聞いてください!これには訳があるんです!」

「訳があったって警察のご厄介になる所まで研修とは言わないんじゃないですか!?」

「そうですよ!そうですけどそうなっちゃったからしょうがないじゃないですか!」

「そもそも人に向けて主砲発射ってご法度中のご法度じゃないですか!」

「人じゃないです!向かってくるジープです!」

「それは詭弁です!提督はご存知なんですか!?憲兵隊からどんな処分が下されたんですか!」

「えっ!?」

リットリオはその時初めてその事に気がついた。

風雲は眉をひそめてリットリオにずずいと近づいた。

「・・まさか、何も・・」

「今の所、何もないですね・・」

「そんな事したら雷撃処分間違い無しじゃないんですか?」

「え・・・えーと」

「あまりに酷すぎてまだ報告されてないとか?」

リットリオは嫌な汗をかいていた。

やっぱりとんでもないことをしてしまったんじゃ・・・

「提督さんには勿論報告してるよ?」

リットリオ達が声の方を向くと、肩をすくめた鹿島が廊下からこちらを見ていた。

リットリオは鹿島に訊ねた。

「え、ええと、それで提督は何と・・」

「工廠長に頼んで復旧要員送るよ~って」

「へ?あ、いや、壊れた道路の方じゃなくて、私の処分については・・」

「特に何も言ってなかったよ?あ、研修頑張ってって」

風雲が激しく食いついた。

「まっ!待ってください!そんな重犯罪を犯してお咎めなしなんですか!?」

「うぐう」

風雲の言葉にリットリオはよろめいた。

やっぱり大変なことをしてしまったんだ・・・

だが、鹿島はあっけらかんと答えた。

「そんな事言ってたらこの町で生きていけないよ?相手だって50cal撃ってくるんだし」

「で、でも、艦娘が人間に砲を向けるなんて」

「まぁ今ならM93Rで対抗出来るだろうけど、あの時は銃の扱いに不慣れだったもんね」

「そういう問題なんですか?!」

「誰だって最初から全部上手く出来るわけないし、こなせるようになるのが研修だよ?」

「あ・・」

「失敗して、気づいて、反省して、工夫して、学んでいく。だから強くなれるんだよ?」

 

 

 


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