「はいお待ちどうさま、この組み合わせで良いのかい?」
「えっと・・はい、大丈夫です」
町内を一周した後、隣町に向かったリットリオは、風雲を連れて和菓子屋に入った。
物珍しそうに店内を見回す風雲を指さしながら、老婆はリットリオに尋ねた。
「ところでこっちの子は新人さんかい?」
「はい」
「そうかい。リッちゃんもようやく後輩が出来たねぇ」
「ええ、とっても可愛い後輩です」
その一言に風雲はびくっとした後、恥ずかしそうにリットリオを見返した。
老婆はその様子を見てニコニコすると、
「お名前は?」
「えっ!あっ!ゆ、夕雲型駆逐艦、三番艦の風雲です!」
「そうかい。リッちゃんは良い子だから何でも相談すると良いよ。頑張りな」
風雲は老婆を見返しつつ頷いた。
「はい!あ、えっと、お幾らでしょうか?」
「1380コインだよ」
老婆の返事を聞いて財布を取り出す風雲をリットリオが止めた。
「良いですよ、私払いますよ」
「とんでもないです。私のせいですから、私が払います。ご紹介頂けただけで充分です」
「そう?」
老婆は頷いた。事情を深くは知らないが、この子はちゃんとしてる。
上手くやっていけるだろう。
その頃、香取は龍田と通信していた。
「・・あらぁ、それは噂というより誹謗中傷ねぇ」
「龍田様の元には届いてませんか?」
「そうねぇ。毎日大規模な戦闘が絶えないといった、ちょっと誇張した噂程度は、ね」
「今度の着任遅延の主因とも言えますし、是正をお願いしたいのですが」
「ええ。でも、状況確認から入るから、終わったら改めて報告するね~」
「手段等はお任せいたしますので、お手数ですがよろしくお願いいたします」
「・・香取さん」
「はい」
「ごめんね?」
「い、いえ、龍田様に謝罪頂く事ではありません」
「私はこっちで教育関係にも携わってるから、香取さん達の気持ちは良く解るの」
「・・」
「新しい子が来ると知ったら、気持ち良く迎えてあげたいって思うものねぇ」
「・・はい」
「それをいきなり、悪魔に魂売られるだの言われたらガッカリしちゃうわよねぇ」
「・・龍田様」
「はぁい?」
「その・・ミッションはいつ始まるのでしょうか?」
「その件だけど、ちょっと相談に乗ってくれないかなぁ・・」
「どうかされたのですか?」
その頃。
「ヤダヤダ誘爆しちゃう!当たらないでぇ~!」
「頭を低くして!」
峠道を下っていたリットリオ達の車は、案の定山賊に襲撃されていた。
リットリオはハンドルを握りつつM93Rで反撃していた。
風雲は目をつぶって助手席の足元に蹲っていたが、恐る恐るリットリオを見上げた。
リットリオは僅かに山賊を引き離した時、風雲に向かって怒鳴った。
「風雲ちゃん!」
「はっはい!」
「私の左脇にマガジンが入ってるから、入れ替えて!」
「わっわわわ!」
リットリオが投げたM93Rを辛うじて拾った風雲。
しかし峠道の直線は短く、カーブは鋭かった。
すなわち、僅かな先に居るリットリオのマガジンホルスターに手が届かないのである。
「~~!!!」
自分がM93Rを握ってる以上、リットリオは山賊達に反撃出来ない。
従って逃げの一手となり、車の挙動は必然的に激しくなる。
風雲はやっとの事で空のマガジンを引き抜いたが、既に半べそをかいていた。
「風雲さん!」
「はっはい・・はいぃ」
「泣くのは後です!早く入れ替えてください!」
「・・うー」
ドガン!
「うあっ!・・・あー!」
リットリオのマガジンに手が届いた時、山賊のジープが体当たりをしてきた。
風雲が取り出したマガジンは車内で宙を飛び、後部座席へと飛んで行った。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
頭の上を弾丸らしき物がかすめていく。
「ひぇええぇえ!もうやだぁ!」
このままでは明らかに旗色が悪い。
起死回生にはM93Rに次のマガジンを装填しなければ。
しかし、マガジンは後部座席に・・・
こっ、こんなジグザグに走って、しかも撃ちまくられてる車内で後部座席まで取りに行くの?
風雲はぎゅっと目を瞑り、1度だけ深呼吸した。
どうせやられるなら、抗ってからだ!
「うわあぁああ!」
助手席の足元から這い上がった風雲は、助手席の背もたれに飛びつきながらロックレバーを解除した。
背もたれがバクンと倒れ込むと、後部座席の座面にマガジンが落ちていた。
「もぉおおおお!」
ガシャッ!
マガジンに飛びついた風雲はM93Rに叩き込んで振り向いた。
「リットリオさぁん!」
「貸して!」
リットリオはカーブの終わりで一瞬だけ風雲の方を振り向き、素早くM93Rを掴んだ。
だが、先にスライドロックが解除されたらしく、チャンバーに弾が入ってない。
カーブまで150m。ギリギリ行ける筈!
リットリオはぐっとアクセルを踏み込みながら言った。
「風雲さん!ハンドル持って!」
「はい!」
後部座席から助手席にスライディングしてきた風雲は、伏せたままハンドルの左下を掴んだ。
リットリオは一瞬でスライドを引き、並ぼうと加速してきた山賊のジープにM93Rを向けると、
「・・お疲れ様でした」
そう呟いてジープのフロントタイヤを撃ち抜くと、ブレーキを目一杯踏みつけた。
二人の車の横を、制御を失ったジープが追い抜いていった。
シュウウウウウ・・・・
リットリオは路肩の林に突き刺さり、煙を上げるジープの手前で車を止めていた。
少しの後、ジープが道に戻る様子を見せない事を確認したのち、再び車を発進させた。
「・・もう大丈夫ですよ、風雲さん」
先程とは異なる優しい口調に、呆然としていた風雲はハッとしたようにリットリオを見た。
「あ、あの」
「はい」
「さ、さっきの車は、何だったんでしょうか・・」
「山賊ですね」
「え、ええとその、ああいう事はよくあるのですか?」
「普通にありますよ」
「・・うー」
麓の信号を待ちながら、リットリオは言った。
「ところで風雲さんは、どのような理由で研修を志願されたのですか?」
「・・」