Deadline Delivers   作:銀匙

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第64話

 

 

「はいお待ちどうさま、この組み合わせで良いのかい?」

「えっと・・はい、大丈夫です」

町内を一周した後、隣町に向かったリットリオは、風雲を連れて和菓子屋に入った。

物珍しそうに店内を見回す風雲を指さしながら、老婆はリットリオに尋ねた。

「ところでこっちの子は新人さんかい?」

「はい」

「そうかい。リッちゃんもようやく後輩が出来たねぇ」

「ええ、とっても可愛い後輩です」

その一言に風雲はびくっとした後、恥ずかしそうにリットリオを見返した。

老婆はその様子を見てニコニコすると、

「お名前は?」

「えっ!あっ!ゆ、夕雲型駆逐艦、三番艦の風雲です!」

「そうかい。リッちゃんは良い子だから何でも相談すると良いよ。頑張りな」

風雲は老婆を見返しつつ頷いた。

「はい!あ、えっと、お幾らでしょうか?」

「1380コインだよ」

老婆の返事を聞いて財布を取り出す風雲をリットリオが止めた。

「良いですよ、私払いますよ」

「とんでもないです。私のせいですから、私が払います。ご紹介頂けただけで充分です」

「そう?」

老婆は頷いた。事情を深くは知らないが、この子はちゃんとしてる。

上手くやっていけるだろう。

 

その頃、香取は龍田と通信していた。

「・・あらぁ、それは噂というより誹謗中傷ねぇ」

「龍田様の元には届いてませんか?」

「そうねぇ。毎日大規模な戦闘が絶えないといった、ちょっと誇張した噂程度は、ね」

「今度の着任遅延の主因とも言えますし、是正をお願いしたいのですが」

「ええ。でも、状況確認から入るから、終わったら改めて報告するね~」

「手段等はお任せいたしますので、お手数ですがよろしくお願いいたします」

「・・香取さん」

「はい」

「ごめんね?」

「い、いえ、龍田様に謝罪頂く事ではありません」

「私はこっちで教育関係にも携わってるから、香取さん達の気持ちは良く解るの」

「・・」

「新しい子が来ると知ったら、気持ち良く迎えてあげたいって思うものねぇ」

「・・はい」

「それをいきなり、悪魔に魂売られるだの言われたらガッカリしちゃうわよねぇ」

「・・龍田様」

「はぁい?」

「その・・ミッションはいつ始まるのでしょうか?」

「その件だけど、ちょっと相談に乗ってくれないかなぁ・・」

「どうかされたのですか?」

 

その頃。

「ヤダヤダ誘爆しちゃう!当たらないでぇ~!」

「頭を低くして!」

峠道を下っていたリットリオ達の車は、案の定山賊に襲撃されていた。

リットリオはハンドルを握りつつM93Rで反撃していた。

風雲は目をつぶって助手席の足元に蹲っていたが、恐る恐るリットリオを見上げた。

リットリオは僅かに山賊を引き離した時、風雲に向かって怒鳴った。

「風雲ちゃん!」

「はっはい!」

「私の左脇にマガジンが入ってるから、入れ替えて!」

「わっわわわ!」

リットリオが投げたM93Rを辛うじて拾った風雲。

しかし峠道の直線は短く、カーブは鋭かった。

すなわち、僅かな先に居るリットリオのマガジンホルスターに手が届かないのである。

「~~!!!」

自分がM93Rを握ってる以上、リットリオは山賊達に反撃出来ない。

従って逃げの一手となり、車の挙動は必然的に激しくなる。

風雲はやっとの事で空のマガジンを引き抜いたが、既に半べそをかいていた。

「風雲さん!」

「はっはい・・はいぃ」

「泣くのは後です!早く入れ替えてください!」

「・・うー」

 

ドガン!

 

「うあっ!・・・あー!」

リットリオのマガジンに手が届いた時、山賊のジープが体当たりをしてきた。

風雲が取り出したマガジンは車内で宙を飛び、後部座席へと飛んで行った。

 

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 

頭の上を弾丸らしき物がかすめていく。

「ひぇええぇえ!もうやだぁ!」

このままでは明らかに旗色が悪い。

起死回生にはM93Rに次のマガジンを装填しなければ。

しかし、マガジンは後部座席に・・・

こっ、こんなジグザグに走って、しかも撃ちまくられてる車内で後部座席まで取りに行くの?

風雲はぎゅっと目を瞑り、1度だけ深呼吸した。

どうせやられるなら、抗ってからだ!

「うわあぁああ!」

助手席の足元から這い上がった風雲は、助手席の背もたれに飛びつきながらロックレバーを解除した。

背もたれがバクンと倒れ込むと、後部座席の座面にマガジンが落ちていた。

「もぉおおおお!」

 

ガシャッ!

 

マガジンに飛びついた風雲はM93Rに叩き込んで振り向いた。

「リットリオさぁん!」

「貸して!」

リットリオはカーブの終わりで一瞬だけ風雲の方を振り向き、素早くM93Rを掴んだ。

だが、先にスライドロックが解除されたらしく、チャンバーに弾が入ってない。

カーブまで150m。ギリギリ行ける筈!

リットリオはぐっとアクセルを踏み込みながら言った。

「風雲さん!ハンドル持って!」

「はい!」

後部座席から助手席にスライディングしてきた風雲は、伏せたままハンドルの左下を掴んだ。

リットリオは一瞬でスライドを引き、並ぼうと加速してきた山賊のジープにM93Rを向けると、

「・・お疲れ様でした」

そう呟いてジープのフロントタイヤを撃ち抜くと、ブレーキを目一杯踏みつけた。

二人の車の横を、制御を失ったジープが追い抜いていった。

 

シュウウウウウ・・・・

 

リットリオは路肩の林に突き刺さり、煙を上げるジープの手前で車を止めていた。

少しの後、ジープが道に戻る様子を見せない事を確認したのち、再び車を発進させた。

 

「・・もう大丈夫ですよ、風雲さん」

先程とは異なる優しい口調に、呆然としていた風雲はハッとしたようにリットリオを見た。

「あ、あの」

「はい」

「さ、さっきの車は、何だったんでしょうか・・」

「山賊ですね」

「え、ええとその、ああいう事はよくあるのですか?」

「普通にありますよ」

「・・うー」

麓の信号を待ちながら、リットリオは言った。

「ところで風雲さんは、どのような理由で研修を志願されたのですか?」

「・・」

 

 

 


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