Deadline Delivers   作:銀匙

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第61話

 

 

綺麗にラッピングされたバー状のケーキを凝視しながら、朧は口を開いた。

「・・時にリットリオ君」

「なんでしょう」

「これはどこから開けるのかね?」

「そこの、ちょろっと出てるセロハンの紐を下に引いてください」

「・・これかね?」

「はい。で、切れないようにゆっくり、ゆっくりです」

「・・・お、おお、おおおおおお」

「上手く行きましたね。じゃあ私も・・・あ、懐かしいです・・」

「さすがに上手いねリットリオ君」

「美味しくて沢山食べちゃったんで慣れてしまいました」

「・・・では、改めて」

「頂きます」

 

・・・パクッ。

 

「・・・んふー♪」

「美味しい・・懐かしい・・そう、そうです。このチーズの香りです」

「これは美味いねリットリオ君」

「イタリアを代表するお土産ですから」

「これは2本余ったら皆銃を抜くね」

「紛争必至です!」

「紛争回避!」

「紛争回避!」

 

「朧さん、ごちそうさまでした」

笑顔で紅茶を飲み干したリットリオを見て、朧はニッと笑った。

「そろそろ元気出たかね、リットリオ君」

「えっ」

「どうかね?」

「・・・朧さん」

リットリオは意味する所を察し、ぺこりと頭を下げた。

「ありがとう、ございます。初めての任務失敗だったので、がっかりしてました」

「・・・だよねー」

「でも、よく私が失敗したって解りましたね。それに、どうしてあそこにいらしたんですか?」

「・・んー」

「どう、したんですか?」

「やー、私は1週間閉じこもってたって言ったでしょ」

「はい」

「でもって、初めての任務失敗は3回目だったんだよねぇ」

「・・」

「だから他の失敗に紛れちゃって、あぁまたやっちゃったーって感じだったんだけど」

「・・そうですよね。最初の頃って毎日失敗ばかりですもんね」

「大木なぎ倒したりね」

「そっ、それは私しかやってないじゃないですかぁ!」

「あははっ。ただね、リットリオ君」

「はい」

「私がその3回目の任務で仰せつかったのはだね」

「はい」

「・・先程リットリオ君が出てきたお家の依頼だったのだよ」

「・・・えっ?」

「そして私の先輩も、実はあの家で失敗したと聞かされたのだよ」

「・・・」

「意味する所は解るかね?」

「・・く、クレーマー・・ですか?」

「かもしれない。でも・・んー、これを私が言っちゃうとダメだよね」

「え?」

「リットリオ君」

「はい」

「家から出てきた時、どう思ったかね?」

「私の確認ミスもそうですけど、そもそもの注文がアバウト過ぎるって思って、ちょっぴり腹が立ちました」

「それに初めて気づいたのはあの家に着いた時だったかね?」

「多分・・ええと・・」

 

リットリオは少し腕を組んで考えていたが、

 

「あ、お店の売り場で困った時に思いました」

「お店で困ったのかね?」

「はい。どれを買おうかって」

「困って、どうしたのかね」

「赤色が沢山あって、どれにしようかって迷って、一番赤だと思う色を買いました」

「誰がそう判断したのかね?」

「・・・私、ですけど」

「誰の買い物だったのかね?」

「お客様・・です」

「もう1度聞くぞよ。誰がそう判断したのかね?」

リットリオは一瞬怪訝な表情をしたが、

「・・・あっ!」

「思った事を言ってみるが良いぞよ」

「そう、か。私が決めちゃいけなかったんですね・・お客様にその時聞けば良かったんだ・・」

「うむ。その通りなのだよリットリオ君」

リットリオはがくりと肩を下げた。

「そう、ですね。あの時お客様に色の名前なり商品番号なりを確認していれば、失敗しなくて済んだんですね」

「うむ」

リットリオは朧を見た。

「どうして・・教えてくださったんですか?」

「何をだね?」

「失敗した理由を、です」

「それはだね、伝統なのだよ」

「伝統?」

「さっき、私が失敗したのも、先輩が失敗したのもあの家だと言ったのを覚えているかね?」

「はい・・・あっ!」

「そういう事。私は失敗した後、怒りまくって電柱をガンガン蹴ってる所に先輩が来たのだよ」

「電柱・・」

「そしてクレープを2つも奢ってくれた後、大体同じ問答をしたのだよ」

「・・・なるほど、だから、伝統」

「そう。きっと香取さんや鹿島さんは自分で気づいて欲しいって思って任務を課してる」

「・・」

「けど、怒ってる時に自分の悪い所に気づくって死ぬほど大変。でも周りからは見えてるのだよ」

「・・あう」

「それはリッちゃんだけじゃなく、私も、先輩もそう」

「・・」

「だからリッちゃんも、次に来る子にこうやって教えてあげて欲しいのだよ」

「・・伝統、ですものね」

「そういう事。ちなみに私は教えてもらった次の時はちゃんと成功させたのだよ」

「そう、ですね。失敗したままでは悔しいです」

「期待しているよリットリオ君」

「ありがとうございます!・・・ところで朧さん」

「なにかね?」

「なんでそんな口調なんですか?」

朧は胸を張った。

「学校の先生っぽかろう?」

リットリオはくすくす笑い出した。

 

ちなみに、2人は仲良く帰ったのだが、その夜、

 

「どうして朧さんがこの包みの開け方をご存知なんでしょうねぇ・・ねぇ?」

 

と、全てお見通しだという凶悪な笑みをたたえた香取達に睨まれ、2人は震え上がった。

しかし、二人で夕食の食器洗い1回というバツ当番を、2人はにこにこしながらこなしたという。

 

 

 


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