Deadline Delivers   作:銀匙

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第59話

 

 

リットリオは溜息混じりに返した。

「完全に濡れ衣・・という訳でもないですけど・・」

信号が青になったので、ファッゾは車を発進させた。

「まぁ噂ってのはさ、大抵は嘘100%だ」

「・・」

「ただまぁ、時としてちょっとだけ本当の事が混じってるから、一応気にするってのもあるが」

「・・」

「そもそも、こういう小さな町だと話のネタなんてすぐ尽きて、皆話題に飢えてるんだ」

「・・」

「だから君の事もあっという間に伝わって、尾ひれがついたんだろうよ」

「・・・あの」

「ああ」

「お名前、伺っても良いですか?」

「ああすまん。俺はファッゾ。ブラウン・ファッゾだ」

「ファッゾさん・・あれ?」

「ん?」

「ブラウン・ダイヤモンド・リミテッドのファッゾさんですか?」

「よく知ってるな」

「当然です!町で一番頼りになる、お手本にすべき良識人だって伺ってます!」

「それこそ噂だ。俺は普通のDeadlineDeliversだし、なんでも屋にすぎないよ」

「でも、噂には本当の事が混じってるんですよね?」

ファッゾはちらとリットリオを見たが、真剣に見返されたので肩をすくめた。

「混じってる事もある、だ。そうかどうかは自分の目で判断した方が良い」

「本当だと、思います」

「この町の人間を簡単に信じると痛い目を見る事もあるぞ」

「気をつけます」

「・・・ほら、もうすぐライネスの店だ」

リットリオは腕時計を見た。

「そうですね。時間にも間に合います。良かった」

「・・・」

 

・・・キッ。

 

ライネスの店先でBMWを停めたファッゾは、シートベルトを外すリットリオに声をかけた。

「・・君の噂は、どうやら嘘っぱちのようだな」

「・・でも私は、山賊さんの車を砲撃し、木を倒してしまいました」

「誰か犠牲になったのか?」

「いいえ。目撃していた鹿島さんの話では、山賊さんは皆逃げたと」

「なら別に、もう気にしなくて良いさ」

「・・そうでしょうか?」

「本人が深刻そうな顔をしているほど、周囲の噂も大袈裟になる。そういうもんだ。普通にしてれば良い」

「実はお買い物の依頼が来ても、私以外でって注文されてしまっていて」

「ライネスは違ったんだろう?」

「はい」

「・・そうだな。じゃあ私も君達に頼む時は、君を指名するようにするよ」

「えっ?」

「君じゃ困るという人、君でも良いと言うライネス、君で頼む俺、これでバランスが取れるだろ?」

「・・信じて、くださるんですか?」

「人を見る目には自信があるつもりだ」

「・・・」

じっと見返すリットリオに、ファッゾはぷいと外を向いて言った。

「・・ライネスがお待ちかねじゃないのか?」

リットリオがぎゅっと目を瞑ると、ぽたぽたと涙がシートにこぼれた。

 

「・・うん、品物に問題も無い。大丈夫だよ」

「そうですか・・良かったです」

「コーヒーでも飲んでいくか?」

「いいえ・・大丈夫です」

「顔が赤いが、無理して買ってきたんじゃないか?」

「いいえ・・大丈夫です」

「そ、そうか。じゃあ気をつけて帰りなさい」

「ありがとう・・ございました・・」

 

カロン♪

 

ドアベルの音に気づいたクーが2階から降りてきた。

「おっちゃ・・ライネスさん、お客さん?手伝う?」

「ああいや、買い物屋のリットリオさんだったんだが」

「・・主砲でも向けられたの?機動隊呼ぶ?」

「いや、頼んだものをちゃんと買ってきてくれたんだが、なんだかぽーっとしてたんで気になってな」

「ぽーっと?」

「変な喩えだが・・恋する少女のような目だったなぁ」

クーの目がギラリと輝いた。

 

 

「頂きます」

香取の声を合図に、食卓を囲む鹿島達は一斉に箸を取った。

だが、リットリオは食卓の雰囲気が妙な事に気がついていた。

準備の時から、香取達が何か聞きたそうな目でこちらを見ていたからである。

ちらちらと皆を見渡した後、リットリオはそっと箸を置いた。

「あ、あの、車の故障でご迷惑をおかけしてしまいました。すみません」

朧がひらひらと手を振った。

「あー、それは前も言ったけど皆やってるし・・ていうか聞きたい事はそれじゃなくて」

「?」

頭の上に大きなクエスチョンマークをこしらえたリットリオをじっと見ながら、朝潮が訊ねた。

「リットリオさん」

「は、はい」

「ライネスさんにホの字って本当ですか?」

「は?」

リットリオの態度を見て、鹿島ががっかりしたように肩をすくめた。

「だよねぇ。一目惚れにしちゃ何度も会ってるし遅過ぎると思ったんだよねぇ」

朧がにやりと笑った。

「でも町中の噂だよ?リッちゃんがライネスさんに惚れた~って」

リットリオが首を傾げた。

「どうしてそんな噂が・・」

「心当たり無いの?」

「うーん・・今日は確かに買った物をお届けしましたけど・・」

リットリオはライネスとあった時の事を思い出そうとしたが、全然覚えてない事に気がついた。

「あれ?」

「どったの?」

「そういえば・・覚えてないです」

「なんで?」

「えっ?」

「別に難しくも無かったでしょ・・あ、時間無くて走って行ったとか?」

「いえ・・」

言いかけて、リットリオはふと口をつぐんだ。

そ、そうだ。

ライネスさんにお届けする前にファッゾさんから励ましてもらったんでした。

それが凄く嬉しくて、泣きたいくらい嬉しくて、いいえ、泣いてしまったんでした。

だから・・

「・・・ちゃん、リッちゃん?おーい」

ハッと我に返ったリットリオの目の前に、目を輝かせる鹿島、朧、そして朝潮が居た。

「ふええっ!?」

「さ、リッちゃん。今思い当たった事をどーんと喋ってみよう!」

「え、あ、な、何の事でしょうか」

「リッちゃんは嘘が苦手なタイプだよねぇ」

「ひっ」

「大丈夫!大丈夫です!さぁ!」

「朝潮さん、キャラ変わってます」

「誤魔化してもダメです!さぁ!」

「~~~~~!!!」

 

 

 


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