Deadline Delivers   作:銀匙

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第53話

 

宴も終盤になった頃、リットリオはそっと利根の隣に座った。

「あの、利根さん、お聞きしたい事があるのですが」

「うむ。リットリオ殿、何でも聞くが良いぞ!」

「そ、その、ここで生き残るには何が大事でしょうか?」

利根は冗談かと思ったが、リットリオの真剣な目を見て頷いた。

「・・そうじゃな。最優先すべきは仲間を信じる事だ!」

「はい」

「次はの、逃げる時は余計な事を考えずにまっしぐらに、一心不乱に逃げきる事じゃ!」

「へっ?」

「車の中に買った物が残っておるとか、財布を置き忘れたとか、そういう事を考えてはいかん!」

「・・・なるほど」

「とにかく逃げる時は逃げる!命あってのモノダネじゃ!あとは何とかなるからの!」

「利根さんはどれくらい、そういう命の危機にあいましたか?」

利根は小首を傾げたが、やがて首を振った。

「我輩は香取達と立ち上げから携わった事もあって何年も居たからの。もはや数え切れんな!」

「・・・そう、ですか」

「だが我々がこの訓練を始めた頃に比べれば狙われる事も随分と減ったぞ」

「そうなんですか?」

「うむ。我々を襲っても返り討ちにあうだけだと悟った山賊や強盗団は手を出してこんからな!」

「じゃ、じゃあ、買い物の途中で銃撃にあう事も、実は最近だとあまりないとか」

「いや!3回に1回はあるな!」

当てが外れてがっくりと肩を落とすリットリオに、笑いながら利根は続けた。

「おぬしはまだ顔を知られてないからしばらく一人で歩くでないぞ。間違われるからの!」

「・・間違われる?」

「うむ。観光で迷い込んできた旅行者と間違われれば100%襲われるからの!」

「ええと、さっき鹿島さんと歩いてた時、ガラの悪そうな人があちこちで地面に座ってたんですが・・・・」

「そやつらもそうじゃし、山賊も居る。山賊の方が重武装でしつこいがの!」

リットリオは軽くめまいがしたので額に手を当てた。

2ヵ月も居て、本当に帰れるのだろうか。

利根が鹿島の方を向いた。

「鹿島よ、今日は座学と散歩か?」

「いいえ。銃選びと運転練習も始めました!」

利根がリットリオに向き直り、にこりと笑った。

「ほう。やる気満々じゃのう。良い事じゃぞ」

「・・他の方はどうだったのですか?」

利根はささっと視線を逸らす朧を指差した。

「こやつは来てから1週間は部屋に閉じこもりっきりじゃったな!」

朧は真っ赤になって利根に食ってかかった。

「ばっバラさないでくださいよー!」

「こんな地の果てのゴミ溜めみたいな町に出たくなぁいとか抜かしおっての!」

鹿島が頷いた。

「食堂に流れ弾が飛んできた時は柱にしがみついてわんわん泣いてたよね」

リットリオが恐る恐る訊ねた。

「そ、その場合でも・・お買い物は行くのでしょうか?」

朧が首を振った。

「ううん。アタシは本当に最初の1週間は怖くて部屋から出られなかったし、無理に行けとも言われなかった」

「そうなんですか」

「でも、今から思えばあの1週間があれば色々出来たのにって後悔してるんだ~」

「えっ?」

「私も車運転出来なかったし、リッちゃんみたいに初日から練習してれば良かったなぁって」

「・・・」

「本当に毎日があっという間だよ。で、やればやるほど楽しいんだよ」

香取がころころと笑った。

「あらあら、まぁまぁ、朧さんはこの1ヶ月で本当に成長なさいましたねぇ」

鹿島が頷いた。

「もう何の買い物任せても安心だし、頼りにしてるよっ」

てへへと照れ笑いをする朧を見て、リットリオはにこりと笑った。

不安は一杯あるけれど、朧や皆の言葉を信じてみよう、と。

 

 

翌日。

 

「・・はい、はい。承知致しました」

受話器を置いた香取は廊下で声を上げた。

「リットリオさーん、朝潮さーん、買い物の依頼ですよー」

 

キュキュキュ・・ドルン!ドルドルドル・・・

リットリオは手が真っ白になるくらいハンドルを握り締めていた。

昨日とは違う車のキーを手渡され、行ってみるとフルサイズのアメ車。

穴の開き具合は似たような物だったが、とにかくボディが大きい。

乗ってみると車の四隅が気が遠くなるほど遠く、しかも角が丸いからどこか解らない!

き、きき昨日駐車場でちょっと走らせただけでいきなり路上?しかもこんな車で!?

だ、だだ、大丈夫なんでしょうか・・

助手席に滑り込んだ朝潮は買い物メモを見ながらシートベルトを締めた。

「今日はよろしくお願いいたします。早速ですが昨日鹿島さんから買い物の事は何か聞いてますか?」

「ぜ、ぜぜ、全然」

朝潮はM93Rのスライドを引き、チャンバーに初弾を送り込むと頷いた。

「なるほど。まだ初日ですから大丈夫です。少しずつ覚えていきましょう。とりあえず左に出ましょうか」

「はっはい!」

ブ、ブレーキを踏んでシフトレバーをD、ウインカーを下げて・・・よし!

リットリオはキッと車庫の出口を睨みつけた。

「い、いっ、行きますっ!」

 

 

「オーライオーライ・・・オッケーだよばりっちー」

「はーい。じゃあ1台手配するわね。今預かってる1台はなるべく早く返すわね」

香取はビットに向かって頭を下げた。

「よろしくお願いいたします」

一方、その頃。

「ごめんなさいごめんなさい、本当にごめんなさい」

「見事に刺さりましたね。まぁ正面の家は空き家ですから」

そう。

初運転に緊張して力みまくったリットリオはアクセルを底まで踏みつけた。

さすがの朝潮でも全力で突進する車を制御出来るものではなく、真正面の家の塀に激突した。

連絡を受けてレッカー車でやってきたビットとアイウィは一目見るなり廃車だと言い切った。

「ねぇねぇ、リッちゃん怪我してない?大丈夫?」

「!!!!!」

朝潮に頭を下げていたリットリオは、鹿島の声を聞いて文字通り飛び上がった。

そしてそのまま見事なスライディング土下座に移行した後、

「お、おおおおおおおお許しを!どうか!どうかお許しください!ごめんなさい!」

と、ぶるぶる震えたのである。

 

 

 


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