Deadline Delivers   作:銀匙

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第51話

リットリオは鹿島のVz61を眺めた後、

「なんか、あれに似てますね」

そう言って、テーブルに置かれていたAK-47を指差した。

鹿島はにっこりと笑った。

「どっちも旧東側の武器だから似てるのかもね!弾も含めてミニチュアって感じ」

「あの、試しに撃たせて頂いても良いですか?」

「いいよー」

リットリオは手渡されたVz61をテーブルに置くと、しっかりとイヤーマフをかけ直した。

 

 ドパララララララッ!

 

「・・・・・・」

リットリオは煙の立つVz61にそっとセーフティをかけ、信じられないという表情でマガジンを引き抜いた。

果たしてそこには1発の弾も残っていなかった。

一方で的を見ると弾があちこちに散らばっている。

これでは集弾性もへったくれもないではないか。

イヤーマフを外したリットリオは恐る恐る鹿島に振り向いた。

「あ、あの、ちょっと引き金に指をかけたら全弾撃ち尽くしてしまいました」

「分速800発だから30発撃つのに2秒ちょっとかな。少し遅くしてるから実際は3秒くらいだよ」

「あ、あの、1回撃つ毎にマガジン替えるんですか?」

鹿島は笑ってひらひらと手を振った。

「そんな訳ないよ~、そんな事してたら死んじゃうもん」

「で、でも・・」

「セレクター動かせば単発でも撃てるけど…ちょっと貸して」

そういうと鹿島はイヤーマフを着けながら、リットリオが立っていた射撃台に向かった。

 

タン!タタン!タタタッ!タタタタッ!タタタタタッ!

 

鹿島はきっちりと単射から5発バーストまで2回繰り返すと、イヤーマフを取った。

「ね?これで30発。何発でも止められるし、結構柔軟に発射数の配分が出来るんだよ?」

的の中央に集まった弾痕を見ながらリットリオは恐る恐る答えた。

「な、なるほど・・そうみたいですね・・・」

「リッちゃんもこれにする?」

リットリオは首を振った。

「私には無理なので、M93Rで良いです」

「そぅ?これをホルスターから抜くだけで山賊さん達は一目散に逃げてくから楽だよ?」

「・・でしょうね・・」

リットリオは何度も頷いた。

恐ろしく物騒なマシンピストルと、それを笑顔で意のままに扱う艦娘。

そんな組み合わせに喧嘩を売るような馬鹿は長生き出来ないだろう。

一瞬、鹿島と遭遇した山賊達が哀れに思えたリットリオであった。

「じゃ、M93Rの使い方をおさらいして、弾をどれにするかも決めよっか!」

 

「あら、お帰りなさい。丁度良いところに」

家に戻った二人は廊下で香取に呼び止められた。

鹿島はにこりと微笑んだ。

「香取姉ぇ、ただいまっ。何か用事?」

「たった今、夕島整備工場のアイウィさんから電話があって、車の修理が終わったと」

「じゃあ町の案内兼ねて二人で取りに行ってくるね!リッちゃん行こっ!」

「あ、あの、私、車の運転はした事が無くて・・」

「だーいじょうぶ大丈夫!行ってきまーす!」

 

「ふんふ~ん♪あ、もうタンポポ咲いてる!今年は暖かいもんね~」

「・・・・」

楽しげに歩く鹿島の隣でリットリオはガチガチに緊張していた。

武器を携行し、ツーマンセルで歩かないといつ襲われるか解らないと説明されたばかりであり、無理も無い。

鹿島は通りの店を指差しながらリットリオに振り向いた。

「ねぇねぇリッちゃん!クレープ好き?」

リットリオは店と通りを挟んだ側にたむろするガラの悪そうな面々から、そっと目を離した。

「あ、はい。こちらに来る前に間宮さんの所で試食させて頂きました。美味しいですよね」

「じゃあその店で売ってるから食べながら行こうよ!おごってあげる!」

「え、あ・・良いんですか?」

鹿島がくすっと笑い、悪戯っぽく声を潜めた。

「香取姉ぇ見てないし、大丈夫」

リットリオはきょとんとした後、にこりと笑って頷いた。

 

鹿島は両手にクレープの包みを1つずつ持ち、ずずいとリットリオに差し出した。

「はーい。ベリーソースのチーズケーキと、キャラメルアーモンドバニラどっちが良い?」

「うえっ!そ、そんな・・そんな選びがたき2つのどちらかを取れというのですか?」

「選ばないと私が両方食べちゃうよ~?」

「うー・・キャッ!キャラメルで!」

「あはは。じゃあこっち。途中で一口あげる」

「ありがとうございます!」

そう言って鹿島からリットリオはクレープを受け取ろうと、した。

だが、その時既にリットリオは後ろに突き飛ばされていた。

そしてリットリオの居た場所で宙を舞っていたクレープが四散したのである。

「いっ・・いったぁ・・な、何が起きたのですか?」

リットリオは尻餅をつき、地面に落ちたクレープの欠片を見て呆然としていたが、ふと見ると鹿島が居ない。

「?」

慌てて見回すと、通りの反対側に鹿島は居た。

 

「お前・・一体どういうつもりだよ・・」

「すいません!狙うつもりはこれっぽっちもなかったんす!」

「知らねぇよこのボケナスが・・」

「か、勘弁してくだせぇ鹿島の姉御!」

 

そう。

 

鹿島はVz61を握りしめ、

額に幾つもの青筋を浮かべ、

震えながら土下座するチンピラ達を見下ろしていたのである。

 

チンピラ達の釈明によると、銃の安全装置をかけていれば落としても暴発しないかどうかでモメたという。

だから(実弾が入ったまま)実際にやってケリをつけることになった。

そして案の定暴発し、二人に向けて弾が飛んで行った、という訳である。

 

鹿島はゴリゴリとVz61の銃口をチンピラの頭に押し付けながら続けた。

「私の大事な後輩の服が汚れたんだけどなー」

「ク、クリーニング代は今すぐきっちりお支払いしやす!」

「木っ端にしてくれやがったクレープ代も弁償しやがるんですよねぇ?」

「お好きなものをどうぞ!」

鹿島がフンと息を吐いて立ち上がり、矛を収めようとしたその時。

 

「なんでこんな小娘一人に土下座してんだ?お前ぇら?」

 

リットリオは今やってきた巨漢のチンピラに思わず手を合わせた。

戦艦リットリオ、ご冥福をお祈りします。

 

ヒュウウウウ・・・・

 

車道の真ん中で距離を置き、鹿島と向き合う巨漢。

「勝ったら何でも好きな事させてもらうぜぇ?後で泣き叫んでも知らねぇぞぉ?」

「あーはいはい、さっさと抜きなさいよ」

 

リットリオはカタカタと震えていた。

傍目には鹿島は面倒臭そうに突っ立ってるようにも見える。

だが、放たれる殺気が洒落になってない。

棲姫クラスが裸足で逃げだすレベルである。

 

・・・ヒュッ!

 

確かに巨漢がホルスターからリボルバーを抜く速度は早かった。

だが、その銃を構える前に、

 

「グゲハッ!」

 

巨漢の鼻に鹿島の蹴りが、その細いピンヒールを経由してめり込んでいた。

反動で道端へと転がりゆく巨漢を更に数発蹴り飛ばすと、巨漢は痙攣したまま泡を吹いていた。

鹿島はスタリと着地すると正座したまま成り行きを見ていたチンピラ達にジト目で視線を投げかけた。

「あーすっきりした。運動したからお腹空いたなぁ・・」

チンピラ達は再び土下座した。

「幾つでもどうぞ!」

「皆にお土産も欲しいなぁ」

「お好きなだけどうぞ!」

「あぁ、あの子の服のクリーニング代3万ね?」

「えっ?」

「・・・なに?」

「何でもありません!」

リットリオは小さく頷いた。

強盗どころか大半の深海棲艦より怒った鹿島の方が怖い。絶対逆らってはいけない。

 

 

 


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