Deadline Delivers   作:銀匙

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第23話

ファッゾは両手を顎の下で組み、柿岩を見ながら答えた。

「まず始めに、俺達は運び屋稼業であって客を選ぶつもりはない。まして敵味方なんて無い」

柿岩は黙ったままファッゾの目を見ているので、ファッゾは続けた。

「俺はその昔、司令官をクビになったが、その理由は深海棲艦への攻撃の意味に疑問を感じたからだ」

「・・・」

「ミストレルも脱走艦娘だが、その理由は明らかに戦意の無い深海棲艦への攻撃が出来なくなったからだ」

「・・・ファッゾさん」

「ん?」

「あなたはどうして疑問に思ったのですか?」

「俺の鎮守府で、ある晩、哨戒部隊から連絡が入った」

「・・」

「武器を持たない深海棲艦が白旗を振ってるが、攻撃を開始して良いかと、な」

「・・」

「大本営はいかなるモーションもブラフであり、躊躇わず攻撃しろと俺達に教えてた」

「・・」

「だが俺は人間同士の戦いでは降伏した敵兵は救助するのがルールだから、深海棲艦だって同じだと思っていた」

「・・」

「その時、たまたま鎮守府には精鋭が全員揃っていた」

「・・」

「だから全艦を召集し、おかしな事をしたら反撃して良いと命じた上で、深海棲艦を連れておいでと言ったんだ」

「・・」

「司令室に入ってきた深海棲艦は、最初は震えて何も話してくれなかった」

「・・」

「だが、赤城がどら焼きとお茶を渡した所、美味しそうに平らげた後、にこっと笑ったんだよ」

「・・」

「だから俺は、この子は大丈夫だと思った」

「・・」

「そしてお互い身振り手振りと片言の単語でやり取りをした」

「・・」

「すると、当時攻略対象になっていた海域には深海棲艦の大病院があるという」

「・・」

「沢山の患者は居るが戦意は無い。彼女はそう言ってるように見えた」

「・・」

「俺は大本営に報告する事は出来なかった。明らかな命令違反の上で知った情報だからな」

「・・」

「だが同時に、俺は大本営の進撃命令を飲めなくなった。その子が嘘を言ってるようには見えなかったからだ」

「・・」

「出撃期限が来て、他所の鎮守府が代わりに攻撃したと聞き、俺は大本営から調査隊が来ると察した」

「・・」

「だから俺はその子に補給したうえで送り出した。調査隊が来る前にな」

「・・」

「案の定、その後調査隊が来て命令違反を指摘され、俺はクビ、鎮守府は取り潰された」

「・・」

「だが、今もあの時の判断は間違ってなかったと思う」

「・・」

「どこかで会ったら必ず礼をすると書き残したくらい、優しい子だったからな」

「・・そう」

 

柿岩は2~3秒俯いて沈黙した後、

 

「申し訳ありませんでしたっ!」

 

と、いきなり土下座したのである。

 

 

ミストレルもファッゾもベレーも、ナタリアでさえも。

この展開は全く予想外で、ぽかんと呆気に取られてしまった。

「え・・あの・・」

ファッゾが辛うじて声を出すと、柿岩は土下座したまま続けた。

 

「そのお話!私の姉君が何度も聞かせてくれた話でございます!」

「そ・・そっか・・」

「姉君は常々、司令官にも鬼や悪魔ばかりではない、仏のような人も居ると繰り返し申しておりました!」

「・・」

「地上組が人間や艦娘を避けて暮らすのは、万が一にも恩人に刃を向けてはならないとの考えからでございます」

「・・」

「ファッゾ様は私の姉君の命の恩人!先程は誠に無礼な振る舞いをしてしまいました!」

「いや・・別に・・」

「なにとぞ!平に!平にご容赦をぉぉぉ!」

「別にそんな気にしてないから、良いから頭を上げてくれ・・」

 

ベレーはふと気がついた。

つまりファッゾが救助してなかったら、地上組は地上から海軍を攻撃していたかもしれない。

地上組が穏健派の道を選んだのは、ファッゾが柿岩の姉の話を聞き、丁寧に対応したからなのだと。

ベレーは微笑んだ。

そんな凄い人のもとで働けるのは、嬉しい。

 

 

「うぅ、お優しい方です。ありがとうございます」

ようやく柿岩は椅子に腰掛けたが泣き止まない様子だったので、ファッゾはナタリアに訊ねた。

「やっぱり深海棲艦にとっては、艦娘や人間って憎むべき敵なのかい?」

ナタリアは肩をすくめた。

「人類全体とか、艦娘全部とかに恨みを持ってる子は少ないけど、特定の復讐対象が居る子は多いわよ」

「戦って大怪我させられた相手とか?」

「んー、わざと自分を沈めた司令官とか、僚艦よ」

ファッゾの眉がピクリと上がる。

「・・そんな鬼畜が居るのか?」

「でなきゃこんなに長い間海戦が続くはずないでしょ」

「真の敵は海軍内にあり、だな」

柿岩が鼻を啜りながら口を開いた。

「今日はとても良い情報を手に入れられました。姉君の前で報告出来ます」

ミストレルはそっと訊ねた。

「え、ええとさ、それって、姉貴は死んじまったのか?」

柿岩はきょとんとした顔になった。

「はい?ピンピンしてますよ?」

「紛らわしい言い方すんな」

「そんな事仰られても」

「んでさ、前にもファッゾから聞いたんだけど、姉貴は礼をするって約束したんだろ?」

「え?あ、はい」

ミストレルはニヤリと笑った。

「で、どんな礼をしてくれるんだ?」

ファッゾが眉をしかめた。

「おいミストレル、止めろ。普通に補給したくらいで大した事なんてしてないんだ」

柿岩はファッゾに尋ねた。

「姉君が望んだ時、またこちらに伺ってもよろしいでしょうか?」

「別に来てくれて構わないよ。もう司令官でもないし、かしこまる事なんて何もないさ」

ナタリアは皆に気づかれないよう、小さく溜息をついた。

スマホを離した手がじとりと汗ばんでいる。

柿岩の正体は港湾棲鬼であり、力任せにねじ伏せるには少し骨の折れる相手なのだ。

ミストレルとベレーでは太刀打ち出来ないと踏んだのでついてきたが、変な方向に行かなくてよかった。

 

 

 


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