Deadline Delivers   作:銀匙

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第47話

それから30分後。

 

ファッゾは指定された駐車場にBMWを停めると、怪訝な顔で老婆に訊ねた。

「・・ええと、何でも屋の依頼と聞いたが、あんたが依頼人か?」

「電話したのは私だけど本当の依頼人は向こうでお待ちだよ。まぁ来ておくれな」

 

座敷に通されたファッゾは、中に居るテッド達を見て肩をすくめた。

「おいおい、一体なんだテッド、こんな手の込んだ呼び方して。びっくりしたじゃないか」

「悪ぃ。そうしなきゃならない状態なんだよ」

二人の表情から悪戯ではないと理解したファッゾはサングラスを外した。

「どうしたんだ?」

 

 

「・・・んー」

一通り話を聞いたファッゾは手元の手帳にあれこれ図を書き込んでいたが、

「で、お前達は神通が海軍に漏らす筈がないと思うんだな?」

テッドが頷いた。

「理由がねぇよ」

武蔵が首を振った。

「そもそも、我々は海軍から身を隠す為に全員除籍扱いにしてもらったのだ」

「わざわざ会う必要が無い、か」

「あぁ」

「なぁ、他に誰も居ないか?」

テッドも武蔵も肩をすくめた。

「最初のシーンで俺の事務所に居たのはソロル側の面々を除けば本当に俺と神武海運の面々だけだ」

武蔵が続けた。

「最初だけに限れば表通りには群衆が居たが、あの位置では中の話は聞こえないだろう」

「2回目は文字通り俺と神武海運の面々だけだ」

ファッゾはペンの尾でカリカリと頭をかくと言った。

「そもそも依頼を受けたきっかけとしては何の話が漏れてたんだ?」

テッドは首を傾げた。

「龍田が漏洩テスト用に用意した情報が聞こえてきたとは聞いたが、具体的な中身は聞いてねぇな」

「その内容と誰に伝えたか確認出来ないか?」

「・・・よし。店の電話から龍田に聞いてみる」

テッドはふすまを開けた。

 

「という事で良いかしら~」

「すまん龍田。ありがとう」

「いいえ~」

 

通話を終えたテッドは老婆に茶の追加を頼むと座敷にとって返した。

 

「ファッゾ、武蔵、解ったぜ」

「まず、誰向けだ?」

「それがよ、アイウィとビットなんだとさ」

「・・どうやって龍田はあの二人に噂話なぞ伝えたのだ?」

「俺も聞いたけどはぐらかしやがった。くそ、俺が知らないタイミングでも町に来てやがりそうだなぁ・・」

「それはともかく、内容は?」

「妖精向けの温泉がオープンして、開店記念やってるって話。もちろん嘘っぱちだそうだが」

ファッゾがぴくりと顔を上げた。

「武蔵」

「ん?」

「お前さん、今は妖精乗ってないな?」

「ん?あ、あぁ。それがどうかしたか?」

「最初、あるいは2回目、艤装に妖精が乗ってなかったか?」

武蔵はすぐに頷いた。

「あぁ。1回目は帰港直後で戦闘の可能性もあったから妖精は全員乗ったままだったし・・」

テッドはファッゾを見た。

「お、おいファッゾ。まさか漏洩ルートって・・・」

ファッゾは頷いた。

「可能性だ。2回目はどうだ武蔵?」

武蔵はしばらく考えていたが、

「あの日は神通は香取達と早朝演習を終えた直後だったから、乗っていた可能性がある」

「他は?」

「・・・ないな」

ファッゾが頷いた。

「神通だけが疑われるという部分もこれで説明がつくな」

テッドが首を傾げた。

「けどよう、ビットの所にしろ、神武海運の所にしろ、妖精達はどうやって海軍に伝えてるんだ?」

ファッゾは肩をすくめた。

「まずは検証が要るだろ。妖精が気にしそうな噂を1つでっち上げよう」

「どうやって妖精だけに伝えるんだ?」

「武蔵から妖精に聞かせるとして、何か案はないか?」

「艤装の整備後テストとして洋上航海を短時間行えば良い。それなら単独で出られるしコストも僅かだ」

ファッゾが頷いた。

「よし。じゃあネタを何にするかな」

 

翌日。

 

「神通、邪魔するぞ」

「何でしょう?」

「艤装の缶を整備したんだが、少し洋上で確認したくてな。20分ほど近海に出ても良いか?」

神通は帳簿をパラパラとめくって頷いた。

「ええ、それくらいでしたら備蓄燃料で行けますから大丈夫ですよ」

「ありがとう。テストが済んだらすぐに戻る」

「缶は重要部品ですから急がなくて良いですよ。しっかり確認してきてくださいね」

「すまん」

一瞬、武蔵がじっと見ていたので神通は首を傾げた。

「どうかしましたか?」

「・・いや、何でもない。神通も艤装は手を入れてるかと思ってな」

神通は苦笑した。

「私は前科ありですからね。でも大丈夫です。最近はちゃんとやってますよ」

「そうか。ならば良い。では行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

・・パタン。

 

武蔵が閉めたドアを一瞬見つめた神通は、再び手元の書類作業に戻った。

 

 

「右前進微速の後、両舷前進原速黒15。缶の圧力と温度を記録!」

「了解!」

武蔵はちらりと艤装の上で動き回る妖精達を見た。

鎮守府を飛び出す前からずっと行動を共にしてきた者達であり、ある意味神通達より深い付き合いだ。

そう、思っていた。当然のように信じてきた。

本当に、そうなのだろうか・・・

 

「全体検証結果、微速から全速まで問題ありません!」

「よし!検証を終わる!」

「はい!」

ピシリと敬礼する妖精達に武蔵は微笑んだ。

「ところで・・たまには甘味でも一緒にどうだ?」

妖精達は破顔一笑した。

 

「・・だそうだぞ。噂だがな」

武蔵の話を聞いていた妖精達は口々に答えた。

「そうなんですかー!」

「楽しみー!」

「でもこの間の話は完全なデマだったじゃねぇか」

武蔵はその一言に答えた。

「デマ?何かあったのか?」

「聞いてくださいよ武蔵さん。先日ね、妖精友の会の忘年会があったんでさ」

「うむ」

「そこでどっかの妖精がね、妖精専用の温泉がオープンするって聞きつけてきやがったんですが」

武蔵は表情を変えないように気を遣いながら答えた。

「ほう、そんなのが出来るのか?」

「それが完全な嘘っぱちだったって後で解りましてね、言いだしっぺをとっちめてやりたいでさ」

「出来るのなら行って来たら良いと思ったのだが、迷惑な話だな」

「まったくでさ」

「ところでその、妖精友の会とやらはこの町の妖精が集まるのか?」

「え?ええ、この町の艦娘に所属してる妖精が集まりまさぁ」

「・・」

武蔵はテッドに相談すべきかと一瞬躊躇ったが、小さく首を振ると告げた。

やはり私は神通達を、この部下達を信じたい。

「機関長」

少し離れた所で談笑していた機関長役の妖精は、武蔵の声に駆け寄ってきた。

「はい!なんでございましょうか!」

「皆を信じて頼みがある。聞いてくれないか」

「はい!よし!全員集合!全員集~合~!」

機関長の言葉を合図に、妖精達が武蔵の周りにぞろぞろと集まりだした。

 

 

 




ええと、ここでお詫びです。
以前、私は4月上旬くらいまでしかストックがないと申し上げたのですが、その後3月末まで書き続けたらですね、だいぶストックが増えたのです。
具体的にはGWまではあります。

この事を3月末のご挨拶の際に入れてなかった事に昨夜気づきまして。
申し訳ありません。

この後のお話は書いておきたかった事でもありますので、ギリギリになって1ヶ月延長みたいな格好になってしまいましたが、引き続きお楽しみ頂ければと存じます。

これ以上は活動報告でやれと言われそうなので、この辺で。

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