Deadline Delivers   作:銀匙

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第41話

 

 

武蔵の表情を見てテッドは首を傾げた。

「うらやましいってどういうこった?」

武蔵は軽く肩をすくめた。

「例えば兵装によっても資源消費量は大小あるし、航続距離によっても同じく差がある、戦闘回数にもよる」

「だろうな」

「奴は遠い行き先の場合は兵装を省資源な物にするといった形で調節するのが実に上手いんだ」

「はっはーん、常に同じ量食えば済むようにするのか」

「ああ。その見極めが実に上手い。我々もそう出来ればそうしたいんだが、調整要素が少なすぎてな」

「LVが上がるってのは色々違ってくるんだな」

「ああ。独自のノウハウを集めれば同じ事をしても疲労しにくくなる等、上手に運用出来るようになる」

「艦娘の運用も奥が深いなあ」

「所属する妖精と運用方法の相性もあるし、一概にこうすれば良いというのもない」

「へぇー・・あ、これはその引き出しだ」

「あぁ。これで最後か?」

「棚の方はそうだな。あ、フライパンとか鍋類はここだ」

「包丁も一緒だな。ちょっと冷蔵庫開けるぞ」

「おう」

「・・ふむ、期限切れの品はなさそうだな」

「食い物無駄にするほど贅沢してねぇよ」

「ふふ。それは良い事だぞテッド」

「よっし。片付け終わりっと。武蔵も飲むか?」

「何をだ?」

「スコッチ。今日のつまみはビターチョコだ」

「・・ここから更に食うから太るんじゃないか?」

「空腹で酒飲んだら胃が荒れるし、スコッチにチョコはイケルんだぜ?」

「・・そうか」

「1回やってみろよ、騙されたと思ってさ」

「部屋の模様替えが終わらなくなってしまうではないか」

「1日で無理に終わらせる必要はねぇだろ?」

「・・解った。少しだけな」

「よしよし、事務所のソファで待っててくれ」

武蔵は溜息をつきつつキッチンを出た。

どうもテッドと話してると楽な方へと傾いてしまう。

時雨や神通は優しくても厳しい生活へと導くから、今までとのギャップが激しいな・・

 

「ほいカンパーイ」

「ん」

テッドは事務所の執務席で、武蔵は応接用のソファでグラスを軽く掲げた。

武蔵はグラスの中で揺れる琥珀色のスコッチと氷の塊を眺めていた。

艦娘の中には酒豪で名を馳せる者もいるが、基本的に鎮守府では常時臨戦態勢である。

特に旗艦は召集がかかった時にへべれけでは鎮守府が壊滅する危険もある。

ゆえに常にシラフでいようと、武蔵は今まで飲んだ事が無かったのである。

ただ、素直にそう言えない辺りが武蔵らしい。

「んー!やっぱこのボトルは当たりだなぁ!うまいっ!」

嬉しそうな声にふとテッドを見るとニコニコと笑みを浮かべており、ご満悦の表情で葉巻をカットしていた。

「・・・」

 

 美味しい・・のか?

 

武蔵はきゅっと唇を結んだ後、覚悟と共に一気にぐいと喉へと流し込んだ。

「!?・・・ゲフッゲフッゲフッ!」

「お、おいおいどうした?気管にでも入ったか?」

武蔵は涙目でテッドに答えた。

「何でこんな・・ヒリヒリするぞ?」

「?」

テッドは一瞬怪訝な顔をしたが、

「あー・・もしかして初めてか?」

「う」

「OKOK。飲み方教える。それならロックよか水割りの方が良いな」

そういうとテッドはちょいちょいと手招きをした。

 

「・・こんなもんかな」

「・・・今度は大丈夫なのか?」

「気に入る割合は人それぞれだからなあ。後、飲むんじゃ無くて舐めるって気持ちでな」

「舐める?」

「おう。飲むってくらい一気に口に入れるからヒリヒリすんだよ」

「ど、どのくらいだ?」

「なんていやぁ良いんだ・・スプーン1杯?」

「小さじ1か?」

「まぁそんなもんだ。厳密に決まった量なんてねぇからな」

「・・・」

「まぁダメならまた加減するからさ」

少しだけテッドをジト目で見た後、武蔵はほんの僅かだけ口に含んでみた。

「んー・・」

ちょっと少な過ぎたのか、再びグラスに口をつける。

「・・どうだ?甘いか?辛いか?」

「甘くは無いな・・水っぽい、のか?」

「んー?」

テッドはひょいと武蔵のグラスを受け取ると、クイと一口飲んだ。

「!?」

「んー・・これで水っぽいか・・となると・・」

「あ・・ああ・・」

「こんなもんか。ほれ」

「え・・ええと・・」

「どうした?」

「い・・いや・・なんでもない」

テッドからグラスを受け取った武蔵はそれはもうドキドキしていた。

同じ所に口をつけている訳では無いが、これも間接・・

「・・ふ」

いや、待て私。テッドとは夫婦ではないか。何を今更。

武蔵は改めて、テッドと同じくらいの量を含んでみた。

「・・あ」

「どうだ?」

「甘い・・甘いかもしれない」

「それが武蔵の適量だ。この量だと・・少し多めのワンフィンガーだな」

「ワンフィンガー?」

「空のグラスの底から指1本分酒を入れて、後はグラスの6割くらいを水で満たす。炭酸でも良い」

「炭酸?ラムネの事か?」

「いや、ラムネは砂糖が入るだろ。砂糖抜きの炭酸水だ」

「ふむ・・」

「今は水で作ったけど、炭酸だと俺は若干濃い目に作る」

「どれくらいだ?」

「武蔵で言えばツーフィンガーかなあ」

「底から指二本分か」

「多分な。ちょっと少なめから試していけば良いさ」

「うむ。それにしてもあんなに辛かったのに、水と混ぜるだけで甘くなるなんて不思議だな」

「適切な量で割らなきゃ意味無ぇぜ?」

「あぁ。さっきは水っぽかったな。でも分量自体はあまり変わらないように見えた」

「1本の半分か、1本か、位だ」

「不思議なものだなぁ」

テッドは元の席につくと葉巻に火をつけ始めた。

「ま、お代わり欲しければ作ってやるから言えよ」

「あぁ」

うむ。テッドの手料理に酒。今日は初めて尽くしだな・・

武蔵はくすっと笑いながらグラスの酒を口に運んだ。

 

「意外と飲めるクチか?」

「うむ、そうかもしれん」

武蔵は3杯目のソーダ割を口にしていたが、特に仕草や口調は変わってなかったのである。

「やはり私はソーダ割の方が好きだな」

「今度はレモン入れてみるか?」

「今から剥くのか?」

「いんや。冷蔵庫にレモン汁入ってるんだ。待ってな」

「あ、それなら私も見に行く」

「おう」

テッドは冷蔵庫をがぱりと開けると、ドアポケットを指差した。

「これこれ」

「はは。可愛いレモンのボトルだな」

「いーだろー?」

「あぁ。なかなかシャレてるな」

「入れるとすれば必ずここだから」

「解った」

席に戻った武蔵はボトルを手に小首を傾げた後、テッドに訊ねた。

「どれくらい入れるもんなんだ?」

「何滴でも気に入るまで入れりゃいいよ。最初は少なめにな」

「アバウトだなあ」

「嗜好に厳密なルールなんてねぇよ。人自体がアナログなんだからさ」

「ま、そうだな」

武蔵は軽く振り、2滴ほどグラスに落としたのである。

 

 

 


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