Deadline Delivers   作:銀匙

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第22話

「あら、ベレーちゃん」

「?」

呼びかけられたベレーが振り向くと、ナタリアともう1人、スーツを着た背の高い女性が立っていた。

「紹介するわ。地上組の柿岩ちゃんよ」

「柿岩です。よろしくお願いします」

ベレーは耳慣れない単語に首を傾げた。

「えっと・・地上・・組・・?」

「あれ、ベレーちゃんは地上組知らなかった?」

「は、はい。すみません」

ナタリアは頷いた。

「まぁこの町に限れば知らなくても生きてけるからね」

柿岩が肩をすくめた。

「最近は割と増えてきましたよ。深海棲艦が化けずに歩ける町は」

「あら、そうなの?」

「過疎で人間が居なくなった町に深海棲艦が集まって町になったケースとか」

「あー」

「半島の先とかが多いわ。ここもそうでしょう?」

ベレーがそっと手を上げた。

「あ、あの、地上組って・・なんでしょうか?」

柿岩が苦笑した。

「あぁごめんなさい。説明しますね」

 

地上組。

 

深海棲艦という名前は人間側が命名したもので、その理由は最初期は外洋でしか遭遇しなかった事にある。

どこから来たのか?海の底からか?では深海に棲む艦か!

という事で深海棲艦と名づけられた。

しかし。

逆に文字のイメージから、深海棲艦は深海に居るもので陸には上がってこないと思い込んでしまった。

実際は艦娘の旧型を発端とする別の進化を遂げたシステムを持ち、海中でも活動可能というだけなのである。

よって厭戦的で、しかも人間に化ける能力を有する深海棲艦達はこの思い込みを利用し、陸で住むようになった。

その方が安全というわけである。

ただ、「化けている」ゆえ、自然に老いるといった事が無い。

気をつけないと何十年も若い姿のままといった不自然な事になってしまう。

加えて、881研を始めとする極少数はこの事実を把握しており、深海棲艦の捕縛活動を内密に行っている。

人間社会の中で疑われずに溶け込むノウハウの共有と捕縛されそうな仲間を避難させる為の互助会。

このネットワークを総称して「地上組」と呼んでいるのである。

 

「へぇー」

ベレーが目を丸くしていると、柿岩は名刺を取り出した。

「私は日本のエリア長なの。あなたもDeadline Deliversなのかしら?」

「えっ?あ、はい・・ええと・・これが名刺です」

ベレーが差し出した名刺を柿岩が受け取ろうとした時、ナタリアが横からピッと取った。

柿岩は怪訝な顔をする。

「え?ちょっと、ナタリアさん、返してくださいな」

ナタリアは名刺をひらひらさせながら肩をすくめた。

「えっとね、ベレーちゃんの所属するDeadline Deliversは、艦娘と人間と深海棲艦が一緒に働いてるの」

柿岩が目を見開いた。

「ええええっ!そんなの聞いた事無いですよ!?」

「ええ。私もこの子達のとこしか知らない。そういう特殊なDeadline Deliversだって事、覚えといて」

「へー」

ベレーは首を傾げつつ、二人に訊ねた。

「ミストレルさんやファッゾさんと、一緒にお仕事するの、ダメ、なんですか?」

柿岩はポリポリと頬をかきながら言った。

「い、いえ、ダメという事ではないのですが、あまりにも特殊なのよ」

「特殊?」

「地上組の経緯にもある通り、私達は戦いを避ける為に、あえて敵の懐に飛び込んだわけです」

「・・」

「ここでいう敵は人間、そして艦娘」

「・・」

「だから人間や艦娘と一緒に働くのは、地上組の常識からするとちょっと信じられないの」

ベレーが悲しそうな顔で俯くと、ナタリアは柿岩の肩を叩いた。

「補足するとさ、ベレーちゃんの勤務先の人間も艦娘もあたしの親友で、全く敵意は無いわ」

柿岩が興味深そうにナタリアを見る。

「そうなのですか?」

「それにベレーちゃんが深海棲艦という事も解った上で仲間として受け入れてるわ」

「へー!」

「だからうちらの荷を任せても問題は無いと思うけど、受け手の方がびっくりしちゃうかもね」

「ええ。艦娘と深海棲艦が仲良く並んで「お荷物でーす」なんて来たら硬直するでしょうね」

「あるいは・・仲間を艦娘に売ったと誤解されるかも」

「そうね。そういう風に誤解される可能性はあります」

「という事で、これからも荷物の配送はワルキューレをよろしくぅ♪」

「あなたの所は高いのよ・・もう少しまけてよ・・」

「C&Lよか良いでしょ」

「そりゃ・・危ない海域でもちゃんと運んでくれますけどね」

「アタシ達は配達失敗した事なんてないわよ?」

「・・そうね。半年分の食料を海原にばら撒いてくるようなヘマはしないですけど」

「高品質には高いギャラが要るって事よ」

「・・・」

柿岩は少し思案した後、ベレーの方を向いて言った。

「ねぇベレーさん、事務所行ったら社長さんとお話し出来るかしら?」

ベレーは目を白黒させた。

「ふえっ?あ、あの、ナタリアさん・・良いん・・でしょうか」

ナタリアはニッと笑った。

「ついてってあげるわよ。こいつがおかしな事したらアタシがぶっ飛ばしてあげる」

「お、お願いします」

ベレーは頷いた。ナタリアは強い。ファッゾ達に危害が及ぶ事は無いだろう。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

ファッゾ達の事務所には、柿岩とナタリア、ベレー、ミストレル、そしてファッゾが座っていた。

ベレーの出した麦茶を前に、柿岩はすっと目を細めると、

「では単刀直入に伺います。貴方達は私達の敵?それとも味方ですか?」

そう、ファッゾに問うたのである。

 

一瞬で事務所がしんと静まり返り、ナタリアは何気ないふりをしながらズボンのポケットに手を忍ばせた。

ファッゾ達は心を許せる数少ない友人だ。

流れによっては部下を呼んででも護らねばならない。

 

 

 


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