Deadline Delivers   作:銀匙

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第37話

時雨は腕を組んで少し考えていたが、やがて頷いた。

「・・うん。真夜中の急な依頼なんて無いし、夜中に帰着する輸送は武蔵に割り当てなければ良いんだよね」

「なっちまった場合はそっちで武蔵を泊めてやってくれよ?」

「大丈夫。今の武蔵の部屋を仮眠室にしておくから」

「ま、寝床に困らないなら俺は良いけどよ」

武蔵は顔を真っ赤にしたままテッドと時雨を交互に見ていたが、ついに言った。

「こっこら!私を抜きにして進めるな!」

テッドがポリポリと頬をかきながら答えた。

「やー、まぁその、俺んちは幾つか使ってない部屋があったりするんだよ・・」

「そ、それがなんだというんだ」

「メシ一緒に食う事にした後さ、実はもう、部屋を片付けといたんだよ・・な」

「うっ」

大和が頷いた。

「ほら御覧なさい。ニブチンのテッドさんでさえ武蔵より先を行ってるではありませんか」

テッドがジト目になった。

「誰がニブチンだ誰が・・おい、何で皆で揃って頷くんだよ・・せめて武蔵くらい否定しろよ!」

「嘘はつけんのでな・・ちっ違う!そこじゃなかった!あっ姉上っ!」

「お肉が焦げてますよ武蔵。炭にしては勿体無いですよ」

「ああっ!・・あっ、姉上達が変な事を言うからじゃないですか!」

慌てて取り皿に肉を取る武蔵を見ながら神通が言った。

「テッドさん」

「おう」

「・・武蔵さんを迎える準備は整ってると言う事でよろしいですか?」

「本当は例の副業で1回くらい収入が入ってからにしたかったんだが、あれもなぁ」

「そうですね。あの件は本当に来るのか怪しくなってきましたしね・・」

「そういうこった」

神通は箸を置くと、きちんと居住まいを正し、テッドに向き直った。

「武蔵さんはずっと私達を支え、辛い時も希望を持たせてくれました」

「・・」

「ですから私は武蔵さんが一番先に、一番の幸せを掴んで欲しいと願ってきました」

「・・」

「テッドさんなら私達は安心して送り出せます。武蔵さんを、どうかよろしくお願いいたします」

テッドは真っ赤になって視線をそらす武蔵をちらと見た後、背すじを伸ばして神通に向き直った。

「ありがとう。そんな風に評価してもらえて嬉しいぜ。武蔵に釣り合う様な奴になれるよう頑張る」

「・・」

「あと、俺達は皆から見てて亀の歩みかもしれねぇけど、そこは今まで通り大目に見て欲しい」

「・・」

テッドは武蔵に向き直ると、にこっと笑った。

「二人の生活を、新しい生活を始めようぜ・・な、武蔵?」

武蔵はぎゅっと目を瞑ったあと、そっと上目遣いに神通達を、そしてテッドを見返すと、こくりと頷いた。

龍驤がしみじみと呟いた。

「ほんまに長かったなぁ・・やっとここまで来たって感じやなぁ。なんや泣けてきたわ・・」

大和が頷いた。

「大討伐事案が1年くらい続いた感じですよね・・」

時雨が首を横に振った。

「これからが本当の始まりなんだから、まだ討伐すら始まってないんだよ」

山城が肩をすくめた。

「そうね。出撃の度に羅針盤が逸れては戻る25回目って感じ?」

途端に面々がジト目になった。

「あー・・」

「ピッタリですね・・」

「随分前、キス島撤退作戦に龍驤と何度も出撃した時の事を思い出すね・・」

「時雨ぇ、嫌な事思い出させんといてや」

「背の低い子なら突破出来るなんてデマを司令官が信じたばっかりに・・」

「あれは嫌な事件でしたね・・」

そんな面々を見て、テッドはぱたぱたと手を振った。

「まぁまぁ、昔話で落ち込むのはよそうぜ。それよか肉食おうぜ、肉!」

武蔵が頷いた。

「よし!肉焼くぞ肉!皆も食え!」

テッドは武蔵を見てニッと笑うとトングを手にした。

武蔵はずっと、こうやって来たのだろうな、と。

 

そしてさらに時は過ぎ・・・

 

 

ピピッピピッ・・ピピッピピッ・・ピーッ!ピーッ!ピーッ!ピーッ!ピーッ!

 

「これでラストオーダーとなりますが、最後に1皿お持ちしますか?」

「あーいや、ここまででOKだ」

「・・わ、わっかりましたー。お酒とか追加あればお呼びくださーい」

テッドの答えに店員は一瞬心底安堵した表情を見せたが、すぐに持ち直す辺りがプロである。

店員が空き皿を持って下がった後、テッドは武蔵に話しかけた。

「大丈夫か?足りるか?」

武蔵は苦笑した。

「仕事明けとはいえ、これだけ食べて腹8分目・・というのはやはり不経済だな」

「大和型だからな。食いたきゃ単品で追加するぞ?」

「いや、どれも美味しかったし、店に嫌がらせと誤解されたくはないのでな」

「まぁ向こうも客商売とはいえ、初日だからなぁ」

「そういう事だ」

テッドは龍驤達を見た。

「そっちも食べたかー?」

「食ったでー」

「色々な意味でごちそうさまー」

「よっし、じゃあ出るかー」

帰り支度を済ませたテッドはテーブルの上の伝票を掴もうとしたが、そこに伝票はなかった。

「あれ?落としちまった・・・か?」

きょろきょろと探していたが、ふと神通が居ない事に気がついたので、龍驤に訊ねた。

「なぁ龍驤・・もしかして伝票・・」

「ん?神通が会計しに行ったで?」

「えっ?今夜は俺のおごりって・・・」

「うちらからのささやかなお祝いや。引越しの日取りは二人で決めや?」

「・・そっか」

そこに神通が帰ってきた。

「お待たせしました~・・あら?どうしたんですかテッドさん」

「祝ってくれてありがとうな。それと、これからもどうかよろしく頼む」

神通はテッドの耳元で囁いた。

「引越しを先延ばしさせないでくださいね?武蔵さんは日が経つと絶対恥ずかしがるので」

「お、おう。頑張る」

「それと・・食費のご相談はいつでも受けますので」

「ちなみにそっちではどうやってたんだ?」

「問屋さんから一括で買って私達が直接取りに行く事で値引きしてもらってたんです」

「そういうレベルかよ」

「大型冷凍庫が1台あると便利ですよ」

「れ、冷凍専用って事か?」

「ええ。600リッターくらいの」

「業務用かよ」

「ええ。そちらが共同購入して頂ければうちも助かりますし」

「・・うん。明日相談に行く」

「お待ちしてます」

テッドと神通は小さく頷きあうと、皆に向かって告げた。

「よっし。これで今日はお開き。ごちそうさまでした!」

「ごちそうさまでした!」

 

 

 




明日からは書き溜めた分の予約投稿となります。
まだ章は終わりませんが、区切りのご挨拶を。

「艦娘の思い、艦娘の願い」から2年間、大変お世話になりました。
批判にすぐヘタレる私がここまで続けられたのは高い評価や好意的なコメント等で私を明示的に支持してくださった方々がいたからこそであり、ここまでお付き合い頂いた事に感謝申し上げます。

本当に、ありがとうございました。

良くして頂いた皆様に良い事がありますよう、心から願います。

残りの話もお楽しみ頂ければ幸いです。
なお、先に一言だけ申し上げるならですね、かなり筆が横滑りしたのですよ…ええ。すいません。


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