食べ始めてから30分が過ぎた頃。
テッド達と龍驤達のテーブルの間にやってきた店長が恐縮した様子で告げた。
「あの、お客様・・・」
「そのロースいけるぜ・・あ、おう。なんだ?」
「大変恐縮なのですが、まだまだ召し上がれますか?」
テッドは隣のテーブルを含め、皆の様子を一瞬見てから頷いた。
「そろそろ折り返しって感じかなあ・・ピークは過ぎてると思うぜ?」
「よろしければ1度にお持ちする量を2セット分ずつにしたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「あー・・そうだよな・・しょっちゅう来て貰ってるもんな・・」
「すみません・・いかんせん他のお客様にも滞りなく対応せねばなりませんので・・」
そう。
テッドは慣れてしまっているが、メンバーにはまず大和と武蔵が居る。
二人ほどでは無いが、扶桑と山城も居る。
この4人がそれぞれ大皿に盛られた肉を次々と消費していく。
つまり置いたそばからお代わりを頼まれるので店員がこの2テーブルにかかりっきりになっていたのである。
ちなみにテッドは酒が入ってる事もあり、小食と言われる時雨とほぼ似たような量である。
テッドはすまなさそうに頭をかいた。
「や、そっちが構わねぇなら3セットでも4セットでも盛って良いぞ?協力するぜ」
店長は頭を下げた。
「助かります。では4セットずつお持ちしますので減らす時は仰ってください・・あ、ライス追加ですか?」
武蔵が丼を差し出しつつ良い笑顔で頷いた。
「うむ。このご飯は本当に美味しいな!素晴らしい!」
「ありがとうございます。それでは少々お待ち下さい」
ズシッ。
「おぉ・・壮観だなぁ」
テッドが肉が山積みにされた大皿を見て呟くと、店員も頷いた。
「ご協力ありがとうございます。俺も色々な店で働いてきましたけど、こんなの正直初めてっス・・」
「だよな」
「あ、えと、ライス特盛です」
「うむ」
「あとそろそろ・・炭と網替えちゃいますか?」
「おっ助かる。ありがとな」
「よっ・・と。ではごゆっくりどうぞー」
店員が去るとテッドはひょいひょいと新しい網に肉を乗せつつ武蔵に話しかけた。
「網のこっち半分がロースで良いか?」
「あぁ。テッドは取れるか?」
「おう、心配するな」
「では私はカルビを焼いて行こう」
網の上の肉をひっくり返しつつ、テッドは続けた。
「・・それにしてもさぁ」
「どうした?」
「武蔵はあの件、どこだと思う?」
武蔵は肉を乗せる手を止めると、炭火を見ながらしばらく黙した。
時折肉から垂れる油が炭にかかり、ぼうっと炎を上げている。
「・・誰であれ、あまり良い話ではないからな」
「それもあるんだけどよ、俺はどうにもしっくりこねぇんだよ」
「どういう事だ?」
「この町の連中はさ、多かれ少なかれ海軍に文句の1つや2つは抱えてるだろ?」
「だろうな」
「その海軍にわざわざ何か言うかと思ってよ・・」
「そうだな。ただ、龍田が嘘をついてるとは考えにくい」
「あぁ。あれがお芝居なら天下の名女優だ」
「それか、超一流の詐欺師だな」
「違ぇねぇ。そうか・・やっぱり武蔵の方も心当たりはねぇか」
「無いな」
「どうしたもんかなぁ」
二人で黙って考えていると、隣から声が飛んできた。
「そんなに眉間に皺を寄せてたらお肉がまずくなっちゃうわよ?」
「姉上・・」
「折角の焼肉デートなんだから、もうちょっと楽しい話題をしなさいな」
途端に武蔵の顔が真っ赤になる。
「やっ!?やややや焼肉デート!?」
時雨が俯き加減に頬を染めて言った。
「あ、あの、焼肉を食べに来るカップルって、その、随分親密になった証拠だって言うけど、どうなのかな・・」
龍驤が首を振った。
「通説ではそう言うんやけどなぁ、残念ながらハズレやろなぁ」
「どうして言い切れるんだい?」
「ほな考えてみぃ?うちらの誰かは四六時中武蔵と会うとるやろ?しかも家は会社内の寮や」
「そう、だね・・」
「そんな状態でどうやってテッドと乳繰り合うっちゅーねん」
ぶふっ!
龍驤の一言の直後、同時に咳き込んだ武蔵とテッドをジト目で見つつ山城は言った。
「そうねぇ、たかがこの程度であんな反応してるんじゃ、間違いなくおぼこよねぇ・・」
「せやせや。折角あれこれ理由つけて二人にしとるんやし、はよせぇってな・・」
武蔵がぐぐぐっと拳を握り締めながら二人を睨んだ。
「勝手放題言ってくれるではないか・・」
山城は箸の先を軽く噛んだまま、横目で武蔵を見返した。
「違うなら違うって言えば良いでしょ」
「ぐ!」
大和は肩をすくめた。
「自ら認めましたね・・まったく奥手にも程があります」
「あっ・・あああ姉上まで何を言ってるんですか!普通こういう時は止めるものじゃないんですか!?」
「それは進み過ぎる場合です。貴方達は止まってるのかと思うくらいの速度じゃないですか」
大和の言葉に何度も頷く神通・山城・龍驤、そして時雨。
「そっ、そんな事を言われても・・その、わ、私もどうして・・良いか・・」
美味しそうにハラミを飲み込んだ扶桑が言った。
「いっそテッドさん家で同棲なさってはどうですか?」
武蔵がぎょっとした顔で扶桑を見返した。
「んはあっ!?ぎ、ぎぎぎ艤装の整備とか合同訓練とか、そっ、そもそも仕事はどうする!」
「そういうご用事がある時だけ事務所にお越しくだされば良いかと思いますよ」
「しっしししかし、しゃしゃ社員なんだからその、あ、あれだ・・出社!そう!出社しないわけには!」
「テッドさんの家に住み、必要ある時だけ出社頂くという事で問題ありますか?時雨さん」
「んー・・」
時雨は真面目に考え始め、それを武蔵は祈るような目で見ていたが、
「別に行方不明になる訳じゃないし、必要ならテッドさんの事務所に行けば良いだけだよね」
扶桑は頷いた。
「ええ」
武蔵は無言でバタバタと首を振り、ダメだダメだとアピールしていたが、
「うん、別に良いんじゃないかな・・元々テッドさんとの窓口役が主な仕事なんだし」
と言ったので、武蔵はがくりと肩を落とした。
テッドはグラスのレモンハイをちびりと飲んで答えた。
「1つ確認して良いか、時雨ちゃん」
「いいよ、何でも聞いてよ」
「うちの家に武蔵が来た場合、22時から夜明けまで出入り禁止になるが、良いか?」
「えっ?どうしてだい?」
「前にも言ったけどさ、SWSPの保障絡みだよ」
そう。
テッドを狙う殺し屋は今尚たまに現れており、SWSPがずっと警護している。
特に明かりが減り、暗闇が増える夜中の時間帯はハイリスクとなる為、外出禁止令が出ているのである。