Deadline Delivers   作:銀匙

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第34話

 

神通の提案に提督は頷いた。

「うん。話してもらう内容を依頼人ごとに変えておけば見つけやすいかな」

龍田は眉をひそめて考えていたが、提督に続いて答えた。

「そうねぇ・・波風立てずにやるにはそれしかないかなぁ・・」

テッドは肩をすくめた。

「じゃあ香取達の初仕事か。卒業試験みたいなもんだと誤魔化しゃ行けるだろ」

提督達が一斉にテッドを見た。

「な、なんだよ」

神通が呟いた。

「・・そうですね。案件の程度を考えても、卒業試験にふさわしいかもしれません」

龍田が頷いた。

「それほど危険もなく、勝手知ったる町で、今まで通り動けば疑われないし~」

山城が顎に手をやった。

「ローリスクの割に実践ノウハウはそこそこ集まるし、悪く無いわね」

提督が龍田に話しかけた。

「内々の依頼として、テッドさんと神武海運の皆さんに手伝ってもらおうよ。それでダメなら別の手を考えれば良い」

神通が腕を組んだ。

「ただ、香取さん達への頼み方が難しいですね・・」

龍驤が肩をすくめた。

「せやな。試験やからて気合入れて目ぇキラキラさせとれば一発で見抜かれるで?」

武蔵も頷いた。

「丸っきり知らせねば試験にならないが、普通に知らせれば多分町の者に気取られて失敗するだろう」

時雨がふと顔を上げた。

「じゃあ噂の流布を試験としたらどうかな?」

大和が時雨に返した。

「噂の流布、ですか?」

「うん。集団に対する情報操作の部分が調査スキルとして必要だから卒業試験とするんだよね」

「ですね」

「なら、覆面試験官が確かめるから、どこどこにこういう情報を広めなさいって試験だと伝えればどうかな」

扶桑が頷いた。

「なるほど。私達は流した情報のどれが漏れ聞こえてくるかを知りたいけれど・・・」

山城が続けた。

「そこまで言うと背景まで説明しなければならず、そこが街の中に漏れれば互いに疑心暗鬼になる」

「でも噂を流すという試験なら、試験内容が漏れたとしても別に害は無いですね」

長門が頷いた。

「大本営にどの話が聞こえているかは我々が内々に調べれば良い話だ。なかなか良い案ではないか?」

龍田は何度か頷きつつ口を開いた。

「そうねぇ、じゃあテッドさんを怖がらせちゃったお詫びに、これは正式な依頼として出すわね~」

テッドは肩をすくめた。

「まぁ、輸送任務じゃねぇが神武海運向けの依頼だからな。仲介させてもらうぜ」

「お幾らかしら~?」

テッドは武蔵と小声で二言三言交わしてから電卓を叩いて見せた。

「こんなもんだな」

龍田は眉をひくつかせながらジト目になった。

「・・人が値下げ交渉しづらい時に限って吹っかけてくるわね」

「それが俺の今の仕事なんでな」

「もう少し噛ませてやろうかしら・・」

「何か言ったか?」

「何でもないわ~、じゃあ聞こえてくるまでお願いね~」

「ぐっ・・この手の依頼で成功確約かよ」

「今回は漏れてる事は解ってるから、突き止めるのが依頼なんで~」

「しかたねぇ、依頼状況によっては結論が出るまで長期化する事は諦めてくれよ?」

「それはそうでしょうねぇ。まぁ提督が次に来られるようになるのが延びるだけだし~」

提督が龍田の方を向いた。

「えっそうなの?」

「漏れたまま何度も来たら危ないでしょ~?」

提督はテッドに向き直った。

「テッドさん早く解決してください!」

テッドは肩をすくめ、武蔵に向かって小声で呟いた。

「なんつーかさ、俺にとっては迷宮入りの方が良いんじゃねぇかって今ちょっと思った・・・」

ジト目で頷きあうテッドと武蔵に、提督はパタパタと手を振った。

「ちょっ!そんな事言わないでよ~」

「どうも解決した方が俺は余計面倒を抱え込む気がすんだよなぁ・・」

「いやいや!いやいや!そんな事は無い!そんな事は無いですよ!」

テッドはジト目で提督を見た。

「じゃ、所長がこの町に来るメリットは?」

「楽しくお話が出来る!」

「・・所長がでしょ?」

「うっ・・ええと・・」

滝のように冷や汗をかく提督の隣で龍田が静かに呟いた。

「情報が漏れないというのがこの町のプレミアムだって事・・忘れて無いわよね、テッドさん?」

「ぐ」

「その信頼に傷がつき、放置するようなら、今までみたいには頼めない事が出てきちゃうけど~?」

「む・・むむ・・」

「そうしたら軍からの依頼が減って町が不景気になっちゃわないかしら~?」

「むうう・・そういわれると・・仕方ねぇ・・のか?・・うーん」

あっという間に旗色が悪くなるテッドの様子を見て神通は思った。

やはりこの3人の中ではダントツに龍田が悪どいな、と。

龍田は記入した小切手をテッドに手渡しながら言った。

「じゃあよろしくね~・・あと、テッドさんが先に表に出てくれないかなあ」

「何でだよ」

「テッドさんが無事だって事が解らないと私達蜂の巣にされそうだし~」

「?」

テッドはひょいと窓越しに外を見て納得したように頷くと、

「あー・・そもそもおめーらがいきなり来るからじゃねーか・・全く・・」

そう、ぶつぶつ言いながらドアを開けると、

「おーい!俺はピンピンしてるし、客人はもう帰るから!大丈夫だ!心配ありがとよ!」

と怒鳴ると、ようやく通りの群集が解散し始めた。

提督が戸口のテッドの方を向いた。

「えっ?あれっ?夕食一緒に食べようかと思ってたんだけど?テッドさん?」

テッドがジト目で振り返った。

「丁重にお断りいたします。さ、お帰りはこちらで」

「えー」

長門はさっと立ちつつ渋る提督の手を取ると、

「この場は引く方が後々の為だぞ。テッド殿、神武海運の皆、すまないがよろしく頼む」

そう言って一礼すると提督を引っ張って事務所を出て行った。

龍田は二人の後を面白そうに目を細めてついていきつつ、テッドとすれ違いざま、

「進捗報告はいつもの通り、テッドさんから私宛にお願いするわね~」

と、囁いたのである。

 

 

 


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