Deadline Delivers   作:銀匙

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第31話

 

数日後。

「そうか・・」

「折角ご提案頂きましたのに申し訳ありません」

香取がテッドの事務所を訪ねてきて、鎮守府から許可が下りなかったと伝えたのである。

「いや、向こうも色々あるんだろうよ。ところで神通の朝錬も断るのか?」

「いえ、朝錬に関しては受けなさいと」

「ふーん・・ところで依頼は来たのか?」

「そちらに関してはまだ何も・・ですから日中どう過ごそうかと思案している所です」

「まぁ今までは買い物屋で忙しくしてた時間だからなぁ」

「えぇ」

「とりあえずは骨休みしておけよ。いきなり忙しくなるかもしれねぇしよ」

「・・そうですね。空回りしても仕方ありませんね。ではそろそろ失礼致します」

「おう、お疲れな」

 

・・パタン。

 

事務所を去る香取を見送ると、テッドはジト目になった。

なんだろう。物凄く嫌な予感がする。

 

同じ頃。

 

「まったくもって許可しかねるな」

「なぜでしょうか~」

「警察の縄張りを軍が荒らしてると俺の上が気づいたらアンタが釈明してくれるのか?」

「・・・んー」

 

料亭の個室で向かい合っているのは警察署長と龍田だった。

署長は肩をすくめて続けた。

 

「海軍様が首を突っ込むべきは海の上だろ?うちらの町の治安維持は俺達の仕事だ」

「ですが、艦娘や深海棲艦のお相手は辛くないですか~?」

「大本営様は今も上陸した深海棲艦の存在を全否定してるのに、その為に来てるなんて知られたらマズくないか?」

「・・・」

「警察の治安が行き届いてない地区がある事は認めるが、それは警察の問題で軍の管轄ではない。違うか?」

「・・・」

「更に言えば町の治安を悪化させてるのは密入国者の人間達だ。艦娘さん達が撃っちゃならん相手だろ?」

「お互い利益になるお話かと思ったんですけどね~」

「そっちに何の利益がある?」

「んー・・」

龍田は少し躊躇うように警察署長を眺めた後、溜息混じりに話し始めた。

「海上戦は地上戦に比べるとペースも遅いし攻撃精度も大まかなんですよ~」

「そういうもんか」

「だから地上戦で勘を鍛えておけば、海上戦で大幅に有利な立場に立てるわけです~」

「攻撃を避ける為に治安の悪い所をわざと歩かせるってか?」

「パトロールって事にすれば犯罪者も減らせて一挙両得じゃないですか~」

「下手に引っ掻き回して密入国者どもが拠点を移せば調べ直すだけ手間が増えるだけだ」

「・・・」

「治安維持を目的としたパトロールは許可できん。そこは何度堂々巡りしても譲る気はない。ただ」

「・・ただ?」

「治安の悪い所に誰かが迷い込むのは知った事じゃない。スラム街で何が起ころうと通報する奴も居ないしな」

「・・それじゃ困るんですよ~」

「なんでだよ」

「署長さんが仰った通りですよ。艦娘が人を合法的に撃てる名目が無くなるじゃないですか」

「おい、仮にパトロールを認めようと発砲なんて絶対に許可出来んぞ。それこそそっちの方が大問題だ」

「そうなんですか~?」

「おいおい、この国で警察が発砲すんのはやたらと許可がいるんだよ。海原の海軍様と違ってな」

「・・まぁ私達も地上では兵装使えませんけどね。表向きは」

「だからこの話はここでオシマイだ」

「でも~」

「ん?」

「この町の警察さんは結構発砲してますよね~?」

「さぁな。暴発じゃないか?」

「両手で銃を構えて引き金を引いてる暴発ってあまり見かけませんけど~?」

「知らんなぁ」

「お写真もあるんですけど~?」

龍田が見せたスマホの画面を一瞬見た署長はフンと鼻を鳴らした。

「その写真を表沙汰に出来るのか?まず最初に艦娘がやってはならん事をしてる写真に見えるがね」

龍田は途端に渋い顔になった。

確かに警官が両手で銃を構えて撃ってるが、その先に居るのは署長の言う通り艦娘である。

艤装を仕舞った艦娘が人間の荷物をひったくり、警官が制止させようとして銃を撃っている、という構図だ。

普通の警察ならこの状態の艦娘と人を容易に区別出来ないが、伊達に山甲町の警察をやってないという事か。

「それを切ればこっちは正当防衛を適用するし、その根拠として犯罪を犯す艦娘が居るって事も説明するぜ」

「・・」

「そっちが火蓋を切るなら俺達も容赦しない。海軍が抜き差しならん大スキャンダルになろうとな」

「・・」

「もう1度言う。警察の縄張りを軍が荒らすな。俺達の町の治安を更に悪化させる火種の持ち込みもお断りだ」

「・・」

「話は終わりだ。俺は帰るぜ」

 

・・・トン。

 

警察署長が部屋を出て行くと、龍田は肩をすくめた。

「んー、テッドさんの買い物屋演習はこういう問題を上手に避けてたって事かぁ・・失敗したなぁ・・」

とっくりからコココとぬるくなった日本酒を注ぎながら呟く。

「パトロールなら多人数同時に、日がな一日スラム街で戦闘に明け暮れても怪しまれないと思ったんだけど・・」

お猪口からクイと酒を飲み干すと、龍田はそっと額を叩いた。

「鎮守府で拡大解釈しすぎた、か。じゃあ元の案で少しずつやるしかないわね~」

龍田は立ち上がると、署長が座っていた座布団を見てくすっと笑った。

普段、あまり言い負かされる事の無い龍田だが、あの署長との戦績は負け越している。

だが、署長とヒリヒリするような交渉を重ねると他の人と論ずるのがとても簡単に思えてくる。

「私にとっての署長が、あの子達にとってのスラム街って事よね・・さて、軌道修正しなきゃ~」

そう呟くと、龍田はそっと部屋を出て行った。

 

 

 


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