Deadline Delivers   作:銀匙

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第30話

 

 

「えええっ!?止めちゃうんですか?・・はぁ・・そうですか・・」

神通は目を丸くしてテッドを見返したあと、しゅんと肩を落としたのである。

「・・ふーむ」

同席していた武蔵は頬杖をついて唸った後、続けた。

「まぁソロルの連中の訓練を続けるのも、それによってライネス達にまた迷惑がかかるのも、なぁ」

冷蔵庫からウーロン茶の缶を取り出した山城は、一口飲んだあと神通を見た。

「別に神通が朝練する部分はうちの勝手なんだから、続ければ良いんじゃない?」

俯いていた神通がぴょこっと顔を上げた。

「良いんですかテッドさん?」

テッドはさくりと葉巻の吸い口を切りながら答えた。

「朝錬の部分か?別に構わねぇが、神通一人でしんどくないか?」

神通はゆっくりと首を振った。

「あれくらいで音を上げてたら鎮守府の秘書艦なんて勤まりませんから」

「まぁやりたきゃやっても良いが、念押ししとくと続ける義務は無いぜ?」

「・・はい。私が仕事に支障をきたさない範囲で、私が続けたいと思う時点まで、ということですね」

「そういう事になる。あとはさ」

「はい」

「それこそ香取姉妹に少しずつバトンタッチしていきゃ大丈夫だろ」

神通は上目遣いにテッドを見た。

「いえ、あの、皆さんと訓練すると、私が楽しいんです」

「武蔵の読みは大正解だったわけだ。そういう事なら好きにしろよ」

武蔵はフンと息を吐いた。

「私が神通と何年一緒に居ると思ってるんだ」

神通は首を傾げた。

「でも、買い物屋の方はどうしましょう?」

テッドが肩をすくめた。

「仕組みのうち、俺がやってたのは依頼の選別と金額交渉くらいだ」

「ええ・・」

「金は依頼を受ける時にギャラ分含めて先に貰えばいいし、何を受けられるかは本人が一番良く解るだろうよ」

「・・」

「ただ、今のまま自主運営すると条例に触れるとか言う奴が出るから、なんでも屋と名乗らせりゃいい」

「そっか、買い物屋だとDeadlineDeliversの迂回手段と誤解されるんですね」

「今はDeadlineDeliversに慣れる為に似せた運用にしてたが、今後も続けるなら輸送に拘る必要はねぇだろ」

「ですね」

「マネージメントや町の歩き方を後輩達に教える所はそれこそ香取姉妹に任せるさ」

「・・まぁ、そろそろ町の人とも顔馴染みになってますし、大丈夫ですかね」

「そう思うぜ。じゃあ話をまとめると、買い物屋の方は辞めるか、なんでも屋に移行させる」

「続けるとしても自主運営になるんですね」

「あぁ。で、神通は楽しみとして朝錬を当面は行う」

「はい」

「まぁこれぐらいの変化なら香取達も面食らう事は無いだろ。これから説明に行くが、神通も来てくれるか?」

「ええ、その方が良さそうですし。武蔵さんも同席願えますか?」

「構わないが、何でだ?」

武蔵の問いに神通は深い溜息をついた後、ピッと人差し指を立て、

「テッドさんと二人になる機会を生かさないでどうするんですか。そんな事では(略)」

と、武蔵に噛んで含めるように15分ほど諭したという。

 

 

「そうですね。仰る通りだと思います。思えば随分長い間、沢山のご支援を賜りました」

「ん、理解してくれて助かるぜ」

神通と武蔵を連れたテッドは香取達の家を訪ねると、買い物屋の終了を告げた。

頷く香取の隣で利根は寂しそうに肩をすくめた。

「我輩は町の者と話せて楽しかったんだがのぅ・・」

「あぁいや、終了するのはDeadlineDelivers見習いとしての買い物屋と俺の口利きだけだ」

「ほう。その意味する所はなんじゃ?」

「香取達でなんでも屋を自主的に運営する事に俺は何も言わねぇよ。見習い期間卒業ってこった」

「なるほど。確かにテッドが我々の訓練にいつまでも付き合う理由はないのぅ」

「すまねぇけどな」

「何を言う。礼と詫びを言わねばならんのは我輩達じゃ」

「なんか謝ってもらう事あったか?」

「我輩達の失態を代わりに謝ってくれたであろう」

「実力を見て差配するのは俺の仕事だからな」

「ならばお主の期待に応えられなかった、という意味で詫びねばなるまい」

「誰だって最初は初心者だ。出来ないままなら別だが、最近はちゃんと出来てるじゃねぇか」

「あれだけ毎日こなせばの」

「で、そこまで出来るようになったのならもう大丈夫だろ。後輩の世話も含めてさ」

「うむ。町に来た直後にそう言われても泡を吹いていたであろうが、今なら大丈夫じゃ」

「だからそろそろ俺は潮時って訳さ。ただまぁ、別に喧嘩別れするわけじゃない」

「む?」

「困った事はとりあえず俺達に相談しろよ。直接解決してやれるかは解らねぇけどさ」

「まさに遠くの親戚より近くの他人じゃな!」

「逆もあるかもしれねぇがな。まぁその時は頼むぜ」

「うむ。これだけ世話になったのだ。我輩達が力になれる事なら何でも相談に乗るぞ!」

「じゃ、皆でなんでも屋として続けるかどうか決めてくれ。続けるなら手続き諸々教えるからよ」

立ち上がるテッド達に続いて香取達が立ち上がった。

「色々ありがとうございました。鎮守府にも確認を取り、まとまりましたらご報告に伺います」

「頼んだぜ。じゃ!」

 

しかし、香取達はすぐになんでも屋を立ち上げられなかったのである。

 

 

 


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