Deadline Delivers   作:銀匙

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第26話

 

 

テッドがなだめたので神通はそっと机から一歩引き、しょぼんとした顔で言った。

「弾頭の大きさはストッピングパワーに直結するんですよと言っても聞いてくださいませんし」

「・・」

「スチェッキンが重過ぎるなら、せめて9mmパラベラム弾を使う銃にしましょうと言ったのに・・」

テッドはホルスターから自分の銃を取り出した。

GLOCK36は大口径の45ACP弾を使う割に軽く、対人護身用として良く出来た銃だと思う。

この町を歩く上では絶対に手放せないし、実際世話になった事もある。

だが、きっと所長は魂を感じないとか訳の解らん理由で拒否するんだろうな。

テッドは苦笑しながらホルスターに銃を戻し、続けた。

「なぁ神通、持たせたい機能というかレベルはどんな感じだ?」

「え?ええと、例えば一人で全盛期の器下地区を縦断すると考えるじゃないですか」

「LV1の勇者が棍棒持ってラスボスの洞窟に行く位の酷さじゃねーか」

「ですけど現実問題として治安の悪い街は日本中にありますから」

「・・まぁ・・なぁ・・で?」

「路地の角を曲がったら銃を下げたマフィア5人ずつに前後挟まれたとしますよね」

「人生詰んでるじゃねーか!」

「それを切り抜けるのに手榴弾は使えません」

「・・まぁ、自分もゲームオーバーになっちまうからな」

「上級者ならダブルアクションの9mmオートでも行けるでしょうけど」

「普通は前を片付ける間に後ろが抜くからな」

「初級者ならイングラムM10辺りが必要です」

「目を瞑っても良いから周囲に向けて引き金を引き続けろと」

「はい。中級者でもSPASかストリートスイーパーが欲しい所です」

「前後1発ずつで一丁あがりか」

「ええ。予想外の瞬間に冷静かつ高度な銃操作を不慣れな人に求めるのは酷ですから」

「ふーむ」

テッドは頷いた。

確かに神通の言ってる事は正しい。

だが所長も何か考えがあるんじゃなかろうか。

「うし。ちょっと香取達に話聞こうぜ」

テッドはそう言って立ち上がった。

 

「ハンドガン、ですか?えっと、神通様には申し上げましたが・・」

「いや、俺が確認してぇのは、何か改造してねぇかって事だ」

「ええと、ノーマルの状態が解らないのですが、トリガーの重さ以外は提督と同じ仕様だと伺ってます」

「予備でいい。ちょっと銃を見せてくれねぇか?」

「解りました」

神通は少し頬を膨らませて黙ったままなので、テッドは冷や汗をかきつつ香取と話を進めていた。

木箱を手に戻ってきた香取はそのまま箱を差し出した。

 

「どうぞ」

「んじゃ拝見」

 

テッドはまず、油紙から取り出した銃のマガジンに違和感を覚えた。

「なんかこれ・・グリップより長くないか?」

「ええ、8発入るそうですよ」

「へぇ」

鹿島がひょいと銃を指差した。

「先にチャンバーに1発こめて9発装填しておけーって提督さんは言ってました!」

「9発?」

「深海棲艦や艦娘なら一人倒すのに3発要るから、3発1セットにするんだそうです!」

「おい待て。弾何使ってる。32ACPじゃ弾かれるだけだろ?」

鹿島が小走りに弾薬を取って戻ってきた。

「これと、これです!」

「・・・タングステン芯のKTW弾にダムダム弾かよ。エグ過ぎるだろおい」

神通が首を傾げた。

「どういう事ですか?」

「ええとな、こっちのKTW弾は、人間なら防弾チョッキ着ててもぶち抜ける高貫通弾だ」

「えっ」

「モルタルの壁やショベルカーのバケットも撃ちぬける最新型だ。屋内戦ならライフルと互角に戦える」

「・・」

「対深海棲艦なら標準型の装甲なら撃ち抜いちまうかもな」

神通の表情が少しだけ和らいだ。

「・・へぇー」

「でもってこっちのダムダム弾は当たった直後に破裂する」

「それじゃ貫通出来ないですよね」

「逆の役割だ。人体に当たれば内臓をずたぼろにするし、艤装なら内部の配線を無茶苦茶に引き千切る」

「・・・」

「これを向けられた奴は3発のラッパが鳴り響けば神の召喚状をもらえるってこった」

「でも9発では多人数の場合、弾数が少なすぎます。絶対的な火力が足りませんよ」

「お前ら、提督からなにか注意事項言われてないか?町の歩き方とか」

「必ず予備マガジンは3本以上持てって言われてます」

「弾数は確保しろって事か。まぁ順当だな」

「でも・・連射性能は弱いですし・・」

「そしてこれの良い所は、深海棲艦だろうが艦娘だろうが人間だろうが対処法が同じって事だ」

鹿島が頷いた。

「はい!とにかく狙った所を3回ずつ撃てっていわれてます!」

「背中合わせで反動をキャンセルするって事か」

神通はテフロンコートされたKTW弾をつまんで眉をひそめていたが、

「それでも何か1つくらい、追加で持ってて欲しいですねぇ・・山賊とかは多人数で来ますから・・」

と呟いたとき、利根が首を傾げた。

「我輩と筑摩はそれも持っておるが、これも持っておるぞ?」

そう言って利根が取り出したのはFN-P90であった。

 

「早く言えよ・・」

テッドががくりと俯くと、利根はきょとんとした顔で答えた。

「これはハンドガンではなかろうと思ったのでな」

「それは何で持ってるんだよ」

「龍田が出発前に良いから持って行けと押し付けたんじゃ」

神通とテッドは顔を見合わせて頷いた。

さすがに龍田もむざむざ死なせるつもりは無いらしい。

テッドは続けた。

「それ持つんならハンドガンだってFive-seveN持てば良いだろ」

「なぜじゃ?」

「同じ弾使えるからな」

「ほう。ならばこっちと同じ弾が使えるこういうのは無いのかの?」

「32口径のPDWなんて聞いた事ねぇよ」

「うむ。ならばこれを32口径仕様にしてもらえば良いんじゃな!」

「わざわざ弱くしてどうすんだよ」

「こっちの方が弾が可愛いからの!」

ふと見ると神通がぎりぎりと歯をかみ締めつつ拳を握っていたのでテッドはそっと後ろに下がった。

 

「いい加減にしなっさぁい!」

 

神通火山大爆発だなと、テッドは壁にもたれつつ目の前の光景を見ながら肩をすくめた。

まぁP90持ってたらそこそこ行かせても帰ってこられるだろう。

変な改造さえしなければな。

さぁて、神通の言う「実践」に出して大丈夫かねぇ・・まぁ開けてみねぇと解らねぇか。

 

こうして香取達はテッドを仲介として仕事を始めたのである。

買い物専門の便利屋、略して「買い物屋」である。

 

 

 


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