Deadline Delivers   作:銀匙

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第24話

 

 

テッドは早足で神武海運へと向かい、事務所のドアを開けた。

「よぅ邪魔するぜ・・あ、良かった。武蔵聞いてくれ」

声をかけられた武蔵はゆっくりと新聞を畳みながら返した。

「どうした?あぁ、香取がさっき来たから夕食会は承知しておいたぞ。1900時に来て欲しいそうだ」

「そういや俺は時間教えてもらってなかったな。助かった」

武蔵は苦笑した。

「どこかしら抜けてるな、香取の奴は」

「なぁ武蔵、その香取だが、LVで言うとどれくらいだと思う?」

「・・ふむ」

武蔵は腕を組んでしばらく考えていたが、

「そうだな、30から35という所だろう。あまり実戦経験は多くなさそうだが」

「要は頭でっかちで甘ちゃんだって事だろ」

「そこまで身も蓋もない言い方をするな・・まぁ否定はしないが」

「ナタリアもそう言ってたんだよ」

武蔵は首を傾げた。

「何故ナタリアと香取の話などしたのだ?」

「それなんだが、聞いてくれよ」

 

「・・ふーむ」

武蔵は片目を瞑りつつ、ガリガリと頭を掻いた。

「な?そんな勉強しようが任務につかせたら一発で沈んじまう」

「だろうな。悪徳鎮守府はそれこそ手段を選ばぬ。どんな本を読もうと・・なぁ・・」

「ただ、ナタリアが警戒する気持ちも解る」

「うむ。龍田はそれくらい考えていてもおかしくあるまい。むしろ・・」

「あん?」

「後から来たメンバーの一部には手錬が混じっているかもしれんな」

「・・依頼を実行出来るかどうか見極める役か?」

「違う。どのような事を教えてもらったか龍田に報告する為に、だ」

「それじゃスパイじゃねーか」

「そもそも依頼なんて来ないかもしれないぞ」

「最初から全部茶番かよ。香取はダシにされてるだけか」

「あの龍田ならそれくらいやりかねん。お前をあれだけ振り回したのだからな」

「まいったな・・じゃあ神通にも言わない方が良いかなぁ」

武蔵はしばらく腕を組んで考えていたが、やがて顔を上げた。

「いや・・ちょっと待ってくれ」

「ん?どういうこった」

「我々神武海運のメンバーは、かつて所属していた鎮守府の第1艦隊の生き残りでな」

「おう」

「既に高錬度だから勝手に自分で不足している所を見極めて訓練出来るんだ」

「なるほど」

「だが神通は同時に筆頭艦娘で、鎮守府全体の艦娘の面倒を見ていたんだ」

「まぁそういう役回りになるよな」

「訓練しかり、生活しかり、仲裁しかり、だ」

「手広いな」

「うむ。私達との共同生活で生活と仲裁はそれなりに満たされてると思うのだが」

「訓練だけは満たせない」

「そうだ。だから香取達への訓練は良い楽しみになるかもしれん」

「龍田達に手の内晒して良いのか?」

「そもそも鎮守府で行っていた訓練だ。問題あるまい。隠すつもりも無い」

「じゃあ神通には俺から話すが、同席してくれないか?」

「解った」

 

「・・そうですか・・可哀相な生い立ちなのですね・・」

テッドが香取達の現状を説明した時、神通は悲しそうに目を細めた。

神通自身も偽司令官から虐待を受けた身であり、共感する物があるのだろう。

「というわけでよ、一人前になるまで面倒見てやってくれねぇか?」

「この町で生きていくという意味でですよね・・んー・・」

迷いを見せた神通に、武蔵が話しかけた。

「鎮守府でよく補習をしていたではないか。あれで良いのではないか?」

「・・それで間に合うでしょうか」

「香取も練習巡洋艦だ、ある程度教えれば後は工夫出来るであろう」

神通は目を瞑って少し考えていたが、頷いた。

「はい。香取さん達がお気に召すか解りませんが、私でよろしければ」

テッドは頷いた。

「うん、確かに香取達がどう反応するか解らねぇが、その時は頼むぜ」

「はい!」

テッドと武蔵は顔を見合わせるとにこっと笑った。

 

「ええっ!?く、訓練のご指導までして頂けるんですか!?」

香取達の家で夕食を食べ終えた後、テッドはおもむろに話を切り出した。

「香取姉ぇ、私賛成!うふふっ♪」

「うむ、兵装を支給されても使えねば意味が無いからな!」

「そうですね、利根姉さん」

「よろしくお願いします!」

 

そう。

香取に続いて山甲町にやってきた面々は、鹿島、利根、筑摩、そして朝潮だったのである。

一方、今夜初めて紹介されたテッド達は内心冷や汗をかいていた。

戦艦も居なければ、正規空母どころか軽空母さえ居ない。

確かに全員集まれば対応出来ない艦種は居ないが、絶対的な戦力が不足している。

これでどうやって隠密裏の偵察や強制離脱をしろというのだ?

深海棲艦なら海に潜れるが、艦娘ではそうもいかない。

まだ高錬度の工作艦でも居れば奇手を狙えるかもしれないが、それすらもないとは・・

 

硬直するテッド達を他所に、神通は静かに頷いて答えた。

「訓練は裏切らないというのは香取さんの言葉ですが、それもやり方次第です」

「・・」

「体をきちんと鍛え、艤装取扱いに習熟し、敵の展開を読める力をつけ、それを上回る策を持つこと」

「・・」

「訓練は非常に多岐に渡ります。時間も当然かかります。でもきちんと行えば必ず皆さんの力になります」

「はい!」

「皆さんが生き残る為の術を身に着けられるよう、私が微力ながらお手伝いさせて頂きます。よろしいですか?」

「はい!よろしくお願いします!」

テッドは意外そうな顔をしつつ武蔵に囁いた。

「なぁ、神通ってあんな感じだったのか?」

「あぁ。新入生にも厳しい教官であったが、誰よりも皆の成長を案じていた」

「そうか」

武蔵は神通を見て微笑んだ。

「・・ふふ、やはり神通が楽しそうだ。目が生き生きとしている」

テッドは香取達と会話する神通を見ながら言った。

「んー・・そうだな、なんかやる気を感じる」

「教える子達のやる気を引き出すのも上手い。後は任せよう」

神通はにこりと笑って言った。

「では明日の0430時から朝練を開始します!0400時には起きていてくださいね!」

テッドはおいおいと思ったが、香取達はきらきらした目でハイと答えていた。

どうやら艦娘と人間の時間感覚は違うらしい・・あれ、俺も人間じゃねぇんだっけ。

ま、いいか。俺は寝る。

 

こうして神通の指導の下で香取達は日々訓練を受けた。

鎮守府的光景で言えばLV99の改2艦娘がみっちりとノウハウを教えてくれる訳である。

一方、武蔵の見立て通り香取達はほぼLV30前後だった。

ようやく独り立ちした位の子が最上位クラスの職人技をすぐ飲み込めるかというと無理がある。

だが、そこは秘書艦として鎮守府を切り盛りしてきた神通。

最初は高めの訓練を課し、どこまでついてこれるかを見極め、必要なところを補う。

その加減も実に手慣れており、やる気を殺がず、簡単過ぎずという絶妙な所を突いていた。

香取と鹿島は元々練習巡洋艦という事もあり、神通の教えたいポイントをすぐに察した。

神通はそこまで意図していた訳ではなかったが、香取姉妹は神通の教育手法をも吸収していったのである。

一方で神通は早々に一人だけ違う事に気づいたが、淡々と専用のメニューをこなさせたのである。

 

 

 


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