Deadline Delivers   作:銀匙

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第22話

 

 

「ありがとうございます!それでは後日、購入に必要な書類一式を持って伺います!」

「よろしくお願いします。皆さんお待たせ致しました、次へ参りましょうか」

「全然待ってねぇよ。ていうかあれで良かったのか?」

「他に候補はございませんから、すっきり決められました」

香取はそう言いながらダッジラムへと乗り込んだ。

 

一行が旅館で香取をピックアップし、不動産屋に着いたのはわずか1時間前の事。

出てきた不動産屋が最初の一言を発する前に、香取は矢継ぎ早に用件と条件を伝えていった。

泡を食った不動産屋が必死になって探し出しては見せる物件情報を、香取は

「これは平米が足りません、これは・・部屋数が足りません、これは・・保留ですね」

と、一瞬で選別していくので不動産屋は息つく暇も無い様子だった。

一方テッドと武蔵は隣同士に座らされ、その両脇を大和と龍驤に、背後を山城と扶桑と神通に固められていた。

「オーシャンビューの浴室なんて良いじゃないですか!」

「外側の掃除どうするんだよこんな崖っぷちで」

「こっちはリビング広いで~?」

「そんなバカデカイ家、一体何人で住むつもりだ」

「それはほら、ぎょうさん子供作れば」

「朝っぱらから何をいってるんだ!」

しばらくして、ふとテッドは香取と不動産屋が居ない事に気がついた。

「あれ、香取と不動産屋はどこ行った?」

奥からお茶を運んできた事務員が首を傾げながら言った。

「先程、手前共の車で物件を見に行かれましたよ?」

「もう決めたのかよ!?」

「えっ、ええ、3つくらいに候補を絞ったから見せてくださいと仰って・・」

きょとんとするテッド達の背後でガラリと店の引き戸が開き、

「それでは書類をまとめますのでおかけになってお待ちください」

「ええ、ご親切にありがとうございます」

そう言いながら香取達が帰ってきたのである。

テッドは香取に訊ねた。

「え、ええと、候補を絞ったって聞いたけど・・」

「最終的に条件に合う物件が1つございましたので、お借りする事に致しました」

「賃貸?」

「ええ。売買ですと今日からは住めないそうですので、一旦お借りし、購入手続きを進める事にしました」

「なる・・ほど・・」

二人がそう言ってる間に不動産屋はテキパキと書類を持ってきた。

「ではこちらの太枠の中を記載願います。すみませんが敷金と1か月分の賃貸料を頂戴します」

「存じております。現金でお支払いします」

「解りました」

やり取りを見ていたテッドは肩をすくめた。仕事は速いようだ。

 

「では、こちらの机を6つとその書棚を2つ、この布団を10組、ご提案頂いた食器棚、あと照明は・・」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

不動産屋を後にした一行は、続いて家具屋に来ていた。

香取は入店した直後、一番年上そうな店員を捕まえるとぐるりと店内を一周する間に目的等を説明。

2周目には店員のアドバイスを取り入れつつ次々と購入するものを決めて行ったのである。

テッドと武蔵を婚礼家具売り場に押し込んだものの、大和と龍驤は肩をすくめていた。

どうやら二人が選べる時間は短そうだ。

 

時雨が10tトラックを家具屋の倉庫に横付けし、従業員が次々と購入した家具を運び入れた。

積み込み状態を確認した時雨が納得したように頷きつつドアを閉めた時、香取は店員に言った。

「積み込みまでお願いしてしまってすみませんでした」

「いえいえとんでもない、不用品や廃材につきましてはご連絡頂ければ私共が引き取りに伺いますので!」

「解りました。近日中にご連絡しますのでよろしくお願いいたします」

「ありがとうございました!またどうぞ!どうぞ当店をよろしくお願いいたします!」

従業員総出で見送られる中、時雨の運転する10tトラックとダッジラムバンは家具屋を後にしたのである。

武蔵は香取に尋ねた。

「ええと、このまま家に向かうのか?」

「トラックの方はそうして頂きますが、私はどこかで掃除用具を手に入れたいので・・」

テッドが武蔵に言った。

「それならホームセンターが良いだろ。掃除機とかも売ってるしな」

武蔵が頷いた。

「解った」

 

3時間後。

 

「残りの布団はこの部屋やったね」

「はい、ありがとうございます」

「入れる前に掃除したろか?」

「あ、今掃除が終わりましたので大丈夫です」

「香取さんえらい早いなぁ。手馴れとるなぁ」

「いえそんな、褒めて頂くほどではありません」

そこに神通がひょいと顔を覗かせた。

「あの、この部屋用のカーペットがまだトラックにありますよ。掃除が終わるまで待つように伺いましたので・・」

「ああ忘れてました!先に入れなくては!申し訳ありませ~ん」

「いえいえ、大丈夫です。お持ちしますね」

龍驤と神通は顔を見合わせると、真っ赤になってる香取を見て微笑んだ。

香取は契約した家の掃除をテキパキと済ませ、家具の入れ方も効率的だった。

ただ、時折こうしたお茶目をやらかすので手戻りはあった。

それ以外がやたらと隙が無いので、やらかした時に恥じ入る姿が可愛いのである。

 

「ふう」

搬入が済んだリビングで、武蔵は椅子に腰掛けて小休止していた。

そこにテッドが声をかけた。

「よ、お疲れの所悪いが車の鍵貸してくれ」

「どうした?」

「そろそろ日が暮れるだろ。その前に飯の用意しとこうと思ってな」

「まだ食器とか買ってないだろう?外で済ませたらどうだ?」

「俺達はその方が良いが香取さんは明日からここでスタートだぜ?紙皿とか要るだろ」

「なるほどな。よし、私も行こう。9人分は一人で持ちきれまい」

「あーそうか、悪いな、手伝ってくれるか?」

「あぁ」

二人を乗せたダッジラムバンが出て行くと、庭から大和と時雨が出てきた。

「上手く二人きりに出来ましたね」

「そうだね。今日は家具とか家とかはゆっくり選ぶ時間がなかったからね」

「香取さんのペースがあんなに早いとは予想外でした」

「条件がかなり限られていたんだろうね」

「んー・・そう言われると・・」

大和は家の周りを一通り見ると、頷いた。

「確かにここは町の中心からさほど遠くないですし、襲撃されにくい場所です」

「うん。静かで治安も良い地区だよね」

「ワルキューレの勢力圏ですからね」

「香取さん、そこまで知ってたのかな?」

「龍田さんならそのくらいの事情を押さえていても不思議ではありません」

「・・そうだね」

「さて、じゃあもう一息頑張りましょうか」

「うん」

こうして大和と時雨は再び家の中に入って行ったのである。

 

 

 


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